ももクロ妄想小説
【中編】「Do you remember...?」
~集結セヨ。~
●主な登場人物
西条レイ:主人公。横浜市在住の小学六年生の男の子。チーム親方メンバー。
ケンヂ:レイの叔父。現在、東北に住んでいる。
ゼータ:体重7.5kgの宇宙ネコ。何かしらの能力を持つ。
大葉モモノスケ:小学六年生、あだ名はモモ。チーム親方のリーダー。
宍戸タマト:小学六年生、呼び名はタマト。チーム親方メンバー。百人一首、和歌に詳しい。
河上アキラ:小学六年生、あだ名はアキラッチョ。チーム親方メンバー。ダンスがうまい。
西条カコ:横浜市在住。レイの母親。ケンヂの姉。あだ名はカーコ。
大葉マリ:モモノスケとモモタの母親。元・謎のギャル集団「ヨコハマ・マックス」のリーダー?
宍戸ナツキ:タマトの母親。あだ名はナンシー。
河上フウコ:アキラの母親。あだ名はフーコ。HEAVENZのプロデューサーARINAは姉。
大葉モモタ:モモノスケの兄。全国高校総番長制覇の旅に出ている。
HEAVENZ:4人組の人気アイドルグループ、2年ぶりに新国立競技場で復活ライブを行う。
千田かんな:HEAVENZのリーダー。担当カラーは赤。アスリートと結婚後、出産・子育てのため育休中。
遠藤しおん:HEAVENZメンバー。担当カラーは黄色。独身。女優兼モデル、バラエティータレントとしても活躍。
渡辺ありさ:HEAVENZメンバー。担当カラーはピンク。既婚、夫は専業主夫。ソロアイドル、女優、モデル、手話番組、アイドルプロデューサーとしても活躍。
高田れな:HEAVENZメンバー。担当カラーは紫。冒険家と電撃結婚し、新婚旅行で世界中を冒険後、冒険記「れなちゃんの奇妙な冒険」を出版。現在、不定期放送のゲリララジオ番組「パンチDEハッピー」のパーソナリティーを務める。年に1回、ソロコンを開催。
ナオミ:ケンヂの恋人。行方不明?
ベルカ:ケンヂがレイにあげたスピッツ系の雑種(メス犬)。レイの命の恩人。
ARINA:HEAVENZのプロデューサー。アキラの伯母。
●第4章
8/21午前5:45、ボクたちは出発の日を迎えた。
この日までゼータはゼータを捜している謎の組織に見つからないようおじさんの家に引きこもっていた。今ではハンガーヌンチャクを完璧にマスターしている。たまに外出する時は普通のネコのフリをしていた。
ゼータのツノは80%再生していた。
「よーし、みんな集合したか?じゃあ出欠とるぞ。出欠取ります、アーユーレディ番号!」
「1!」「2!」「3!」「4!」「ニャッ!」「ウーイェイ!」
「最低限の荷物だけ持って後は車に積み込めー。忘れ物はないか確認しろよ」
「ケンヂ君、これ、全員分のライブの招待チケット。無くても関係者入り口で名前を言えば入れるんだけど。紙のチケットがあった方が記念になっていいでしょ?あなたがまとめて持ってて」
「ありがとうございます。フーコさん」
フーコさんはアキラチョのママだ。そしてそのお姉さんのARINAさんがHEAVENZのプロデューサー。おじさんがもらったライブのチケットを見ると『来れんのか?HEAVENZ RESTART 集結セヨ。@新国立競技場』と書いてあった。
「やってやるって」タマトがそう言うと、アキラッチョが「時はきた、それだけだ」と言ったので、ボクはこらえきれず吹き出した。
「いいのよ。じゃあ現地でね。子供たちのこと頼んだわよ。ライブが終わったらメンバーにも会わせてもらえることになってるから」
「えっ?本当ですか?」
「やったー!!」
「ケンヂ、これフルーツ。適当に食べて。あと前から言われてた「SID」の1stアルバムね」とタマトのお母さんのナンシーさんがクーラーボックスとCDを渡した。ナンシーさんは昔パンクバンド「SID」のボーカルだったらしい。
「オマエら、気合い入れて行ってこい!モモノスケ、これ持って行かなきゃだろ」マリさんがモモに「チーム親方」の旗をデザインしたステッカーを手渡した。ステッカーは赤、黄色、ピンク、紫の4色で文字がデコってあった。
ママとは電話で話した。「毎晩安否確認のメールをしなさい」と言われた。
午前6時、ヘルメットを被っていざ出発!
