木版画教室:初心者、入門者、独学者のなぜ?をなくす

木版画教室:初心者、入門者、独学者のなぜ?をなくす

木版画やってみたい。だけど近所に教室がない。独学してるけど、肝心なところがわからない。誰か教えて! そんな全国の木版画ファンのための教室、やっています。初心者・入門者・独学者の「壁」を打破して、もっと自由に木版画を楽しみましょう。

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木版画の初心者が、一番失敗する原因は、「さらい」にあります。

 

「さらい(浚い)」とは、図柄以外のスペースを凹に彫ること。

図柄が凸になるので凹のさらい部分には絵の具が付きません。


 

初心者の方も、イメージとしてはそのように彫ったはずなのに、

不要なさらい部分にも絵の具がついてしまって、

なんで綺麗に刷れないんだろう、と悩むことになります。

 

こうした図柄以外の部分につく汚れを「ケツオチ」と呼びます。

版木に用紙が乗った状態を断面図的にイメージしてみましょう。

 

図柄の部分は、図柄面の支えによって平らかです。

しかし、問題はさらいの凹の部分です。

 

湿らせた用紙は、さらいの凹の部分で支えがなくなってしまい、

紙の重さ自身で少し垂れ下がってしまいます。

この垂れ下がった紙の一番底の部分をお尻に見立てて「ケツ」

と呼ぶのです。

 

「ケツオチ」とは? すなわち、ケツが落ちてしまって

下の凹の部分の絵の具がついてしまったということですね。 

 

「ケツオチ」は、バレンに押さえられて用紙が下がる時にも起こります。



 

この「ケツオチ」のような汚れの原因は、彫り方にもあります。

初心者が100%やってしまうという、この図をよくみてください。

図柄から四方八方に彫り痕が残っています。

しかし、さらいの幅がほんの少ししかありませんね。

これでは、絵の具をつけるときの刷毛のコントロールが難しく、

さらいの外にまで絵の具がついたりして、それが汚れになります。

図柄から最低3センチ以上のさらい幅が必要です。

 

もっとよく見てみると、彫りと彫りの間に山のように凸部が残っている

のがわかりますね。この凸部についた絵の具が汚れになるのです。

この凸部は、整理彫りで平らに滑らかにしておく必要があります。

下の写真は極端にさらい幅を取っています。

ここまで幅広だと、今度は用紙自体が支えられなくなって「ケツオチ」します。

さらい幅は最低3センチあれば可。

 

 

たったこの二つのポイントを注意するだけで、刷りはグッと進歩します。

 

 

 

 

 

 

→前回からのつづき

 

こんにちは。

木版画教室「YUU235」、萬里(まさと)です。

 

前回の話「刷毛の【含み】の重要さ」について、

そのポイントはしっかり理解していただけました?か?

 

 

せっかくなので、私も頑張って説明サンプルを

作って見ました。

 

意図的に、小さい【小鳥】の図柄にしてあります。

 

              1                             2                           3                             4

 

初心者で独学の人は、ほぼ間違いなく

1のような彫り方をしています。

100%の人といって間違いありません。

 

 

■図柄の外の方まで刷毛が自由に動けること

これはどうやら、【小鳥】が彫れたら、

それで彫りはOKという感じですね。

 

そして、3のように小さな刷毛で、

図柄の上に乗せるように絵の具をつけていきます。

 

「図柄の上に乗せるように絵の具をつけていく」のも、

実はNGなのです。 エッ! なぜなの??

 

 

やってみるとすぐにわかりますが、

絵の具をつけて、さて筆を持ち上げると、

スッとその部分に絵の具が溜まって盛り上がります。

 

結果的に塗った絵の具にムラができていて、

刷り上げてみると、だまり刷りになっていたりするものです。

 

小さな刷毛は【含み】が安定しないので、

絵の具の乗せ付けの場合、余計にこのようになりがちです。

 

多くの初心者・独学者が、

何度刷ってもうまく刷れない!

