それからしばらくの間、音信不通(学校内ではたまにみかけていた)の状態が続いていたが、いよいよ国体が始まり、流川は開催県である山口に行ってしまっていた。
1週間近く流川を見ることすらできない。
花道はイライラよりも、なんだか悲しい気持ちになってきていた。
いつも通り部活を終え、アパートに戻った花道は居間代わりにしている六畳の和室に大の字で寝転がる。
時計を見れば午後七時半。
(アイツ・・・何やってんかな)
ここ数日、花道の思考は流川のことでいっぱいだった。
花道も、見た目はちょっと怖いが普通の恋する15才の男の子なのだ。
不安になって、ちょっとばかし弱気になったりもする。
「くそ~・・・ 何でオレがアイツのことでこんなに悩まなきゃなんねぇんだよ・・・」
一人呟きながら天井の木目をぼんやりと眺めていた。
気がつくと、時計はすでに八時半を過ぎていた。
(メシ・・・作んねぇとな)
そう思いながらも体は動かない。
畳の上に投げ出していたケータイをとり、開いてみる。
電話帳から流川のデータを呼び出す。
(どうせ、出ねぇよな・・・)
心の中で呟きながら、発信ボタンを押した。
何度目かの呼出音の後に聞こえてきたのは無機質な留守電のメッセージ。
『ただ今電話に出ることは出来ません。御用の方は・・・』
「クソっ。用なんかねぇんだよ」
留守電のメッセージに無意味な不満を告げる。
ただ声が聞きたい。
花道はその一心で、何度も何度も電話をかけ続けた。
何度目かの呼び出しで、不意に呼び出し音が止んだ。
「ルカワ!?」
思わず、大声で名前を呼んでしまう。
「は~い。こちら神奈川の天才バスケット美少年、流川楓君のケータイでぇす!!今カレはお風呂に入りにいってるよん。御用はこの仙道君が承りますが、キミはだーれ?」
電話口からは、明らかに流川とは違うノーテンキな声。
「テメー、仙道。何でテメーが流川のケータイに出やがんだ!!」
「ん?その声は桜木か?」
「質問に答えろ!仙道」
花道はグルグルと吼えそうな勢いで怒鳴りまくる。
「そんな大声出さなくても聞こえてるよ。流川とは同室なんだよ。なんかさっきから何度もケータイがなってたから、今の流川の状況を教えてあげようと思って電話に出ただけだよ」
仙道は、宥めるように(半分は面白がっているが・・・)優しい口調で花道に言った。
「ってか桜木と流川ってケータイでやり取りするほど仲良かったんだぁ。ちょっと意外だなぁ」
「べっ、別に仲良しってわけじゃねぇぞ!ちょっと用事があって電話しただけであって・・・」
「そうなんだ。じゃあオレが流川に伝えておいてやるよ。何の用事だ?」
「てっ、テメーには言えねぇ用事だ!湘北の秘密事項なんだよ!!」
「そっかぁ。じゃあどーしよグフゥ」
「ん?なんだ?」
電話口から聞こえてきた奇妙な声。そのあと、ドカッ!バキッ!とずいぶん猟奇的な音が立て続けに聞こえてきた。
「ダレだ・・・」
「ぬ?ルカワか?オレだ。天才バスケットマン桜木花道様だ!!」
「どあほう、誰が天才だ。で?何か用かよ」
「ぬ・・・別に用はねぇけど・・・。」
花道は言葉に詰まってしまった。
本当に用事はない。どう答えるべきか迷っていると、携帯電話から意外な言葉が聞こえてきた。
「すぐかけ直す。ちょっと待ってろ」
そう言うと、流川はさっさと通話を切ってしまっていた。