小さな、それはとても小さな宴席だったと思う。
長四角、カステラの箱みたいな、コンクリートの椅子。俺やショウはそれに座って、エイトとケンヤは地面に座った。
コンビニの駐車場、深夜25時。だれも来ない超VIPなパーティ会場だった。皆で好きな物(とは言ってもコンビニに売っている物しか手に入らないが)を買ってきて、仕事ぶりを振り返る。
みんな、今日はイケてない。あの可愛いことで全国的に有名(であってもおかしくない)エイトの顔も、今日は不細工だ。
長かった闘争が一つ、幕を下ろした。
星空の下、俺はこうこう、こういう行動に出た、といった報告会もした。
エイトの数分前に刻まれた武勇伝を聞いているとき、寒風にさらされたポテチを口に運んだ。芋で出来た円盤が、油で揚げられているという事実を忘れるくらい冷たくなっていたのを覚えている。
祝杯として四人揃って買ったコーラはめちゃくちゃにうまい。ぱはー!飲み終わりにそう言ってしまうくらいに、魔法のかかった美味しさを持っていた。
ケンヤはこれからもまだ勉強をするらしいことをほのめかす。
「きっと、人間は行動したかしなかったかだ」
イチローだって野球やるって思って野球やったんだろ?と続いた。
エイトが返す。
そうだな、野球やりたいと思って野球の練習したから、あんなにファンがいるんだもんな。
なんてエイトらしい発想だろうか。思わず口が緩みそうになる。
「アルカポネだってマフィアやるって言ってやったんだろ?」さらにケンヤは言った。
「そうだぜ?そんで実際実力持ったから、ちょっと移動するだけで警察も大量に動くことになったんだ、比喩的な意味で」
こちらも、ショウらしい(めんどくささを持った)切り返しで、鼻で笑いそうになった。
「だからおれは、革命を起こす為に勉強をするよ」
ケンヤは上を向いていた。月でも眺めていたんだろうか。ポソッと言ったのに、この発言の主らしい威厳が、横顔には宿っていた。
ショウが立ち上がった。
「じゃあ、おいらはもっと感動させられる手法でヤルっ」
エイトが、ショウの脚に抱きついた。
またぁ、とかは、思わなかった。今日は、それが自然の様に思えた。そうすることに、違和感は無かった。
昔ショウは言っていた。
今は得点低すぎるんだ。どっかで稼いどかないと、人生を遊んだって感じしないだろ?満塁ホームランで4点は低い。準備したなら100点位は入れとかないと。
前に見せてもらった画像のコと結婚することは、うちの数十点なのかもしれない。
「やってやらあ」
彼のスカジャンの怪力童子が、そのときは踊っている様に見えた。
エイトはどう思っているんだろうか。
「どこにいっても見ている」
聖母子のマリアを思わせる白くて綺麗な横顔を預け、頬擦りをした。
それだけに、全てが集約されてる気がした。
ケンヤがこちらに肩を向けた。
「どうすんだよ、お前はさ」
俺は暫く考えたけれど、これと言って答えは出なかった。そして「暫くかかる」と答えた。
「なんで?」ケンヤの問いに合わせて、皆の視線が一斉に俺に注がれる。
でも、言えることは至って普通のことだった。
「今楽しいからさ、それからのこと考える余裕なんてないんだわ」
一拍あって、みんな笑った。
ゲラゲラ笑い、ヒューヒュー言った。茶化したり、おどけてみたり、ふざけたり。
さっきまでのムードは吹っ飛んでいた。俺達らしいと、呆れてしまう。
それでも俺には自信があるのだ。一緒の種族だから思う。
今皆、絶対に人生楽しんでんな、って。
月は雲に隠れること無く、煌々と明かりを降り撒き続けた。