と、この時点で悩んでいるはずです。

 

 

どんな彫り方になっているのか、

拡大的に見て見ましょう。

 

5、特徴:周りのさらい幅が1㎝ぐらい。斜めに彫ってあるだけでさらいが凸凹。

 

6、特徴:半径5㎝くらいの広いさらい幅。さらいの凸凹を滑らかに整理。

 

5、が初心者の典型的な例です。

少し刷毛を大きく動かすと、周りの彫りの凸凹の山に

絵の具がついて、それが刷った時のヨゴレになります。

 

何枚刷っても、きれいに刷れない。

その理由、わかるような気がしませんか?

 

もう少し、図柄の外まで刷毛が回せるように、

さらい幅を取りましょう。

 

 

■図柄の外、さらい部分で刷毛を上げよう

6、は5の写真の丸刷毛の大きさに合わせて、

半径5㎝ものさらい幅を取ってあります。

 

意図的にオーバーなサンプルにしました。

本当は、も少し小さな刷毛、小さな「さらい幅」でいいのですが・・・。

 

周りの「さらい」も、斜めに彫った後の凸凹の山を

整理彫りして、滑らかな低地状に彫ってあります。

 

丸刷毛に絵の具を含ませて刷ると、

図柄がすっぽり隠れてしまいます。

 

刷毛を回転させながら、

調整された刷毛の【含み】で絵の具をつけ、

最後に片側に毛先をならして図柄の外で刷毛を持ち上げます。

 

こうすると、一定の【含み】で

平均に絵の具がつくので、

刷り上がりも均一に刷れます。

 

「さらい」のヨゴレもでません。

 

 

ただし、こんなに極端にさらい幅をとると、

版木が何枚あっても足りなくなります。

 

また、大きな用紙に小さな図柄を

「ポチッ」と刷る感じになり、紙も無駄遣いになります。

 

かといって小さな用紙を使うと、

図柄以外に用紙を支える場所がなくて、

用紙の端の方が「さらい」に垂れ下がってしまって、

これはこれでヨゴレが出てしまいます。

 

 

■兼ね合い(版木、用紙、作業の合理化)

そんな訳で、も少し小さめの刷毛で、

も少し狭いさらい幅でやってもきれいに刷ることはできますし、

そのほうが合理的でもあるのです。

 

そのような兼ね合いを考えていくのも

木版画の技術の大事な部分でもあるのです。

 

 

 

せっかくサンプルを作ったので、

次回はこれを刷って見ましょう。

その上で、【含み】をもう少し確認してみます。

 

 

                   つづく

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

→前回よりつづく

 

こんにちは。

木版画教室「YUU235」、萬里(マサト)です。

 

 

木版画の刷りで使う刷毛は、

【含み】の調整が重要です。

 

【含み】って???

 

【含み】は刷毛の毛の束が、どれくらい水分を

保持しているかということですね。

 

■刷毛の【含み】

 

しっとりとして、刷毛の毛先全体が伸びて、

毛の間に隙間が見えないような状態の時を、

【含み】100%と考えます。

 

刷毛の中の水分がこれより少なくなると、

毛先がバラついてきます。

80%、60%、40%、20%と水分が減っていくほど

ボサボサ頭のように毛先が割れて隙間が大きくなります。

 

反対に水分が多いと、図左のように、

水分が膨れ上がって見た目にもテカテカ光ります。

 

水分が多い方は150%、200%とはなりません。

だいたい120%を超えるぐらいで【含み】が限界になり、

ボタボタとこぼれ落ちます。

 

 

たとえ、ほかの条件を同じにして刷ったとしても、

このように、刷毛がどの程度水分=絵の具を含んでいるか

によって、刷り上がりは違ってきます。

 

 

 

■ダボ刷り、カスレ刷り、だまり刷り

刷毛の【含み】の調整ができていないと、

刷りのコントロールが効きません。

 

100%以上の【含み】のまま刷ると、

滲んだ雲のような、ダボダボの境界のはっきりしないような

そんな刷り上がりになります。

 

また、細い彫刻刀の彫りの部分に水がたまり、

たまった水は表面張力のせいでぷーっと膨れ上がりますから、

水だまりのある刷り上がりで、形がなくなってしまいます。

 

 

逆に60%〜70%のような【含み】加減だと、

なんとか色は出ているけれども、カスれたり

色の出具合の浅い刷り上がりになります。

 

 

じゃ、100%の【含み】だとベストなんだね?

