家を飛び出す少し前の事を書き留めておく。

 

夏休みが明けた頃、娘は異常な行動をするようになった。

突然学区外のお祭りの役員とか生徒会の役員とか、とにかく次々に立候補する。

まあ、悪い事じゃないしと思っているとある日学校から連絡がきた。

暗い声で

「これから学校に来れますか?」

と言われればだれでも「ああ、悪い事なのか」くらいはわかる。

重い足で学校に行くと挨拶したのち会議室に案内され、開口一番で

「まずはリストカットの事ご存じですか?」

と言われ

「え?あの子そんな事してるんですか?」

と答えた。

娘がやって来てそれを見せられた私は絶句したのを覚えている。

理由はどんなに聞いても言わなかった。

ただ

「リストカットの事はもう聞かないで」

とだけ。

 

言いたいことはいろいろあったけど、その場は我慢して家に帰るとシレっとした顔で

いつも通りの娘に戻っていた。

その後もちゃんと勉強もし、成績も落とすことなく私はすっかり油断していた。

娘の心はこの頃からゆっくりと、真っ黒なもので覆われて行っていたのに。

私は気づくことができなかった。