モモ、タマト、アキラッチョのマウンテンバイクにはこの日のためにカゴがつけられていた。ボクのママチャリのカゴにはHEAVENZのグッズのキャップを被ったゼータが乗っている。
ボクたちはマリさんからもらった「親方ステッカー」をカゴに貼り付けた。おじさんの車の後ろにマリさんがステッカーを貼るのが見えた。
モモ、タマト、アキラッチョ、そしてボクの順番で縦一列になって走り出した。おじさんはその後ろから車でついてくる。今の時間帯は車も少ない。車が多くなってきたらおじさんは先に行って駐車できる場所でボクらを待つことになっている。
今回の遠征は1時間走って休憩を繰り返す。1日のノルマは40㎞、時速10㎞で走って4時間、休憩込みだと5時間くらいだろうか。午前6時に出発して午前11時にはノルマ達成。そう考えると決して無謀な計画ではないと思う。走る続けると1時間はあっという間だった。この辺はみんなで来たことがある。まだ疲れていないので水分補給してすぐに出発した。
早朝の海岸線は磯の香りと波の音、キラキラした水面、そして何より風が気持ちいい。初日は予定通り11時に40㎞のノルマを達成した。近くに海水浴場があったので、みんなで海水浴をした。日焼けしないよう日焼け止めクリームを塗りあって、ナンシーさんからもらったフルーツを食べた。ゼータはパイナップルを食べた後、海には入らず砂浜で寝ていた。おじさんは少しだけ泳いだ後は、ナンシーさんからもらったCDを聴いていた。午後2時頃まで遊び、少し先にある健康センターまで行った。この日はトータル50㎞。さすがに海水浴をした後は体が重かった。健康センターでお風呂に入って少し昼寝をして、みんなでUNOをやって、ママにメールを送って午後8時には寝た。
本日の走破距離50㎞
新国立競技場まで残り190㎞
8/22午前6時起床。6時半出発
足に筋肉痛が少しあって、腕も日焼けでちょっとヒリヒリしている。
日焼け止めを入念に塗った。今日もずっと海岸線沿いのようだ。ゼータは時々「調子はどうだ」と聞いてくる。「大丈夫」と答えるとカゴの中で眠った。
「よく眠れるな」と言うと「オレは浮いているようなもんだから、振動は伝わらない」と目をつぶったまま答えた。確かにゼータの重みは感じない。ゼータの体重は7.5kgあるらしいから、もし重さを感じたら結構大変だ。
途中でボクのママチャリがパンクした。自転車屋さんが見つからなくて、ホームセンターまで行って直してもらった。アイスを食べ、昨日の残っていたフルーツを全部食べた。昼に食べたネギトロ丼がおいしかった。
今日はみんな昨日の疲労が残っているのか多く休憩を取り40㎞のノルマを達成したところで早目に健康センターで休むことになった。
それにしてもこんなに健康センターっていろんなところにあるんだ。
みんなでお風呂に入ってさっぱりした後、おじさんの車の中でHEAVENZのライブDVDを見てテンションをあげた。
ずっと気になっていたみんながHEAVENZメンバーを好きになったきっかけを聞いた。モモは「かんな」さんが主演した映画「十二国記」のアクションシーンがカッコよくて好きになったとのこと。タマトは「しおん」さんのモデルの時のクールな表情とテレビ番組での親しみやすさのギャップにやられたらしい。元々アイドル好きだったアキラッチョは、伯母さんがHEAVENZのメンバーに会わせてくれた時に「ありさ」さんが「好き」って手話を教えてくれたのがきっかけらしい。ちなみにアキラッチョは「ありさ」さんの結婚式に出席している。
なお、おじさんはれなちゃんの「トンパチ」なところが好きらしい。
「それでレイは結局誰が一番好きなんだ?」
