金曜から土曜にさしかかろうとするころ、東京に研修に行ってきたという友達が深夜零時、私の家までお土産を持ってきてくれた。限定のかわいい東京ばな奈に、何やら凝ったお菓子たち。30過ぎても、こんな気づかいを持った友達がいてくれるなんて有難いものねと思いながら、疲れて帰ってきたであろう友達を、こんな時間だというのに連れ回す。楽しい。
車を走らせていたら、お互いどちらからともなく漏れる「おなかすいた・・・」の声。
深夜2時、片田舎も国道沿いの目立たない場所にその店はあった。
表向きは食堂なんて看板を掲げているけど、実際、そこは飲み屋。
夕方から朝まであいているという、ド深夜の空気を漂わせる店。
もう何軒目なのだろうかという、出来上がった人たち。仕事あがりのフィリピーナに連れ立って、気質じゃないふうの初老の男。カウンターに一人、したたかに飲んだくれる一癖も二癖もありそうな男。聞けば常連で、週に一度はこの場所に訪れて、マスターと趣味の酒を酌み交わすのだという。その日は、出張帰りのその足で、新宿でやっていた沖縄の特産フェアの会場から、秘蔵の泡盛を調達して馳せ参じたのこと。本当に好きなのね。
カウンターに座った私たちは、この常連男と、新宿の話、沖縄の話、琉球ガラスの話、沖縄の墓はデカいだとか、あちらの人は目に見えない霊的なものに対する感性が素晴らしいだとか、土地柄、A級戦犯の墓がどうだのと、そんな飲み屋のカウンターにするのにうってつけな、他愛もない話をしながら、談笑していた。背後には、80年代、90年代のポップスがかかっていて、こんな雰囲気を自然と楽しめる年齢になって、私も年をずいぶん取ったものだなあと思った。でもそれは全然悪い気持ちじゃない。みんな、少しの皺と、せつない、という感情を携えてる。そういう年代。
口下手だけど女好きそうなマスターは、友達の気をひこうと、何とかして、いろいろ話しかけようとしていた。この子の愛くるしい見た目や他人を和ませる雰囲気、彼女が持つ総合的な魅力が、私はいつも羨ましいなあと思う。
七輪と、自分で焼くせせり、ハラミ。あとはごはんと味噌汁というとてもシンプルなメニュー。ごはんに少し添えられていた梅干しと山くらげ。まったくこんな時間にこんなものを食べて、これだからデブなんだな。でも、こんな時間に七輪で焼いて食べる肉の味は、それは格別でしょうよ。
帰り道、堤防沿いの道を走る。車を降りて、河原に続く芝生の道に少し寄って、綺麗な三日月が出ていたのを見た。うっすらと円形に見えるのは、地球照という現象なのよと、私は友達に知ったように言った。天体少女だった中学生の頃の記憶。地球の反射光で、月の欠けている部分が淡く光って見える現象をいいます。三日月前後によく見えます。なんて、細かい理屈は、知らないくせに丸暗記。
東の空には、中途半端にオリオン座が出てた。真夏のオリオン座がすきだ。冬の星座の代表格、でも、わたしのなかでは、真夏の夜明けの象徴。子供の頃、夜更かしをして、窓をあけたときに見えた、真夏のオリオン座に、罪悪感と秘密めいたドキドキの両方を感じた。
木曜日の夜は、見も知らない女の慟哭に、一晩中付き合った。曰く、2年前、”そんな男と別れて俺と付き合おうよ”と、6年付き合った甲斐性なしの彼氏を見限って自分を選んでほしいと自信気に言う男にほだされて、見事その毒にやられて付き合ったはいいけど、それは全然幸せな恋愛なんかじゃなく、まさに苦行だったのこと。付き合っていた二年の間にひたすら泣かされて、そこには愛なんてなくて、でも愛という幻想にしばられて、ワタシはもう子も持てずその愛を捨てたいのに捨てきれられず、苦しいの、もう40歳よ、と。
ワタシは彼を知っていたから、まぁね・・・彼はそんな男でしょうよ、と。でも、そんなゲス男にほだされて、振り回されるアナタの気持ちもわかります。愛ゆえに。情ゆえに。見限れないのね。暴走する母性。
午前零時にはじまった電話は、三時には、節度をもたなきゃねと、いったん終わったはずなのに、再度、彼女の感情はぶりかえし、結局、ワタシは一晩中の慟哭のあと、まぶしい朝日を拝んだ。時計は7時をまわってた。彼女は徹夜で仕事に行くという。そんな彼女のテンションは変わることなく、結局、日中、ずっとワタシはLINEで彼女のつらかった2年分の嘆きを吸い続けた。デブは魂の浄化作用にうってつけなのだろうか。寝不足でフラフラの頭と身体でそんなことを思った。そんなわけないだろう。とはいえ、明日は我が身かもしれないじゃない。そう考えたら、不思議と優しい気持ちになれる。この人をいい歳して判断力のない愚か者だと、嫌味な友人は優越感たっぷりに言うだろう。だからわたしはあの子がきらい。だいっきらい!!!