 

と言いたくなると思いますが、そうでもありません。

実は版木自体が水分を吸って湿っていることも

考えないといけません。

 

結果的に調整が終わった後の刷毛の【含み】は

70%〜85%あるとちょうどいい刷り具合になります。

(一般的な場合のことで、様々な状況によって違いは出てきます。)

 

 

では、前回からの本題に戻りましょう。

「なぜ大きな刷毛を使うべきか」

どうですか、ほぼ見当がついたのではないでしょうか。

 

 

 

■大きな刷毛は、【含み】の調整が安定する

同じ80%の【含み】とはいっても、

大きな刷毛と小さな刷毛では、基本の水分の保有量が異なります。

 

小さな刷毛は、もともと【含み】の水分量が少ないので、

何度か刷っているうちに、すぐに【含み】が減ってしまいます。

そのため、せっせと絵の具をつけて【含み】の調整が必要になります。

 

 

その点、大きな刷毛は最初から十分な【含み】を持っているので、

【含み】調整の回数が少なくて済みますし、

水分量の変化が緩やかだから、刷りの質が安定するのです。

 

 

刷りは、いろいろな条件で応用が変わってきますから、

これを金科玉条にされても困りますが、

基本の考え方として、

「可能な限り、大きな刷毛で刷る」

ということを覚えて習慣づけていくと、

無駄な失敗の回数を減らすことができるでしょう。

 

刷毛の使い方では「さらい」も影響してきます。

次の回で「さらい」方を見ていきます。

 

 

                     つづく

 

 

 

 

 

 

 

 

 

こんにちは。

木版画教室「YUU235」、萬里(マサト)です。

 

 

木版画を刷るとき、刷毛を使いますね。

 

例えば・・・、

直径1㎝の図柄を刷るとしたら・・・、

あなたは、下の写真のどの刷毛を使いますか?

 

写真 :  上段=丸刷毛  下段=手刷毛

 

経験のないほとんどの人は、

直径1㎝に近い幅か、それ以下の

小さい幅の刷毛を無意識に使おうとします。

 

おそらく、

写真下段左から3本くらいの刷毛を使おうとするでしょう。

 

 

なぜか?

 

心理の問題なのです。

 

図柄より刷毛幅が大きいと

はみ出し汚れが出てしまう、

と無意識に考えているのではないでしょうか。

 

 

でも、これは大きな勘違いです。

 

汚れが出るのは、刷毛の大きさの問題ではありません。

図柄の周りの「さらい」部分のスペースが、

大きな刷毛が使えない狭い幅しかないからなんです。

 

もし、直径1㎝の図柄の周りが、

直径10㎝前後の幅でしっかりさらってあったならば、

写真の上段の右端にある大きな「丸刷毛(まるばけ)」

を使っても、十分にきれいに刷り上げることができます。

 

逆に言えば、そのほうが小さな刷毛を使うより、

きれいに刷りやすいのです。

 

なぜでしょうか?

 

その理由のひとつは、「刷毛の含み」です。

それと、刷りの科学の最重要ポイント、

「水分の調整」が安定するところにあります。

 

 

「なぜ大きな刷毛を使うべきか」

という問題は、刷りの上達に欠かせない、

「刷りの科学」という知識を理解することでもあります。

 

少し長い話になりますから、

何回かに分けて紹介したいと思いますので、

関心のある方は次回「つづく」をご覧ください。

 

*「つづく」では、今日の説明を写真を加えて

 さらに詳しく説明します。

 

 

                     つづく

 

「刷りの科学」という言葉は、萬里(まさと)の

 勝手な説明用語です。中学程度の科学で考えた方が

 とても分かりやすい時があります。そういう時に、

 こうした「造語」をときどき利用します。