「うーん、誰か一人は選べないかなー。みんな同じように好きなんだ。みんなほど詳しくないからかもしれないけど」
「じゃあ、レイは箱推しだ」
「うん、そう、そう。ライブを見たら気持ちが変わるのか、それも楽しみ」
「レイの感想が楽しみだ」
話が落ち着いたところで健康センターに戻ろうとすると、おもむろにゼータが『オレはー』と話し始めた。
『オレはやっぱりれなちゃんだな。彼女のダンスはいいよ。うん、いい!』
「わかってるねえ」おじさんはうれしそうにゼータにクーラーボックスで冷やしていたチョコレートを渡した。ゼータはムシャムシャ、チョコを食べながら『ダンスだけじゃなくて歌声もいいしな、彼女は宇宙でも通用する』と力説していた。
本日の走破距離40㎞
新国立競技場まで残り150㎞
8/23午前6時起床。6時半出発
昨日の夜、おじさんとゼータは、しばらくれなちゃんの話で盛り上がっていたらしい。基本的にゼータは健康センターに入れない。だから夜はおじさんの車の中で過ごしている。本人は別に気にしないと言っていたけど、ボクだったら寂しいな。
おじさんの話だと今日から少しずつ海岸線を離れ内陸の方の道になるらしい。途中、大きな海浜公園があったので寄ることにした。
びっくりした。ボクだけじゃなくみんなもびっくりしていた。公園は広大でいろんな種類の花が咲き乱れていたし、公園内を移動する汽車風の乗り物も走っていた。遊園地もあったので観覧車に乗った。ゼータは観覧車に乗るのが初めてだと言ってめっちゃはしゃいでいた。
観覧車の一番高いところでおじさんは「しばらく海とはお別れだから目に焼き付けておけよ」と言った。最高の眺めだった。
おじさんがバーベキュー施設を予約してくれていたのでお昼はバーベキューをした。ボクはバーベキューが初めてだった。
「昔は砂浜でバーベキューできたんだけどな」おじさんがポツリと言った。今は勝手にできないらしい。
結局、海浜公園を満喫したので20㎞しか進まなかったが、おじさんは「今日は楽しむ日だ」と言って気にしていない様子だった。
この日はもうひとついいことがあった。泊るところが健康センターじゃなくて道の駅の宿泊施設だったのだ。全員で1部屋、もちろんゼータも一緒だ。
フロントからDVDプレイヤーを借りてきて部屋のテレビに繋いでHEAVENZのライブDVDを見た。誰のここがいいとか、ここの歌詞がどうだとか、みんなでベッドに寝っ転がりながら話をするのは楽しかった。
モモの話ではモモの兄ちゃんのモモタが九州、四国、中国、近畿、中部地方を制覇して、南関東に入り、今日神奈川県を制覇したらしい。残りは南関東の1都2県。新国立競技場のライブ会場で会えるかもしれない。モモの兄ちゃん、どんな人なんだろう。会うのが楽しみだ。
今夜はみんなと一緒でゼータも楽しそうだった。
モモタ、神奈川県制覇
本日の走破距離20㎞
新国立競技場まで残り130㎞
8/24午前6時起床。6時半出発
3日間で110㎞、若干予定より遅れてはいるけど、充実した3日間を過ごしたので気分はいい。みんなのテンションも上がっている。海はしばらく見れないと言われたけど、大きな湖が見えてきた。どう見ても海に見えるが湖らしい。道沿いに畑や果樹園が目立つ。先頭を行くモモが自転車を停めておじいさんに何か話しかけていた。
「モモ、どうしたの?」
「ここでスイカ作ってるんだって」
「オメエら、ずいぶん遠くから来たんだってな。少し休んでスイカでも食ってげ」
ボクらは遠慮せず、スイカを食べさせてもらった。ついでにトマトも食べさせてもらった。どっちも甘くておいしかった。
お礼にスイカの収穫を手伝った。お土産にスイカをひと玉もらったので、おじさんの車に積んだ。
