時間厳守


JR脱線事故の原因ともなった過密ダイヤor時間厳守のプレッシャー。 たまたまこんな大事故が起きたから大きく採り上げられているが、こんな状況は今に始まったことではない。 長距離トラックに乗っていたときの経験でも、こんなスケジュールで事故を起こさないのが不思議だ、と感じたことなどいくらでもある。実際事故も起こしている。 でも背景にある運転手の労務管理や運賃体系の問題は運転手の過労・居眠り運転で片付けられてしまう。よほどの大事故でない限り。


特別な時間指定でもない限り長距離の荷降しは朝イチというのが決まり。 これは僕自身が経験したケースだけど、西神戸の工場から茨城県の東海村の原子力発電所まで配電盤を朝イチで着けるという仕事が時間的には一番きつい仕事だった。 配電盤は取り付けの順番があるので時間は絶対厳守、というプレッシャーがある。 その製品の出来上がりが遅れ、積み込みが終わったのが6時過ぎ。 阪神高速の渋滞で名神に乗ったのが8時前。 計算ではノンストップで行ってもギリギリ着くかどうか。 荷主は安全運転で、到着時間は厳守という勝手なことを要求する。


この時は途中から雨になった。絶対水に濡らせない荷物だから途中のパーキングに入ってはシートの確認作業。 後で思えばこれが眠気覚ましになった。 もし事故渋滞でも発生していたら物理的に遅延は避けられなかったが、どうにかそれもなく首都高を抜け常磐道に乗った。 水戸まで50kmの標識で張り詰めていた気持ちが緩んだ。 後続車のクラクションでふと我にかえる朦朧運転。 たぶん蛇行でもしていたんだろう。 水戸の手前でパーキングに入った。 仮眠をする時間もなく冷たい水で顔を洗って那珂のインターを降りたのが6時過ぎ。 不眠不休で着いた。無茶苦茶だ。


荷降しが終わる前に会社から連絡があった。 「荷主が 『荷物は着いているか』 問い合わせてきた」 そうだ。 「まだ荷物は降りていないが、原発の現場には着いている」 「仕上がり時間が遅れたからちゃんと着いているか荷主が心配している」 折り返し電話があった。 「さすがプロやなあ、と感心してたで。 それから帰りの荷物は土浦から出てるからそちらから電話して」  そうなんですよ、ねぎらいの言葉があるだけまし。もし事故でも起こしていて荷物が壊れていたら、大きな損害補償と、居眠り運転という汚名を背負うことになる。 そんな紙一重のせめぎあいが最前線の現場では毎日繰り広げられている。 運転士を責める気にはなれない。