今日は手が空いてビルの1階の不動産会社を覗きます。
ここの社長は前の私の会社の常務でついつい昔話に話が咲きます。
もう会社はすべて営業に出ていて受付の女の子だけです。
「女専務も?」
彼女も元私の会社の社員です。
「ああ、今日は大坂城の近くのマンションの見学会で社員を5人連れて行ってますわ」
と言いながらコーヒーを入れてくれます。
「どうですか体は?」
私は前の私の会社清算で急性胃潰瘍で救急車で運ばれて、その病院で膀胱がんが発見されて・・・ついには腎不全となりとのことを言っているのです。
「まあ、顧問の立場での働きぐらいは何とかなあ」
一度は引退していたのですがこれも私の会社にいたOさんが建てたこの会社に呼んでもらったのです。
「いっちょかみ娘もいっちょまいになりましたなあ。この前はテレビで講演を見ましたよ」
「またこれで講演病になってもらっても困るのだがな」
私もOさんもしばらく講演病で現場が見えなくなった時期がありました。
成功話も失敗話も本当もことは語られていません。
本当の秘訣はなかなか本人も気づいていない場合多いようです。
私も今になって反省することしきりです。
「ボスはいつまで?引退するならうちに来てくださいよ」
「いや、歩いてこれる間は来るつもりだよ。それに上場も検討し始めたからな」
これは難問中の難問です。
あと何年頑張れるかな!?
私は話していると昔から自分の考えを反復する癖があります。
これに付いてはいっちょかみ娘や社員には都度朝会で話しています。
自分の言葉を他人の目で噛みしめることです。
- 前ページ
- 次ページ
ようやく蕁麻疹が治まりましたが今度は低血圧で眩暈がします。
始めてベランダで栽培したアイスプラントをサラダで食べました。
今朝は眩暈を恐れて地下鉄で会社に出かけました。
「今日は顔色がよくありませんね?」
社長のいっちょかみ娘が窓際の私の席にコーヒーを運んできます。
私はここに来なければ今は隠居で家で寝たり起きたりの生活をしていたと思います。
「今日は営業は?」
「アポキャンで・・・」
彼女が社長室にいるのは珍しいことです。
「これ時々考えるのですが、会員制の副職の今の仕事ってこれからも続けて行けるものですか?」
「昔からこの手の仕事は悪徳商法なんて呼ばれて困ったことが多かったな」
もう30年も前の創業の頃のことですが今でも変わらないようです。
「同業にはそういう会社も多かったが、新しい働き方として頑張っていた社長も多かったなあ。すでに副業から上場してネットで頑張っている社長も空調のシニアの専門の社長もいる。それで私も上場を考えたのだがなあ」
「真一文字君も上場を考えているのもそうだからかしら?でも私の会社もできるかな?」
「この仕事も同業が増えたりITの利用で利益が取れなくなったりしているだろ?まず利益の取れる仕事を開発することだ。例えば今東京でしている地域情報地図などは面白い」
「確かに上場予定会社とコラボして駐車場ドットコムに店舗のホームページをセットするのは40%の利益が取れますからね。それに全国展開で会員を使えるこちらの特質が生かせるし」
「これはITだけでは出来ないところだし、大会社とは競合しないですねえ」
私はこういう時はじっくりといっちょかみ娘と話し合います。
孤独な社長にはこういう会話で自分の足元や目指すところを見詰めることができるのです。
「私も真剣に上場を考えてみます」
いつまで私が助けれるか分からないですけど頑張ってみます。
その夜夢の中で上場を目指した日を反省も含めて悪夢として見ました。
あれから30年が経とうとしています。
蕁麻疹の薬を飲みながら何とか春を迎えたようです。
当社の社長のいっちょかみ娘はまだ決算は行きついた結果だと思っています。
無事に決算を終えて専務と久しぶりに居酒屋でお疲れさんしました。
この会社はほとんど専務が一人で決算作業をします。
それで彼は何度も私に確認を求めてきます。
私の時代は営業の先頭を走り会社に戻ると深夜まで資金繰りに頭を悩ませていました。
「昔に君みたいな経理担当役員がいたら楽だったのになあ」
「よくやられていたと思いますよ」
どうしても営業をしていると資金繰りは後手になり毎度冷や汗の連続でした。
「難しいのは会員の支払いですね?」