おじいさんに別れを告げて、しばらく走っていると急に黒い雲が現われ土砂降りになった、ゲリラ豪雨だ。近くにコンビニがあったので雨宿りすることにした。気象情報を見るとまだしばらく降り続けるようだ。ゼータはおじさんの車に逃げ込んでいる。ボクたちも一旦車に避難することにした。するとちょうどそこにさっきのスイカをくれたおじいさんが軽トラで現れ、車の窓を開け声をかけてきた。
「オメエら、今日どごに泊まんだ?」
「どうするか、迷ってるところなんですよ」
「じゃあ、うじに泊まれ。自転車、こごに置がせでもらって。車でついでこい」
そういうとおじいさんは軽トラで走り出した。おじさんの車で追いかけていくと、すぐに大きな家の前で停まった。
「こごだ。ほれ入れ」
家に入ると、おばあさんにお風呂をすすめられた。みんなで次々に入り、お風呂からあがると、夕食が用意されていた。
山菜の天ぷらや煮物、そして野菜がたっぷり入ったカレーが出てきた。みんなでおいしく食べたが、ゼータはグミを食べていた。
「なんかいろいろありがとうございます」
「気にすんな。子供たちも出でって、ばあさんと2人だがら。にぎやがなほうがいいしなー」
ボクたちの遠征話をおじいさん、おばあさんはうれしそうに聞いてくれた。雨はいつの間にかやんでいた。ボクたちは早く寝たが、おじさんはおじいさんと遅くまでお酒を飲んでいたようだ。
おじさんはおじさんでこの遠征を楽しんでいるらしい。よかった。
モモタ、千葉県制覇
本日の走破距離30㎞
新国立競技場まで残り100㎞
8/25午前6時起床。6時半出発
「お世話になりましたー」みんなでお礼を言うと、おばあさんがおにぎりをくれた。予定より大分遅れたので、今日は頑張らないといけない。
自転車を置かせてもらったコンビニに戻り出発しようとするとゼータが『ちょっと待て』とストップをかけた。
「なんだよ」
ゼータは首輪についているツノを額に取り付けた。ゼータのツノは90%再生していた。不思議そうに見ているボクたちにゼータは『ほら、そこに並んで座れ』と言い、順番にヒザの辺りにツノを押し当てた。
ツノがポワーンとやさしく光るとヒザが温かくなった。
『よし、オッケー、次』そんな感じでみんなの処置を終えた。
「おお、体中の痛みや疲れがとれた気がする。体が軽い」
「ゼータ、オマエそんな能力隠していたのかよ」
『前に言ったろう。連れて行けばいろいろ役に立つって』
今日最低50㎞走らないといけないのが不安だったけどこれでいけそうだ。
「ゼータ、もう力は使えるのか?」
『まだ完全ではないけどな。ただ怖いのは雨だな…』ゼータはネジ式のツノを外しながら答えた。
「行くぞー!」
「オー!」
みんなで勢いよく走り出した。
しばらくすると、コンビニの陰に停まっていた黒塗りの車がゆっくり現れた。車の中の男が「ターゲット発見しました」と報告していた。
この日50㎞走破したボクたちは、インターネットカフェを見つけそこに泊まることにした。みんなそれぞれ好きな漫画の本を読んで初めてのインターネットカフェを満喫した。アキラッチョは何度もサービスのアイスをおかわりしていた。
いつまでもこの時間が続けばいいのに…
モモタ、埼玉県制覇
本日の走破距離50㎞
新国立競技場まで残り50㎞
●第5章
『午前6時になりました!お久しぶりです!神出鬼没のレディオビーナス・高田れなの不定期ゲリララジオ「パンチDEハッピー」、
一人しか聴いていないんじゃないかと私の中で話題のこの番組ですが、まずはリクエストから。ラジオネーム・ほろ酔天使さん…ありがたいんですけど、これなんなんですかね。この人からのリクエスト以外スタッフさんが隠してるの?それとも誰もリクエストしないドッキリなの?みんなーリクエストして下さーい!
