姉の忌引休憩は今日までとなり明日からは出勤の予定の為、今夜帰宅する予定になっていた。
午前中に来て頂いた業者さんも2社目と大差無い様子で現場に入り、見積り額を出す。
金額は56万円。
1番安い金額の提示であった。
遺品整理業者ではあるが、何かピンと来ない。
安さだけを重視するなら、こちらの業者なんだろうけども。
私達が求めているのは金額の安さだけでは無い。
最後まで信頼関係を持てるしっかりとした業者に依頼をしたかった。
契約後にトラブルなどは起こしたくもないので業者選びはかなり重要と考えていた。
夕方に見積り依頼最後の4社目と合流。
遺品整理士の資格を持つ社員の在籍やゴミ屋敷の清掃・特殊清掃に特化した業務を行う専門業者であり、事件現場特殊清掃センターに加盟している。
主に物件のオーナーさんや警察からの依頼が多いとお話ししていた。
社長さんと遺品整理士の資格を持つ若い社員さんの2名での訪問であった。
私から詳しい説明が終わり、母の自宅へ入る時にはしっかりと防護服に身を包み、靴カバーを履き、ドアの前で静かに手を合わせてくれた。
その真剣な姿を見て涙が込み上げる
故人である母に敬意を表してくれた。
そう感じ感動さえ覚えた
『失礼します』と一礼して中に入ってゆく。
ここは事故物件となってしまったが私達の実家でもあるんだ。
振る舞いが他の業者さんとは格段と違い、内訳も金額の提示についてもしっかりと説明してくれた。
見積り額は68万円での提示となった。
日中の間に寄り添い系の業者さんから『ギリギリの66万円の金額まで下げて寄り添いたいと思います』とご連絡が入っていた。
おこがましいが、4社目の社長さんへ少し値段交渉をお願いしてみる。
すると悩んながらも『僅かながらですが…』と66万円に下げてくれた。
寄り添い系と同額。
寄り添い系はどちらかと言うと便利屋寄りで消毒に特化した企業であった。
この2社で悩み抜き.結果的には後日この4社目の企業と契約を結ぶ事になる。
この社長さんはなかなか出来た方で、部屋の修繕工事含め、トイレの水道管破損発覚や大家さんのドア丸ごと交換保証の突然の要望にも矢面に立ち私達を助け力になってくれた。
姉が帰宅したこの夜から母が夢に出るようになる。
9月10日〜11日にかけての深夜
寝室で気配を感じていた。
姿は見えない。
だが、同じ暗闇に人のいる気配だけは伝わる。
しばらくして私はようやく眠りについた
夢の中
目を閉じて横たわる母の姿からシーンは始まった。
母はゆっくりと起き上がり、私の正面に立った。
距離が離れていたが、何か様子がおかしい。
怒った様子で懸命に何かを話そうとしているが、何故だか母は総入れ歯になっていて、話すたびにガクガクと入れ歯が外れそうになっていた。
母は落ちそうな入れ歯を手で押さえながらゆっくりとゆっくりと私の方へ近寄って来る。
相変わらず何かを話そうとしながら。
近付くにつれて違和感の理由がわかった。
母の見た目は皮膚がふやけて今にも皮がずり落ちてしまいそうな不安定な状態の姿となっていた。
母は私の目の前まで来ると、そっと私の右手首に触れた。
その時の感触と温もりは今でも憶えている。
とても夢とは思えない感触だった。
母は更に私の目前ギリギリまで近寄って来たその瞬間、私はとっさにこの距離で皮がずれ落ちて、亡くなった時の姿になるかもしれない!と感じ『近い!!下がって!』と強く念じた。
その瞬間、少し悲しそうな顔で母はゆっくりと下がって行った。
そしてまた私に何かを言いたそうな様子で口元を気にしながら立っていた。
9月11日〜12日深夜
夢の中・2日目
母の自宅ドアの前からシーンが始まる。
私・姉・姉の娘の3人でドアを開けて家の中へ入った。
家の中は何も物が置かれておらず、がラーンとして赤い薄暗いライトだけがほんのりと照らしていた。
急に近くのドアが開いて何か黒い影がサササーッと出てきた。
小柄な人のシルエットで女性だとわかった。
黒い影を見て私は直ぐに母だ!!と直感した。
夢の中で姪がビビりまくり『早く家を出よう!!』と言い、姉もビビった様子で3人で外玄関前まで飛び出した。
今も急にタバコの匂いが辺りに漂う。
49日は過ぎているのに。
まだ空へ旅立てずにいるのかな