昔は資金がないので末締めの2か月後支払い余力がありましたが、今はこの業界自体が末締め翌月払いとなり資金ショートが発生しやすいのです。
「銀行の状態は?」
「5銀行で短期資金の余裕は3500万ですが、最近の仕事量ではこれでは厳しくなっています」
「早急に長期資金を3000万借り入れを」
常に専務は銀行を回り借り入れ交渉をしています。
「いよいよだな」
これはもう1年も前から2人で考えてきたことです。
「3社の証券会社と2行の銀行を選んで」
これは考えてきたことです。
「まずは1億程度調達しよう。その前に幹部会議を開くのだ」
この先には上場と言う選択もあります。
そのためにはしっかり社員同士が理解しないと大変なことになります。
その夜昔の夢でうなされました。
あの頃はやはり資金繰りばかりを考えて遠い展望がなかったように思います。
それで暇つぶしで今の会社の分析をしてみました。
それで東京から戻って来ている真一文字君といっちょかみ娘を連れて久しぶりに通天閣に来ました。
私は昔からここに来ると萩之茶屋まで足を延ばして馴染の店に行きます。
「去年はトンと顔を見せんやったな!」
と昔は娘だったおかんが私の肩を叩きます。
そうですここは前の会社から歩いてこれたので社員が常連にしていたのです。
今の会社では黒の魔術師やぷーちゃんやいっちょかみ娘等が常連です。
「ボス新年に会社の健康診断をしたそうですね?」
真一文字君は今や営業のトップです。
「今年は難しい年になるぞ」
「でも売り上げも利益も右肩上がりになってるのに?」
「いや会員を使った副業事業も私が初めて20年になるよ。初めは詐欺とも見られた時期もあり今や何とか事業となっているが…」
「その話はよく聞きますが」
「今度はITとの戦いになってくる」
「それはそうだわ。アンケートの同業のアンケートの会社は大半が潰れているものね」
「アナログとITのコラボだけが生き残る」
「その通りです。今元気な部門はそこだけですから」
「昔は間取り図面が主流だったが今やもう3年前に引き上げたしな」
「一度すべての仕事を見直してみます」
「そうだな。会社も寿命があるからな。今の好調なうちに種をしっかり撒こう」
久しぶりに懐かしくなって渥美半島にいる黒の魔術師にスマホを入れました。
彼女も今や従業員を5人抱える農家レストランとファームの経営者です。
それと古い話ができる数少ない友人です。
今年はあっという間に年末が来たと言う感じです。
くりぽっちと言う言葉があるようですが珍しくいっちょかみ娘と京都に同行営業で飲むことになりました。
「クリスマスイブだが行くところはないのか?」
「残念ながら・・・たまには付き合ってください。社長にしたボスの責任ですよ」
彼女は来年には26歳になります。
そう言われて賑やかな河原町通から路地を抜けて裏寺町通に入ります。
もうここに来るのも15年ぶりになります。
暖簾を潜ると立ち飲みの席の隙間を抜けて奥の椅子のある部屋に入ります。
大学時代のおばあちゃんがすでに3代目になっていて微かにあの時の・・・。
いっちょかみ娘はワインから今はお酒にはまっているようです。
「Y社長からボスが昔私のような若い社長を育てたと?」
昔の話は今や当時常務だったYさんしか知らない話です。
「ああ、彼女は創業の頃19歳で入社し26歳で社長になった」
「私と同じなんですね!」
「ああ、社長になった時ここの店に来たなあ」
「Y社長も詳しい話はしたがらなかったです」
そうです。思い出したくない話の一つです。
8年かかって育てたのに・・・。
私は大きな事件の後急性胃炎で入院し・・・。
「私はボスを追い出すことは絶対しません!」
どうやら話は聞いていたようです。
もう育てると言うことは一生しないだろうと思っていましたがいっちょかみ娘を育ってしまいました。
「悪酔いしてもいいですよ」
「もうすでに悪酔いしている」
人間は同じことを繰り返すようです。
でもいっちょかみ娘だけは繰り返してほしくない私です。
珍しく不動産会社のY社長から飲み会のお誘いです。
彼は元私の会社の常務で古いことを知っている数少ない戦友です。
現在は堺の現場に出かけていて会うこともなくなっていたのですが。
「珍しい北新地だな?」
