里桜と齋藤さんと一緒に一度恭さんの家へ戻った。けれど、戻る間もオレが荷物をまとめている間も特に会話もなく無言だった。

家に着いても何か話す気も起きず、『自分の部屋』にまっすぐ向かい、ベッドに飛び込んだ。数日離れただけなのに、『ここ』がすごく懐かしく感じ、暖かな気持ちになると同時にまた不安が襲ってきた。

「オレは………?」

ずっと、このままいれたらいい、だけどそんなわけにはいかない。わかっているけれど、考えたくない。居心地が良いからこその不安。このまま甘えていてはいけない、だってオレは…



「やっぱり、死にたいって思う?」



そうオレに問いかけるのは、泣きそうな顔で部屋の入り口に立つアヤさんだった。
翌朝、なかなか寝付けなかったせいか眠りが浅かったせいかすぐに目が覚めてしまった。10時頃に齋藤さんが迎えに来てくれると言っていたが、まだ時間がある。少し散歩してくると書き置きをして、スマホだけ持ち外に出た。あまり離れると道に迷いそうだったので、周りの建物を確認しながらゆっくりと歩いた。

「あ、ここは確か…」

見覚えのある建物、それは少し前に里桜と出会った場所だった。こんなに近くあるとは思いもしなかった。なんとなく前と同じように屋上へと向かった。

「改めて見るとそんなに高くないんだな」

周りにはこの建物より高いビルがいくつもある。下を覗きこんで見ても高さに対する恐怖感などは感じない。

「ここから落ちたら、オレは」

そう考えてしまうのは以前と変わっていなかった。里桜と出会ったことで生活が変わっても、未だに居なくなってしまいたいという気持ちはなくならなかった。何度も繰り返し考えてはあの時のことを思い出す。里桜と出会ったあの時を。ぼんやりと下を眺めてしばらく時間が過ぎた頃、ふいに後ろから誰か近づいてくる気配がした。

「宗一君」

「恭、さん?何でここに」

いつの間にか恭さんが後ろに立っていた。あの時の里桜と同じ場所に、やっぱり双子なんだと笑いそうになった。

「宗一君のこと聞いていたんだよ、君と里桜がここで会ったこと。君が自殺を考えていたことも」

「なるほど。だから後を着けて?」

「ああ。きっと君はまだ心のどこかで死を考えている、きっとまたこの場所に来ると思うと」

「里桜から聞いたんですね」

「いや、シンだよ」

「え、齋藤さんが?」

てっきり里桜から聞いたんだと思っていた。でも予想とは違って齋藤さんだったようだ。

「俺の家とこの場所が近いから心配していたんだろうね。一人で外に出ないように気を付けろ、なんてメールが入っててさ」

起きたら居ないから焦ったよ、と言いながら笑っていた。真っ先にこの場所に走ってきて良かったと言うと真剣な眼差しに戻った。

「帰ろう。君はもう帰る場所がある」

「でも、オレは…オレに帰る場所なんて」

実家?里桜の家?オレの居場所なんてどこにあると言うんだ。



「帰ろう、宗一。一緒に」



再び差しのべられた手。あの時のように。

「里桜?」

「帰るよ、宗一」

恭さんの後ろから里桜が出てきた。齋藤さんも居る。きっと恭さんがここに来る前に連絡したのだろう。




やっぱり

オレは

里桜が好きだ。

きっとあの時からずっと。

認めたくなかった。気づきたくなかった気持ちに確信した。



それでもオレは気のせいだと言い聞かせて、里桜の手をとった。

恭さんのところへ来て三日がたった。やっと片付け終わり、ようやく里桜の元へと戻れることになった。
「いやー、助かったよ。ありがとう」

「いえ、終わって良かったです」

当初よりも時間が掛かり、一泊多く恭さんの家に泊まることになった。最終日ということもあり、お酒も多く進み色々なことを話した。
いつの間にか日付も変わった頃に恭さんは唐突に質問してきた。 

「宗一君って里桜のこと好き?」

「いや、好きではないですよ…まだ」

まだ?まだってなんだ?

「そっか、まだね」

「まだっていうか、嫌いではないというか」

懸命に弁解するも信じてもらえないようだ。
確かに、あの時里桜に止めてもらえなければここには居ないし、でも、里桜を好きになるほど時間は経っていないし…

「里桜はやめておきな」

「え?」

恭さんの言葉に今まで考えていたことが全て止まった。

「里桜を好きになるのはやめた方がいい」









その夜はなかなか寝付けずに明るくなるまで眠れなかった。