岩本

 

「おにいちゃん髪のびたよね」

さっき膝枕で頭を撫でてて思った。

 

 

『あー、そろそろ切ろうかと思ってるんだけど』

 

 

「そういえばお兄ちゃんって昔から髪型あんま変わんないよね」

 

 

『なんとなくいつも同じ感じになるなあ』

 

 

「変えないの?」

 

 

『蓮加がそういうなら変えてみようかな』

 

 

「あっ!!

 だったら、蓮加が決めてもいい?」

 

 

『決める?別にいいけど』

 

 

「やった、うれしい!!」

これは彼女の特権だ。

 

 

「じゃあ、明日一緒に行こう!」

 

 

蓮加があまりにも嬉しそうなので、

受け入れる以外の選択肢はなかった。

 

 

 

「えっと、サイドは短めに・・・・

 前髪はちょっと重めにして・・・」

蓮加が美容師さんと楽しそうに話している。

 

今日は蓮加と美容室に来ている。

カットのオーダーは全部蓮加におまかせだ。

 

ちょっとだけ不安だったが、

蓮加が気に入ってくれるなら別にどんな髪型でもいいか。

 

 

「お兄ちゃんは安心して座っててね」

 

 

『はい・・』

 

 

 

 

「かわいい妹さんでうらやましいですね」

 

 

『あー、そう思いますよね・・・・』

 

 

美容師さんと話してて

久々に気づいた。

 

蓮加には昔からお兄ちゃんって呼ばれている。

付き合っても結局呼び方はそのままだな。

彼氏彼女のうちはいいとして・・・

 

結婚するとかなったらどうすんだろ。

さすがにお兄ちゃんは無いよなぁ。

 

って我ながら気が早いなあ。

 

 

 

「はい、おつかれさまでした」

そんなことを考えているうちに

終わったらしい。

 

 

『おぉー』

思わずうなってしまった。

髪型だけで大分雰囲気変わるんだな。

オシャレに仕上がった自分の髪に感動だ。

 

蓮加の反応は?

鏡越しに蓮加を探す。

 

 

ん?

 

なんかポケーっとしてるな・・・・

いまいちだった?

 

 

・・・・・・

 

 

「いいよ・・・・」

 

 

『えっ?』

 

 

「いいっ!!

 お兄ちゃんすごいいいよ!!」

 

 

『そう?』

 

 

「うんうん!!」

両手をぎゅっと握って

首を目一杯上下にふる蓮加がかわいい。

ずいぶん興奮してるように見える。

 

 

想像よりずっとかっこよくなって

すぐに反応できなかった。

こんなに雰囲気変わる?

 

お兄ちゃんのポテンシャルすごい!。

もともと大好きだけど

惚れ直してしまった。

 

 

 

「すごく似合っててかっこいいよ」

まっすぐなキラキラした目で言われた。

 

 

・・・・・・

 

 

『そこまで言われると照れるね』

そういって恥ずかしそうに頭をかく姿はかわいい。

 

 

優しくて

かっこよくて

かわいいって・・・

お兄ちゃん最強だ!!!

 

 

「うんうん、蓮加の好きな感じ」

帰り道、ニコニコしながらそう言って

オレの髪を確かめるように何度も触った。

 

こんな事でこんなに喜んでくれるんだ。

蓮加にまかせてよかったな。

 

 

お兄ちゃんかっこいいなー。

かっこよくなったのも嬉しいけど

全部蓮加にまかせてくれた事がすごく嬉しかった。

 

 

 

「あっ、珠美おはよ」

 

次の日、

校門の所で珠美を見つけて声をかける。

 

「あっ、蓮加おはよ・・・」

 

!!

「・・・・・先輩おはようございます」

 

 

『阪口さん、おはよう』

 

 

「えっと・・・髪切ったんですね・・・」

 

 

『うん、昨日蓮加と一緒に行ってね』

 

 

・・・・・・・

 

 

「ちょっ、ちょっと蓮加」

 

 

「えっ」

珠美に手を引かれ小声で話される。

 

「なんなの先輩、

 雰囲気変わりすぎじゃない?

 めちゃめちゃかっこよくなってない?」

 

 

「でしょ」

 

 

「蓮加がいなかったら気づかないレベルなんだけど」

 

 

「うんうん、わかる」

 

 

『蓮加。じゃあオレ先に行くね』

 

 

「うん、バイバーイ」

お兄ちゃんに気を使わせちゃったかな。

 

 

「さわやかの暴力・・・」

 

 

「蓮加もそう思う」

 

 

「・・・先輩あんなに首長かったんだ」

お兄ちゃんの後ろ姿を見ながら感心するように

珠美が言った

 

「そーなのよー。

 でも首んとこはくすぐったいみたいで

 あんまり触らせてくれないんだよ。ひどくない?」

口を膨らませて不満そうに言う。

 

 

「朝からそんなノロケ聞かせないで・・・」

 

 

「えー、いいじゃん」

 

 

「まああれはモテるわ・・・」

 

 

「えっ!!」

 

 

そういえば今日は朝から

なんか視線を感じるなあと思ってたけど。

 

お兄ちゃんへの視線だったのか・・・

学校でも当然そうなるわけで。

 

うーん、

そこまでは考えてなかったなあ。

 

お兄ちゃんの事好きな子が増えるのは困るなー・・・

 

 

 

「まあ、相変わらず仲いいみたいだし、

 大丈夫でしょ」

 

困ってるの顔に出てたかな。

珠美が私の不安を拭うように言ってくれた。

 

 

「うん、ありがとね」

 

 

「でもあんまり油断しないで、

 なるべく一緒にいるようにしなよ。

 ずっと大好きだった大事な人なんでしょ」

 

 

・・・・・・

 

 

「なに?」

 

 

「珠美ってさ、

 意外といいやつだよね」

 

 

「はあー!! 

 意外とって何ー!!」

 

 

珠美のおかげで不安がちょっと和らいだ気がする。

ありがとね。