お婆さんの家を久々に訪れた孫たちの里帰り。

親不在で楽しい夏休みのはずだった・・・

しかしそう単純明快にはいかなかった。

そこが長崎だったからだ。

お婆さんの戦争の話をきき、原爆の莫大な力に虚しさを覚える。

戦争が始まれば、殺し合いが日常なのだ・・・

そこでは誰も理性など持たない。

身の丈も知らず戦争に参加した時点であらゆる権利を捨てたのだ。

町が焼かれても、子供が焼け焦げて死んでも想定内なのだ。

孫たちは原爆投下の地点に行き、祖父と日本の死を感じた。

優しくて大好きなお婆さんの内に潜む傷はいくばくだろう・・。

誰もそれを察することはできなかった。

お婆さんの内側は今も焼けただれて、あの日に取り憑かれている。

黒澤監督の絵はさすがの迫力を感じる。

・中原 みすず原作

三億円強奪事件を軸にした恋の物語。

学生運動盛んな動乱の時代。

街は暴力が牛耳り、人々の疼きが退廃的な夜の世界をより際どくする。

貧しさを露呈する、六畳間のアパートの窓に差す光は悲しいグレイだ。

男と寝る女の裸体は色もくすみ整わず、垢抜けないあの時代のリアルに誘う。

女子高生のみすずは容姿端麗な少女だった。

口角の歪みは、彼女の乾いた怒りを暗示していた。

みすずは夜の街を出歩き、偶然バーに立ち寄り不良達と知合いになる。

その中に東大生の岸がいた。

二人は秘密を共有し、三億円の強奪にみごと成功した。

どんなに日々が痛々しくても、若さと恋心と運があれば何でもできる!

岸はバーでみすずと出会ったとき、「大人なんかになりたくない!」

とたんかを切った彼女に強烈に恋に落ちたと文庫本に残していた。

そしてそれを告げたら彼女の瞳を曇らせてしまうだろうと・・・

みずずは、岸と再会し一緒に暮らすことを痛切に願うだろう。

本能的な直感では、残酷だけど岸が行方不明のままが良い!

大作家・重松時子は毒物によって命を落とした。

晩年の作品は堕落し駄作が続いている。

時子は書けない苦痛に苛まれ、冷静さを欠いていった・・・

毎年彼女を悼む会に、5人の女たちが集まる。

それぞれが作家やライター、編集者など本にまつわる仕事だ。

時子の死の真相とは?

それに近づけば、最大限の好奇心で物書きのエゴが満たされる。

だから女たちは糾弾しあい、個々に時子との秘密を告白していく。

常人ならざる才能だからこそ、愛さえも無作為な悪意に染まる。

5人の女たちが垣間見せる、猛然たる恐ろしさ・・・

誰が時子を死へ誘ったのか?それは悪意?善意?愛?憎悪?

女優たちの演技は簡素かつ大胆で、加藤登紀子は特に凄みあり。

若き天才レオス・カラックス監督が魂をこめた作品。

消えゆきそうで不完全な人々の現実を生々しく描く。

パリ・ポンヌフ橋の上でアレックスは自分の寝床で眠るミシェルに出会う。

異彩な才能をもつ画家のミッシェルは目の病気を抱えていた。

アレックスは路上で生活する大道芸人。

二人の間に生まれた恋は、すぐに死んでいくものと思われた・・・

安酒を一気飲みしハイな二人に、大量の花火が一時の喜で満たす。

二人はポンヌフ橋で歪んで不完全な恋を謳歌した。

老人の垂れた尻、酔って男に殴られる女、川に飛び込む浮浪者・・・

汚くて目をそらしたくなる物を、愛でるように詩的に描いている。

パトリス・ルコント監督

偏屈な仕立て屋のイールは周囲と馴染めず孤独な毎日をおくる。

そんな彼の唯一の喜びは、美女アリスの部屋を覗くこと。

出来心で覗いた彼は、彼女の秘密を目撃してしまう。

そこから、彼はアリスへの愛と共に転げ落ちてゆく・・・

彼のたたずまいはハゲで背が低くてどこか微笑ましい。

本能的に愛せなと前提された男でも女は賛辞を甘んじて受ける。

虚栄心を満たしてくれる男に対価として女の中を泳がせるのだ。

アリスは女を総動員し、彼を愛の喜びで満たし翻弄する。

まるで食べない獲物を弄ぶ猫のようだ。

彼自身の屈託のない愛に満足し、悔いはなければ良いが。

ラストは観客の心臓を直にわし掴むような疼きで支配される。

映像・音楽・演出が秀逸で監督のこだわりを感じる。