新地通りから入った細い路地でこの辺りはほとんど来たことがありません。
「いえ取引先に連れて来てもらったんですが珍しい子にあったのですわ」
Yさんは昔から接待専門ですが飲む方かもう一つなのです。
古いビルに入って手帳を見ながらエレベーターのボタンを押しています。
「2度目ですからな」
頭を掻きながら廊下に出て店の名前を確認しています。
恐る恐る押すと細長いカウンターに客が1人です。
「約束守ったで!」
その声でカウンターから顔が覗く。
「まさか君か?」
「私も始めて見た時は驚きましたわ」
「お化けみたいですこと」
と言ったのは前の会社の同僚から頼まれて採用したちょっと悔やまれた採用でした。
「あれから20年は経つのに相変わらずめんこいな。結構みんなが狙っていたからな」
そういう私もちょっと危うい気持ちがあったようです。
小悪魔的に声をかけられて社員が飲みに行っていたのは知っていました。
「どうして消えちゃったのかい?」
彼女は入社6か月でぷいっと来なくなったのです。
「今だから話しますが私はあのボスの同僚と不倫をしてこちらの会社に。なのにあの時の課長覚えています?」
「ああ、使い込みをして首になった?」
「子供ができたちゃったのです」
おお!まさにその時に昔と全く変わらない女の子がドアから入ってきます。
「この子です。でも彼とも別れて今は3人目・・・」
思わぬ出会いがあるものです。
私は社長でその頃は資金繰りで走っていました。
会社にあまりかわいい子を採用するなそういう格言を聞いたことがあります。
真一文字君は西日本の会員センターを回って7日後に東京に戻ったようです。
最近は昔よりも増して副業が怪しくなっているようです。
彼は嘆きながらも雄たけびを上げています。
いっちょかみ娘の社長は入れ替えに東京に出かけています。
彼女がいないと部屋はまるで森のようです。
こういう日は専務が上がってきて喫茶店で会合です。
「真一文字君の話聞きましたか?」
「いや、一緒に久しぶりに飲んだけど?」
「遂に愛の告白をしたのですよ」
真一文字君と西郷どんがマドンナのシーちゃんに恋している話はもう5年も前からの有名な話です。
「でどうなった?」
「予想通り振られましたよ」
「だろうな。シーちゃんは可愛い子だが男だからな」
シーちゃんは今は料理家の社長のテレビ番組を引き継いで有名人です。
テーブルに立派な料理本を専務が置きます。
「これは家内から見せられたのですが相当な売れ行きだそうですよ」
「ああ知っているよ。それで来月から民放でコーナーを持つのだ」
これはシーちゃんからあの日聞いていました。
田舎で農村レストランをやっていた下地がこれから花が咲くのだと思います。
「うちの女の子はどうなんだ?」
「社長を筆頭に結婚しませんな。女子は現在36名いますが平均年齢は28歳誰も結婚してませんよ」
私の頃はシングルマザーが5人、そのほかの独身の女の子は平均年齢は23歳でした。
「一度お見合いの会でもしますかな?」
昔は私は梁山泊と称して若い社員と度々会社の机を囲んで飲み会をしていました。
でも今も昔も女性が強い会社でした。
昨夜遅くまで真一文字君の調査報告を呼んでいました。
今朝の大川はもう寒くすでにユリカモメが並んでいます。
彼らを見るともう冬がやってくるのだと思います。
真一文字君はOさんの関西事業への参画が決まり夕方まで大阪支店で打ち合わせをして、夜には懐かしい靭公園のレストランを予約しています。
「手が空いているか?」
社長のいっちょかみ娘に声をかけると彼女は昔のように椅子を滑らせて窓際のテーブルに来ます。
私は真一文字君の調査報告をコピーし赤線を入れて渡します。
「やはり予想通り8カ月走ってみて売り上げの半分をOさんの下請けになっちゃいましたね?」
「彼の予想通りだった。だがその予想をして仕事の整理をして何とかリスク回避が見えてきたようだな?」
真一文字君はOさんの事業の片手間に全国の会員センターを走り続けてきました。
「センターの半分の不採算事業をなくしたようですね?」
「もちろんOさんの仕事を入れるためだが、各センターが持つ面白い仕事を逆に強化した」
「この面白仕事ベストテンですね。スーパーの値段を即日にアップするって仕事になるのですね?」
