渋井哲也『ルポ座間9人殺害事件』(光文社新書 2022年)
2017年、Twitterで自殺希望者を募り9名を殺害し、
さらに容疑者はその解体した遺体と暮らしていた、という事件が発覚した。
共犯がおらず9名も殺害していたということや、遺体と生活していたという猟奇性で世間に衝撃が走った。
20年くらい前から、ネットで一緒に自殺する人を募って見ず知らずの人と"心中"する事件は起きていた。
当時「自殺系」などと呼ばれたサイトやブログは規制が厳しくなり、下火になったように見えた。
しかしそれで、自殺願望のある人がいなくなるわけではない。
読んでいて気になったのは、当時報道で伝えられる被害者についての話と、
この本で浮き彫りになった実態が異なっているということ。
家族や友人の「自殺なんて信じられない」という声が取り上げられたが、
既に問題を抱えて危険な状況になっていて、だれも気が付かなかったのかもしれないと思う
(だからと言って被害者の周囲の人を責めることはできない。
意外とみんな周りの人の事をわかっているようでわかっていないから)
たとえば報道などでは「友人も多く学校でも優秀」「まじめな性格」などと報じられる。
しかし実際は、おそらく真面目であるがゆえに課題が提出できなかったり、
成績が振るわないことに悩み、親にもそれを叱責されるなどプレッシャーに感じていた。
仕事でも、真面目であるがゆえに抱え込んでしまったり、人とのトラブルに巻き込まれて悩む、
ということがあったという。
真面目な人であるが故の生きづらさが、周囲には理解されていないのではないかと思う。
今の時代、「真面目、従順、優しい」ということが美点にならず、
逆に悪意を持った人や要領のいい人に利用されることになりかねない。
氷河期以前なら真面目に大人の言うことを聞く優等生がよい大学に入りよい就職をできたかもしれないが、
今はある意味自分で勝ち取っていかないといけない時代になっている。
そういうことが就職に限らず全てにおいて求められていて、
人によっては生きづらかったり評価されにくくなっているのではないか。
若者の自殺は社会問題になっているが、こういうところにも理由があるのではないかと思う。