失礼、取り乱しました。それではほろ酔天使さんのリクエストでZONEの「SECRET BASE~君がくれたもの~」です。次、他の人からリクエストがこなかったら10年後の8月まで番組休みます』
君と夏の終わり将来の夢
大きな希望忘れない
10年後の8月また出会えるのを信じて
最高の思い出を…
8/26午前6時起床。6時半出発
いよいよ、長かった道のりも今日が最後。今夜ホテルに到着すれば、明日から2日間ライブだ。
ゼータのお陰でみんな体調はいい。残り50㎞もいけそうだ。
モモの兄ちゃん、残り東京都だけってことは新国立競技場で会えるじゃん。どんな強さなんだよ。
ただ、心配なのは天気だ。天気予報では今日の夕方から天候が崩れるらしい。昨日の夜、ゼータが「オレは水が苦手で、雨だとオレの能力は発動できない」ってさらっと言ってたけど、なかなかの衝撃発言だった。言われてみればシャワーもお風呂にも入ってなかったし、海にも入らなかった。ゲリラ豪雨の時もすぐおじさんの車に逃げ込んでたもんな。なんとか天気もって欲しいな。
出発したものの、今までとは違って車の数が桁違いだ。さすがにおじさんは先に行って待ってもらうしかない。ただ、ゼータがナビ能力を持っているので迷うことは無い。おじさんのいる場所がわかるらしい。都内が近づいてきてからはボクが先頭を走っている。
「ゼータ、オマエのツノ明日には完全再生しそうだな」
『そうだな。そうしたらオレの本当の能力見せてやるよ』
「本当の能力?まだ隠してる能力があるの?そっかー、楽しみにしてるよ。ところでライブが終わったら、他の星に旅に出るの?」
『それはその時になってみないとわからないな。一度ケンと話さなくちゃいけないし』
「ゼータ、ボクのところに来ない?ボク、ベルカって犬を飼っていたんだけど…」
『ああ、聞いてるよ。ありがとうな、そう言ってくれて。次の交差点、左ー』
しばらく走っていると天気が急激に怪しくなってきた。予報より早い。
ザーッ!
「ヒャー!やべぇやべぇ」後ろからモモたちの声が聞こえる。
『レイ、ちょっと急いでくれ』
「わかった」
自転車をこぐスピードをあげ、おじさんの待機している場所を目指した。ゼータは毛布を被っていたけど、雨に濡れてなんだかグッタリし始めた。
「マズいな」
左折し車の少ない道路に出た。おじさんのいる場所はもうすぐだ。
その時、スーッと脇に黒い影が近づいてきた。
ん、なんだ?
車の窓が開き、手が伸びてきてカゴの中のゼータを持ち上げた。
「ゼータ!」
ボクは叫び、ゼータをつかもうと右手を伸ばした。
ゼータのしっぽに指先が触れたが、ゼータは車の中に連れ込まれてしまった。
黒塗りの車はスピードをあげ走り去った。
ボクはバランスを崩し転倒してしまった。
ガッシャーン!
キッ、キーッ!
