朝の9時過ぎから母を見送る為の準備に追われた。
姉と2人で棺に納める母への最期のプレゼントを選ぶ為にショッピングセンターへ出掛けた。
まず初めに下着選びから。
『婆さん、どんなの好みかな?最近のサイズとか全然わからないな。
パステル系の明るい色とか良くない?
ねぇ見てよ。笑
こんなフリフリのパンツなんて履かないよね??怒られるわ』と姉と言いながら、あれこれ物色をしてようやく淡い色の下着を上下揃えた。
そして、それぞれの孫から。
姉と私から。
花束を送る事にした。
花屋さんでピンク・イエロー・ホワイトの花束を選ぶ。
イエロー系は姉の子供3人から。
ピンク系は私の子供2人から。
ホワイト系の花束は私達姉妹から母へ。
母の最期を想うと、せめて棺の中は華やかにしてあげたい。
母の好んだ物で見送りたい。
生きているうちにやってあげれば良かったのに。
バカな私は母から目を背けていたんだ。
ホワイト系の花束の中には白ユリが入っていた。
この中に八重咲きのレオナも追加で入れてもらい、甘い良い香りが辺りに漂い始めた。
直近の母が好きだった食べ物が何か分からず、私達は悩んだ。
母は精神障害二級と糖尿病を患っていた。
その他パニック障害もうつ病も持ち併せていた。
糖尿病だから甘い物は食べていなかったはず。
元々、贅沢を好む人では無かった。
納豆とご飯と漬物があれば十分。とよく話していた記憶がある。
太巻きは好きで、良く食べていたはず。
その光景は何度も見ている。
おはぎも食べていたよね?
こしあんじゃないとダメだったなぁ…
果物は好きだったの知ってる。
1年半の空白が邪魔をするが、数年前の記憶を辿り食べ物を選んだ。
見た目もキレイな少し高めの桃・梨・林檎・ぶどうを各一個づつ。
そして、色々な銘菓を数種類選び用意した。
後は何だろう?足りない物は何だろうか…棺に入れ忘れがないように姉と話しながら考えていると、昨日の担当刑事さんから連絡が入った。
刑事『お母様のご遺体は警察署へもどりました。
これから検案書の作成に入ります。』
私は、明日の午前中に母を迎えに行くまで警察署で預かって頂けないか相談をした。
その前に検案書を受取りに伺う話しもした。
刑事さんは快諾してくれ、夕方に所轄の警察署へ出向いた。
受付で担当刑事さんの名前を伝えると直ぐに来てくれた。
検案書を見ながら説明を受ける。
『検死の結果、死亡日時も死亡原因も不明でした。
CTをかけましたが、やはり閉め切った部屋の状況や残暑の環境・日数経過が影響してか、内臓が全て溶けて死因特定が出来ず、心臓の血液も残っていない状況でした…大変申し訳ございません。解剖もご遺族が希望される場合は行いますが…正直なところ解剖しても内臓が溶けている以上はお身体を無駄に傷付ける結果にしかなりません。
オススメは出来ないのが現状です…ご本人かどうかの特定については通院していた歯科医で歯形が一致した為、お母様で間違いない結果となります…現場の状況から他殺は考え難いです。』言葉を選びながら伝えてくれた。
私は担当刑事さんに母の最期の姿を見てくれたのか聞いてみた。
はい。との返事が返って来た
私『母の遺体には沢山のウジ虫が沸いていたんですか…?』
刑事『……はい』小さく頷く。
死に顔を直接見なくても、この言葉でもうわかる。
この事実はわたしの新たな苦悩と化した。
刑事さんに深くお礼を伝え、押収していた母の貴重品を受け取る。
家の鍵・封筒に入った現金・通帳・レシート…
お馴染みの財布や良く持ち歩いていた黒の手提げバッグや黒のリュック・そして携帯が無かった。
聞いてみたが、現場にあった貴重品と判断したものはこちらの品のみです。と…
バッグ類はまだ現場に残されているのかな…と思いつつも警察署を後に、急いで区役所へ向かった。