月読の塔でルナと出会って。
手にかけたルガーは転生した。
しかしケヴィンはどこか元気がなかった。シャルロットはその事に気づいていた。彼女の頬は、死を喰らう男にぶたれ赤くなっている。デュランは冷やしておけよ、とタオルをくれたのでそこまで腫れはしなかったが、容赦の強さでぶたれた頬は
痛々しい。これを見た光の司祭がどんなリアクションをとるか、想像したくない、とデュランは思うほどだ。
「ケヴィン?どこ行くんだ?」
「湖にいる。先に寝てて」
出ていったケヴィンを見てデュランはなんとも言えない顔をし、シャルロットはなんだか落ち着かない様子だった。
ー月明かりに溜まる陽光ー
夕ご飯をミントスで食べて、明日に備えて就寝する。明けることがない夜の中、デュランはスっと眠りについた。野営の間、夜の番をしているデュランは宿屋で寝るとなると早くに寝ていた。シャルロットも寝付きはいいほうですぅ…と寝息をたてていたが、今夜はどうも違うらしい。元気がないケヴィンの顔が頭から離れない。
「(ルガーってじゅーじんのことできっとおちこんでるでち!)」
ルガーはシャルロット達との戦いに敗れ、その命の灯火は消えそうになったところで、月の精霊ルナの力で赤ん坊に転生し森の中に消えていった。その時は笑って見送ったケヴィンだったが、ミントスに戻る頃にはすっかり活気がなくなっていたのだ。
「(たしか…みずうみにいてるはずでち)」
シャルロットはそっと宿を抜け出す。フェアリーも眠りについていたがシャルロットが動き出したので半場眠たい様子でシャルロットを見守る。そしてそんな様子をはぁ…と溜息をつきながら夜の番で微かな物音でも敏感に反応してしまうデュランが起きて、もぬけの殻となったベットを眺めていた。
「あ!いたでち!!!ケヴィンしゃーん!」
ミントスにある大きなみずうみの前で、ケヴィンは水面を眺めていたのをシャルロットは見つけた。ケヴィンはシャルロットの声に気づいて軽く手を振る。
「どうした?眠れない?」
「あんたしゃんのふぬけたかおがきになったでちよ」
「そ、そんなかおしてた?」
「みなもにうつるかおをみてみるでちよ…」
ケヴィンは言われた通りに水面に映る顔を見る。すっかり元気がないのが自分でもわかる。ケヴィンはそんな自分の顔を見てパシャンと水面を手で弾いた。
「どーしたんでち…?」
シャルロットは色々と考えた上で聞いた。ケヴィンはチビウルフカールを生き返らせたいと聖都ウェンデルに来た。その事を聞いた時、シャルロットは内心、不可能だと言いかけた。祖父である光の司祭が言う前に、どこかのタイミングで言えた。でも言えなかった…ケヴィンの期待に満ちた目を見ていると、シャルロットは言えなかったのだ。今のケヴィンのような状態になるだろうと、想像しての事だった。
「うん…オイラ、何も守れてない…」
ケヴィンが拳をグッと握りしめ、少し震えている。シャルロットはそんなケヴィンの様子を見て、無意識にお祈りをする時の仕草をしてしまう。ケヴィンがシャルロットの身長に合わせてひざまつくと、死を喰らう男にぶたれたシャルロットの頬をそっと触れた。シャルロットは優しいその手に触れ、ケヴィンにそんなことないよ、とか言えたらいいのに、こういう時になかなか正直な気持ちを言えないのは、なぜなのだろう。
優しいその手が震えている。
ケヴィンは、カールを失った時から自分で出来るなら守れるものは守りたいと、強くなろうとデュランと手合わせをしたり、先手必勝とケヴィンは戦闘においても真っ先に敵に向かっていった。それはデュランが守りながらも戦うことに慣れていることや、フットワークが軽いケヴィンが動けば戦略は大きく変わる。しかし、ルガーとの戦いの時、ケヴィンは感情的になっていた。ルガーと戦う前に、死を喰らう男と対峙したときに、シャルロットがヒースをさらった男だと近づいて、シャルロットは思い切りぶたれたのだ。ケヴィンも拘束魔法で動けず、デュランは警戒して構えていたが咄嗟に動けなかったのだ。
ケヴィンはシャルロットまで失ったら…と、ルガーとの戦いの時に感情が昂り、冷静さを失っていた。デュランが馬鹿野郎!と大声を上げたことで冷静さを取り戻したケヴィンは無事ルガーに勝利できた。ルナと契約が終わった後、ケヴィンはシャルロットの痛々しい頬の赤みを見て、ゾッとしたのだ。
「シャルロット、痛くないか?」
心の底から心配した声と表情。シャルロットはまだほんのり痛いがだいじょーぶでち!と笑って見せた。
ケヴィンはそんなシャルロットの笑顔を見て。少しずつ距離を詰めて、頬に軽くキスをした。
「ど!?どこでおぼえたんでちか!?」
顔を真っ赤にしたシャルロットの顔を見るとケヴィンは少し悪戯したそうな、さっきとは打って変わって元気そうだった。シャルロットはしんぱいしてそんしたでち!!、とぷうと頬をふくらませたがそれが原因かチクリと痛みが走る。ケヴィンはそっとシャルロットを抱き寄せた。シャルロットはあぁ…今は、甘えたいのだと諦めた様子でその身を任せた。
「ありゃ一体どうすればいいんだ…」
物陰から覗くデュランはやれやれと宿へ戻った。シャルロット同様、甘えたいんだな、と思いながら。
「(まさかあれ以上のことはないだろ、うん)」
数時間後。
「いつまでこうしてるでち…?」
「(シャルロットふわふわ…)もうすこし…」
ケヴィンがフォルセナ図書館で何やら必死に読んでいた本のことをデュランは思い出した。あれは女児の間で人気の絵本だ。正直、子供向けなのだがシャルロットが相手なら、とデュランは止めなかったのだ。
「(あぁでも、あの絵本ウェンディがうっとりしながら何度も読んでくれってせがんでたから男としては間違ってないと思うぜ、ケヴィン)」
デュランは安心したかのようにまた眠りについた。2人は子供ではないので子守りまではいらないだろうとの判断だ。
「(あの本、多分子供向け…)」
「ちょっとあの、ケヴィンしゃん…」
困った様子のシャルロットを見て。ケヴィンはなんだか良くない気持ちを抱いてしまいそうになったが我慢だ。デュランが思うほどケヴィンは子供ではない。その事に気づくのはもうすこし先の話…。
-あとがき-
ピクシブからの移動作品その②!これはちょっと自分の中でも書きたかったお話だったのでかけてうれしかったこと、Twitterでも反応が良かったことを記憶してます。このお話はゲームプレイしてた時から「いつか形にしたい」という野望がございました。私の中ではシャルロットが主人公で、仲間がケヴィン、デュランと続くので小説書いてるとしたらこのパーティばかりになりがちです(^^;)まぁ実際プレイして触れたのも大きいけど一番好きなパーティなのでまたこの三人で描けたらいいなぁと思っております。