「レイ、大丈夫か!?」
右肩と右腕に、そして頭に激しい痛みを感じた。
「アキラッチョ!ケンヂ先生に電話!タマト!車のナンバー!」
モモが大声で指示する声が聞こえた。
「ケンヂ先生!ゼータが連れ去られた!黒塗りの車!ナンバーは…」
「621!車はそっちに向かってる。レイがケガした!」タマトが叫んだ。
人の話し声、雨音、車のドアが閉まる音、いろんな音がしている。右肩と右足と頭が熱い。救急車のサイレンが聞こえた。
そこでボクは意識を失った。
ゼータ…。
目を覚ますとママが椅子に座っていた。
「ママ…ここは?」
ママに声をかけると「レイ!よかった…。ここは病院よ」と言いながら、毛布の上からボクの体をさすった。
「レイ…」おじさんもいた。
「おじさん、ゼータが…」そう言うとおじさんはアゴを窓の方に向けた。
ボクが視線を移すと椅子の上にゼータがちょこんと座っていた。
「ママ、みんなに連絡してくるわね」そう言ってママが病室を出て行った。
『よう、悪かったな、オレのせいで』
「無事だったの?」
『ああ。オレは無事だ。それよりオマエは大丈夫か?』
「右肩と右足が痛いかな。あと頭も」
「骨折はしてないそうだ。打撲だって」
「みんなはどこ?」
「モモの兄ちゃんがホテルに連れて行った」
「モモの兄ちゃん?なんで?いったい何があったの?」
ボクがそう言うとおじさんはゼータがさらわれた後の顛末を教えてくれた。
ゼータがさらわれたと連絡を受けた時、おじさんはコンビニでボクたちを待っていた。
その連絡を受ける少し前、そのコンビニでおじさんは特攻服を着たモモの兄ちゃんのモモタに偶然会ったという。
モモの兄ちゃんは、昨日埼玉県を制覇して、今日東京に来たものの、東京の番長とは明日タイマンの予定だったので、どうしようかと考えながらブラブラしていた。雨が降り始め、雨宿りするためにコンビニに寄ると駐車場におじさんの車があるのを発見した。
「同じ車はいっぱいあるじゃん。なんでおじさんの車だってわかったの?」
「これだよ、これ」おじさんは「チーム親方」のステッカーをヒラヒラさせた。
「マリさんがこれを車の後ろに貼っていたんだ。オレもチームの一員だからって」
モモの兄ちゃんは、モモとのやりとりで、ステッカーのこと、ボクたちも今日都内に入ることを聞いていたから、どこかですれ違うかもと気にして歩いていたらしい。
案の定、車に近づくとおじさんがいたので、お互いに再会を喜んでいたという。モモの兄ちゃんのことをボクたちに連絡しようとしたその時にゼータの件で連絡があって、黒塗りの車がこっちに向かっていることを知った。
モモの兄ちゃんは道路に向かってダッシュをして、目の前を通る黒塗りの車のナンバーを確認して飛び蹴りをくらわした…ということらしい。
車から出てきた2人の男をモモの兄ちゃんはぶっ飛ばし、ゼータを救出。ボクは救急車で病院に運ばれ、みんなはコンビニに自転車を置いて、おじさんの車で病院に。ボクの自転車はモモの兄ちゃんがコンビニに運んでくれたという。謎の男たちは車に乗って姿を消してしまった。病院へ向かう車の中でママに連絡して、ママが駆けつけた、そういうことらしい。
「モモの兄ちゃん、すごいね」
「アイツはバケモンだ。間違いなくマリさんの血を引いてる」
「ゼータ、体調はどう?」
『人の心配する前に自分の心配をしろよ。大分雨に濡れちまったんで今日はまだ無理だが、明日には能力が回復するから、そうしたらオマエのこと治してやるよ』
「ゼータ、ケガも治せるの?」
『言ったろ?本当の能力見せてやるって』
「じゃあ、明日のライブは行けるのかな?」
「レイ、明日のライブは諦めろ。オマエ、頭打っているから明日また脳波の検査するって」
「さっきゼータが治してくれるって言ったじゃん」
「そうだとしてもだ。ライブは明後日見ればいいだろう?」
『レイ、そうしろ。オレの能力も万能じゃないから、検査は受けた方がいい』
「明日はオレがオマエにずっとついててやるから」
「いいよ。それじゃおじさんもライブ見れないじゃん」