「これは参加業者から結構な広告費が貰える。実は社員でこの調査をしている3分の1以下で3倍上の効果が出ている」
「利益率も高いですね?45%もありますよ」
「これは新しいことが得意な札幌支部だ。面白いのはこの調査を同時にネットで消費者にも送っている。社長としてはどうする?」
「各センターに賞を出します。それから企画部で全国展開を」
打ち合わせが熱を帯びてくると日が暮れるのもあっという間です。
「ボス遅いですよ」
すでに東京から来た真一文字君と私がサプライズで呼んでいたシーちゃんが飲んでいます。
二人が会うのはもう1年半ぶりです。
シーちゃんは再びテレビの料理番組に戻り、真一文字君は営業の先頭を走る営業本部長です。
二人はまるで幼馴染のようです。
まだ飲むという二人を置いて私はふらふら夜道を楽しみます。
私は残念ながらがむしゃらに走り過ぎてこういう時間を作れませんでした。
ここ3年前からここにも2本3本と彼岸花が咲き始めていました。
今年は何と群生しています。
Oさんが半年ぶりに来阪しています。
それで社長のいっちょかみ娘を入れて3人でコーヒーを飲みながら今後の相談です。
忙しい時こそトップ同士の話し合いは必要です。
「上場は順調なのかい?」
「ええ、今度は2度目の挑戦ですからね。もう後はないですよ」
「私は1度きりの挑戦で会社を潰してしまったからな」
もう20年も前のことでOさんはその時は若いシステム部長でしたが、上場の前に独立で退社していました。
「大変でしたね?でも分かるような気がします。あの頃の上場はちょっと狂気にも似たところがありますから」
ITバブルと言われた時代です。
「私も前回は大手の力を頼り過ぎて手前に内紛を起こしてしまって」
「止める勇気が凄かったな。いっちょかみ娘もそのところはまだ危ないからな」
「私は昔から猪突猛進ガールですからね」
「いやOさんも当時は大変なものだったさ」
「そうでしたよ。あの頃は講演の依頼を受け天狗になっていて、ボスの制止も聞かずに上場予定の会社の役員なんかになって」
「へえ!初めて聞きました」
「結局パンダみたいなことばかりして会社は上場倒産してしまい振出しに戻ってしまいましたよ」
「いや私は君に拾ってもらい、いい席に座らしてもらった」
顧問と言う席は私にはピッタリです。
「今度は自前の社員で固めたから安心だろう?」
「ボスにはいろいろ迷惑のかけっぱなしで」
今この会社にいる専務もシステム部長もOさんの片腕だったのです。
「私はボスの社訓で上場はしませんから」
今考えるに私は社長には向いていなかったと思います。
支えるのが向いていたようです。
大きな事業に当たった時このような事態が長らく続きます。
もちろん売り上げが伸びて利益も上がります。
こういう時は銀行が資金を申し込んできます。
今日は私の発案で早帰り日としました。
でも幹部は屋上のパラソルで陽が陰り始めた7時からビアガーデンです。
まずは乾杯です。
「ボス、専務から聞いたのですがOさんの時もやったと?」
社長のいっちょかみ娘が口にビールの泡を付けて聞きます。
「いや、私がこのことをやるのは昔の辛い失敗があるからだよ」
もう20年ほど前のことです。
創業して初めて大口の仕事依頼があり主力会員も育っておらず8か月後納品トラブルだらけで契約破棄になったのです。
「私も心配でいろいろ調査をしてみました」
専務が自分の調べた内容を詳しく話します。
「今回資金を掛けているのでシステムは心配いりませんよ」
システム部長とインド娘が笑っています。
「資金も手当てしたので」
専務も頷きます。
「今回は全体の売り上げ比率だよ。社長はどれほどになるか予想したことがあるのか?」
いっちょかみ娘が首を傾げていると他部長が手を上げます。
「1年後はこの事業の単独の売り上げが5割を超します」
「そうなんだ。完全にOさんの会社の子会社化する。もし彼が失敗したらこちらも倒産するぞ」{/sos/}
「事業整理をする。それから柱の売り上げを再強化して5割以内にとどめる」
「社長としてしっかり真一文字君と話し合ってレポートを出してくれ」
若い会社だから・・・。
こうした時のちょっとした息抜きは必要です。
私の時代は私が先頭を走り振り向く余裕もなかったのです。
夜家に帰ると真一文字君の「任せてください!」メールが届いていました。