彼岸の入りに、季節はずれの花が咲いた。

去年、かの人を偲んで蒔いた1年草。
1株だけ生き残り、冬を越し、
背丈も伸びて、大きめのつぼみをつけた。

生命力。かの人はここにいる。


近所の家で、白梅が咲く。

わたしは、他人の家で留守番をする。

ご主人様の言いつけは、庭の水やりと部屋の掃除かけ。

枯れた草木の鉢に、水をやる。
ドボドボ、ジョボジョボ。
土の中でまだ何かが生きてるかもしれぬ。

100はあるのか、鉢。
ジョウロは重たく、身体にこたえる。

ご主人様が帰ってくる音がする。
身を硬くする。

ゆうべ男に愚痴ってみた。


愚痴ってもよいか。うまく説明できないけれどよいか。

あらかじめ念を押す。


男はすこし機嫌がよいようで、ノープロブレムといった顔をする。


きょうね、仕事のメールが2通きて、内容を読んでも送った人の意図がわからず、ついついかっとしてしまう。どうすればいい? いつもならかっときたまま、返信MAILを書いちゃうけど、きょうはまずはスルーし考える時間を作っているところ。


回答は、以下のごとし。

おまえの前には変な筒がある。その筒を通して物事を見たり、聞いたりしていないか。

それをなくしてしまえ。なくしてからそのメールを読め。

男は言い終えると、やれやれと、しかし機嫌はそれほど悪くなく、布団部屋へ消えていった。

おまえのいうとおりだ、おかしいよ、変だよ、おまえは悪くない、いい女だよ、と言って欲しかったのかな? どうだろう? 


筒。筒ね。


私の前にもやもやと、私のアタマの上にどっしりと、口元にうじゃうじゃっと。眉間にうごうごと。確かにある。


男が去ったあとも、わたしはそのままスパイダーソリティアをやり続ける。