「レイが巻き込まれたのはオレの責任だ。黒塗りの車のことをちゃんと話して注意するように言うべきだった」
「あらあら、どうしたの?みんなには連絡したわよ。あとすぐ先生が来るから」
病院の先生はボクの様子を確かめて、明日の午後、改めて脳波の検査をすると言って病室から出て行った。
「ケンヂ、いろいろありがとね。あなたも疲れたでしょう。ネコちゃん連れてホテルに戻って今日は寝なさい。あとは私がついてるから」
「いや、オレがついてる」
「ケンヂ…そうわかったわ。じゃあ、あんたに任せるわ。明日の朝、来るからよろしくね」ママはそう言って帰った。
モモタ、謎の男2人撃破
本日の走破距離40㎞
新国立競技場まで残り10㎞
その日夢を見た。今度は空を飛んでいた。遠くに花火の火花が見える。額にはやっぱりツノが生えている、そして背中には…。「こっちよ」と誰かに呼ばれているような気がして花火の方に向かった。4色の花火が上がり、続いて白い花火があがった。あそこに行かなくちゃいけない、そう強く感じた。近づくにつれて花火が大きくなってきた。いつの間にかボクは花火が破裂する中にいた。周囲で花火がいくつも破裂している。見とれていると全身に痛みが走りそこで目覚めた。「ケンヂ!」誰かがおじさんを呼んでいる声がした。
●第6章
8/27 HEAVENZのライブday1当日
「おっ、起きたか。体の痛みはどうだ?」おじさんが話しかけてきた。
「全身が痛い」
「痛み止めが切れたのかもな。ゼータ、準備はいいか?」
『オッケー、全開バリバリだぜ』ゼータはそう言いながら、完全再生したツノを装備し始めた。
「ねえ、おじさん、ツノが生えてるのってペガサスとユニコーン、どっちだっけ?」
「ペガサスは天馬、ユニコーンが一角獣だからユニコーンだな」
「じゃあ、ユニコーンか。ユニコーン・ゼータ」
『ほう、レイはユニコーンを知っていたのか。オレの先祖はユニコーンだ』
「えーっ!?それは噓でしょ」
「あながち嘘じゃないかもな。ユニコーンには治癒能力があったらしいから」
『さあ、始めるぞ。レイ、ベッドの脇に座れるか?』
おじさんに手伝ってもらいベッドの横に座ると、ツノを装備したゼータがボクのヒザにツノを押しあてた。ポワーンとツノが光り、ヒザを中心に全身が温かくなった。右肩の痛みも右足の痛みも無くなった、そして頭痛も。
「痛みが無くなった!ありがとう、ゼータ!」
『まあ、こんなもんよ』
ちょうどそこに朝食が運ばれてきた。ボクのお腹が「グー」と鳴った。
そういや、ずっとなにも食べてなかった。朝食を食べ終わった頃、ママがやってきた。
「レイ、痛みはどう?ケンヂ。はい、あんたの朝食。あとそっちのネコちゃんにはチョコ」
「ママ、もう痛みはないよ。あとこのネコはゼータっていうんだよ。ユニコーンの子孫なんだ」
「へー、そうなの?ゼータはユニコーンの子孫だから変わってるのね。グミとチョコとパイナップルしか食べないなんて」
「ママ、ゼータはウニも食べるよ」
ママは「電話してくる」と言って出て行った。
ママの話ではみんながこの後、お見舞いに来てくれる。モモの兄ちゃんは東京の番長をぶっ飛ばして全国制覇をしてからライブに行くと言って出かけたみたいだ。
窓の外は快晴。でも天気予報では夕方に一時的に雨が降るところがあるみたいだ。ライブの開始時間は午後5時、天気はもつのかな。
午後になり脳波の検査をした。結果は「異状なし」だった。でももう一日入院することになった。肩や足のケガは治ったと言ったが信じてもらえなかった。
検査から病室に戻ると、モモたちがお見舞いに来ていた。ホテルからタクシーで来たらしい。
モモは会うなり「ごめん、オレがリーダーなのに。オレがゼータを乗せて先頭行けばよかった」と言った。
するとおじさんが「モモのせいじゃない。悪いのは襲ったアイツらだ。そしてヤツらのことをちゃんと説明しなかったオレの責任だ」と言った。
アキラッチョが「レイ、今日のライブ、やっぱり行けないの?」
「うん、退院は明日だって。もうなんともないのに…でも明日は行けるよ」