飲み屋に行った友達との別れ際、またふとそらを見たら、一筋、流れ星が見えた。
ハァー、この流れ星が、慟哭の中にいる彼女の希望となり、クソ男を捨てる勇気と、新しい未来を描く一筋の光明を授けたまへ。
優しすぎるの。純粋すぎるの。母性が強いの。ちょっと弱いところもあるの。だから食い物にされるの。許せない。でも一般的には、彼女も悪いって言う。判断力がないって。そんなの知らないよ。クソ男は死ね。
車を走らせていたら、お互いどちらからともなく漏れる「おなかすいた・・・」の声。
深夜2時、片田舎も国道沿いの目立たない場所にその店はあった。
表向きは食堂なんて看板を掲げているけど、実際、そこは飲み屋。
夕方から朝まであいているという、ド深夜の空気を漂わせる店。
もう何軒目なのだろうかという、出来上がった人たち。仕事あがりのフィリピーナに連れ立って、気質じゃないふうの初老の男。カウンターに一人、したたかに飲んだくれる一癖も二癖もありそうな男。聞けば常連で、週に一度はこの場所に訪れて、マスターと趣味の酒を酌み交わすのだという。その日は、出張帰りのその足で、新宿でやっていた沖縄の特産フェアの会場から、秘蔵の泡盛を調達して馳せ参じたのこと。本当に好きなのね。
カウンターに座った私たちは、この常連男と、新宿の話、沖縄の話、琉球ガラスの話、沖縄の墓はデカいだとか、あちらの人は目に見えない霊的なものに対する感性が素晴らしいだとか、土地柄、A級戦犯の墓がどうだのと、そんな飲み屋のカウンターにするのにうってつけな、他愛もない話をしながら、談笑していた。背後には、80年代、90年代のポップスがかかっていて、こんな雰囲気を自然と楽しめる年齢になって、私も年をずいぶん取ったものだなあと思った。でもそれは全然悪い気持ちじゃない。みんな、少しの皺と、せつない、という感情を携えてる。そういう年代。
口下手だけど女好きそうなマスターは、友達の気をひこうと、何とかして、いろいろ話しかけようとしていた。この子の愛くるしい見た目や他人を和ませる雰囲気、彼女が持つ総合的な魅力が、私はいつも羨ましいなあと思う。
七輪と、自分で焼くせせり、ハラミ。あとはごはんと味噌汁というとてもシンプルなメニュー。ごはんに少し添えられていた梅干しと山くらげ。まったくこんな時間にこんなものを食べて、これだからデブなんだな。でも、こんな時間に七輪で焼いて食べる肉の味は、それは格別でしょうよ。
帰り道、堤防沿いの道を走る。車を降りて、河原に続く芝生の道に少し寄って、綺麗な三日月が出ていたのを見た。うっすらと円形に見えるのは、地球照という現象なのよと、私は友達に知ったように言った。天体少女だった中学生の頃の記憶。地球の反射光で、月の欠けている部分が淡く光って見える現象をいいます。三日月前後によく見えます。なんて、細かい理屈は、知らないくせに丸暗記。
東の空には、中途半端にオリオン座が出てた。真夏のオリオン座がすきだ。冬の星座の代表格、でも、わたしのなかでは、真夏の夜明けの象徴。子供の頃、夜更かしをして、窓をあけたときに見えた、真夏のオリオン座に、罪悪感と秘密めいたドキドキの両方を感じた。
木曜日の夜は、見も知らない女の慟哭に、一晩中付き合った。曰く、2年前、”そんな男と別れて俺と付き合おうよ”と、6年付き合った甲斐性なしの彼氏を見限って自分を選んでほしいと自信気に言う男にほだされて、見事その毒にやられて付き合ったはいいけど、それは全然幸せな恋愛なんかじゃなく、まさに苦行だったのこと。付き合っていた二年の間にひたすら泣かされて、そこには愛なんてなくて、でも愛という幻想にしばられて、ワタシはもう子も持てずその愛を捨てたいのに捨てきれられず、苦しいの、もう40歳よ、と。
ワタシは彼を知っていたから、まぁね・・・彼はそんな男でしょうよ、と。でも、そんなゲス男にほだされて、振り回されるアナタの気持ちもわかります。愛ゆえに。情ゆえに。見限れないのね。暴走する母性。
午前零時にはじまった電話は、三時には、節度をもたなきゃねと、いったん終わったはずなのに、再度、彼女の感情はぶりかえし、結局、ワタシは一晩中の慟哭のあと、まぶしい朝日を拝んだ。時計は7時をまわってた。彼女は徹夜で仕事に行くという。そんな彼女のテンションは変わることなく、結局、日中、ずっとワタシはLINEで彼女のつらかった2年分の嘆きを吸い続けた。デブは魂の浄化作用にうってつけなのだろうか。寝不足でフラフラの頭と身体でそんなことを思った。そんなわけないだろう。とはいえ、明日は我が身かもしれないじゃない。そう考えたら、不思議と優しい気持ちになれる。この人をいい歳して判断力のない愚か者だと、嫌味な友人は優越感たっぷりに言うだろう。だからわたしはあの子がきらい。だいっきらい!!!
飲み屋に行った友達との別れ際、またふとそらを見たら、一筋、流れ星が見えた。
ハァー、この流れ星が、慟哭の中にいる彼女の希望となり、クソ男を捨てる勇気と、新しい未来を描く一筋の光明を授けたまへ。
優しすぎるの。純粋すぎるの。母性が強いの。ちょっと弱いところもあるの。だから食い物にされるの。許せない。でも一般的には、彼女も悪いって言う。判断力がないって。そんなの知らないよ。クソ男は死ね。












