俺な
カリカリ
喉につまらせてん
苦しくなって
ヒーヒーなって
ヨダレも出て
おかあちゃんの声が
だんだん
小さくなったら
綺麗な橋が見えた
歩いて行こうとしたら
モコが
とめちゃん
何してるん
切符は?
って言うねん
俺
そんなん持ってないって
ほな
まだあかん
ここは渡ったらあかん
はよ帰り
モコが怒るねん
俺な
モコに久しぶりに会ったのに
モコ
怒るねん
俺のこと
押したねん
あっ
モコ
何するんと思たら
おかあちゃんの声が聞こえた
とめ~
とめ~
おかあちゃんの顔が見えた
なんで泣いてるん
そう思ったとき
俺な
ゲボッて
カリカリ吐いた
おかあちゃん
泣いてる
良かった
良かったって泣いてる
おかあちゃん
あのな
綺麗な橋があったで
モコがいたで
けど
モコに怒られて
その綺麗な橋のところには
行けんかった
おかあちゃん
どないしたんや
なんで泣いてるんや
切符は
どこでもらうんやろ
子猫の時から
舌が異常に長くて
上手に餌を食べられない子だった
カリカリをふやかして
食べさせていたけど
食べてくれなくなって
わんこそばみたいに
少しずつ
フードボールに入れて
ゆっくり食べさせていたのだけど
泡を吹いたときは
もうダメかと思った
今回がはじめてではないから
私の責任
生まれつきの腎臓の悪さと
腎臓膀胱両方に
結石があるため
処方食をなんとか
食べさせたくて…
心配した娘が
駆けつけてくれた時には
ケロッとして
笑いを誘ったけど
娘が言った
とめ
まだ切符ないし
虹の橋は渡れんかったやろ
まだ来たらあかんって
言われたやろ
大丈夫や
明日からは
処方食じゃなくてもいいよ
神様が
切符くれんからな
そう言いながら
娘は
泣いていた
とめは娘と同じ
先天性水腎症
わかったところで
経過観察しかなく
そのことで
娘は
私に辛く当たったこともある
きっと
あの時
お母さんのせいや
と言ったことを
ずっとずっと
後悔しているんだろうな
とめ
誰のせいでもないねん
先天性水腎症でも
長生きできてる
大丈夫
大丈夫
まるで
私に
言ってくれているかのような
娘の言葉
俺な
戻ってきたで
おかあちゃん
きっとな
おねえちゃんを呼ぶために
ちょっとだけ
神様がイタズラしたんや
だって
切符ないもん
戻ってきたで
おかあちゃん
俺の吐いた二粒の
カリカリを
ももが
食べた
泣きながら
おかあちゃんが
笑った