「そっかー。せっかくここまでみんなで頑張ってきたのに」
モモたちはコンビニに自転車を取りに行ってホテルに戻ることになった。おじさんがモモたちをコンビニまで送りに行った。
病室にはボクとママ、そしてゼータだけだ。
「ママ、今日のライブに行っちゃダメ?」
「何度言ったらわかるの?今日はダメ。明日なら行ってもいい。残念だけど我慢しなさい」
「もう、治ったんだよ。ゼータに治してもらったんだ。だから大丈夫なんだよ。脳波も異常なかったじゃん」
「レイ、どうしたの」
何を言ってもママは取り合ってくれなかった。ボクはふてくされてベッドに横になった。
しばらくしておじさんが戻ってきた。
「ずいぶん時間かかったわね」
「うん、レイの自転車を修理して病院まで運んできた。レイ、どうせなら明日は自転車でライブに行こう。モモたちも今日のライブはホテルから自転車で会場まで行くって言ってたよ」
「ケンヂ、なにバカなこと言ってるの?また事故にあったらどうするの?アンタの車で行けばいいでしょう?」
「姉ちゃん、そういうことじゃないんだ。ここまで頑張ったんだから、最後まで完走させてあげて欲しい。オレも一緒に自転車でサポートするから。そのための自転車も準備してある」
「まったくしょうがないわね。わかったわ。くれぐれも安全にね」
「やったー。ところでママはライブ行ってきなよ。ボクにはおじさんがついてるし、ゼータもいるから」
「なに言ってるの。アンタを置いて行けるわけないでしょ」
沈黙を嫌ったおじさんがラジオをつけた。
『午後3時になりました!神出鬼没のレディオビーナス・高田れなの不定期ゲリララジオ「パンチDEハッピー」、とうとうこの日がやってきました。今日8/27は私たちHEAVENZの2年ぶりの復活ライブ『来れんのか?HEAVENZ RESTART 集結セヨ。@新国立競技場』の当日です。今日このラジオが放送されたということは…そうです。他の人からリクエストが届いたんですー。もしかして放送されていないんじゃないかと疑っていたんですが大丈夫だったようです。今日ライブなのに大丈夫かって?それは問題ありません。
リハは終わりましたから。入場待機してる人たちにも聴いて欲しいですね。では早速リクエストを読みたいと思います。えーと…ラジオネームは、フェニックス・ナオミさんからです。「れなさん、こんにちはー。毎回欠かさず聴いています。早速ですがれなさんに質問です。れなさんは天国ってあると思いますか?私はあると思っています。私は自分なりに全力で悔いのない生き方をしてきました。でもうまくいかなかったことも多くありました。天国に行けるかどうかを結果で判断されたら私は天国に行けないかもしれません。
でも神様が過程を見てくれていたなら天国に行けそうな気がします」というお便りでした。私も天国はあると思っていますよ。
天国に行ける基準って何なんでしょうね?でもナオミさんの言うように目の前のことを全力でやるしかないですよね。そうすれば多少の足踏みすることはあっても最後は天国にたどりつけるのではないでしょうか?あっ、そもそも私たちのグループ名がHEAVENZですからね。私たちのライブに来れば天国に来たも同然ですよ。ナオミさん、素敵なお便りありがとうございました。
そしてHEAVENZのライブに来て下さい。ではフェニックス・ナオミさんのリクエストで大森靖子さんの「流星ヘブン」をお聴き下さい。みんなーライブで会おうね!合言葉は「集結セヨ。」』
生きる方を選んでく 生きるほうを選んでく
“ヘブン” 私 流星“ヘブン”
私の魂みてください
誰かのためにだなんかに 死ぬことなんて許さない
口パクで愛してるなんて 誰でもいいならここに居て
都合よく好きな一瞬を 永遠にされるのが怖い
君が他界したあとも 私の命は続く
おじさんとゼータが驚いた表情で顔を見合わせている。
「ナオミ…なのか?」
その言葉にゼータはうなずいた。
「生きているのか?」
ゼータは首を横に振り、自分の胸に手をあてた。
※【後編】に続く
