お遊びみたいな記事ですが、勢い余ってアルフレッド・ヒッチコック監督の「サイコ」(1960)の重要なネタバレをしています。

未見の方は、ご注意を。まさかと思いますが、こんな記事読む前に「サイコ」観てください。

 

未完である新劇場版はともかくとして、旧シリーズの「エヴァンゲリオン」って、映画「サイコ」だと思うんですよ。

碇シンジくんはノーマン・ベイツ。

何を言ってるんだ…と思われるかもしれませんが。

 

映画「サイコ」は、二重人格の青年であるノーマン・ベイツの物語です。

母親の溺愛を受けて育った彼は、母の死を受け入れられず、精神に異常をきたして二重人格になってしまいます。

普段は温厚な青年であるノーマンですが、時々母親の人格に入れ替わります。母親の服を着てカツラをつけ、身も心も母親になり切ったノーマンは、息子(自分ですが)に近づく邪魔な女をナイフでメッタ刺しにして殺してしまいます。

 

一方の碇シンジも、心を病んでいる少年です。

彼は母親を失い、その喪失感を抱え、他人とのコミュニケーションが苦手だと感じています。

彼はエヴァンゲリオンに乗って使徒と戦うのですが、エヴァンゲリオンというのは女性です。何しろ、「エヴァ」ですからね。

ストーリーが進むと、エヴァンゲリオンにはシンジの母親ユイの魂が宿っていることが明らかになります。

 

これ、まさしく「母親の服を着て」いる状態。

更に、エヴァのパイロットは溶液を満たしたエントリープラグの中に入り、エヴァに挿入されます。まさに胎内回帰

そして、「シンクロ」しますからね。母親と一体化する、同一人格になっている状態。

 

母親の行動原理は、息子を守ること。

エヴァンゲリオンには「母性」のようなものがあって、劇中でも手を差し伸べてシンジを瓦礫の落下から守ったりしています。

 

そして、エヴァンゲリオンが戦う相手は「使徒」。これは、エヴァに溢れるいくつもの象徴の中では、「ヒト」のメタファーだと思うのです。

コミュニケーション不全なシンジに近づき、干渉してくるヒト=他人のイメージ。

暴力的に侵攻してくる不気味な怪物が、シンジにとっての他人のイメージなんですね。

そんな他人が心の中までズカズカと入り込み、深層に触れた時、サードインパクトが起こる=シンジの心の世界は破滅するのです。

 

母親は愛する息子を守るため、ナイフを振るって他人を撃退する。エヴァンゲリオンでは、プログレッシブナイフですね。

そして、エヴァンゲリオンは時に「暴走」して、シンジ自身にも制御ができなくなってしまいます。

これは、人格が乗っ取られた状態と言えるでしょう。

 

旧エヴァンゲリオンというのは乱暴にまとめてしまうと、他人への恐怖を抱える少年が、自分を守る母親という鎧を身にまとって、他人を撃退していく物語である…ということができます。

ノーマン・ベイツの場合は、彼が他人と関わろうとすると、過保護な母親が邪魔しに出てくる。でも結局はそれも彼自身なので、深層心理にある他者恐怖の表れなんですね。

 

「サイコ」のラストで、ノーマン・ベイツは母親になり切ってしまい、彼自身に戻れなくなってしまいます。

「エヴァンゲリオン」でも、暴走の果てにシンジの実体がエヴァの中に取り込まれ、消えてしまうという事態が起こります。

これは劇中でもかなり思い切った非SF的な領域に踏み込んだシーンですが、実際に起こっていることが「サイコ」のラストシーンみたいなことと考えると、割とふに落ちます。

そう見なすと、シンジを必死に救出しようとするネルフの人々は、治療にあたる精神科の医師や看護師たちというふうに見えてきます。

「NERV」はそもそもドイツ語(医療の世界では標準)で「神経」の意味ですね。

 

ノーマン・ベイツは、母親が生きていて、今も洋館に暮らしているという、存在しないもう一つの現実を生きていました。

同様に考えると、シンジが体験しているエヴァンゲリオンの物語そのものも、彼の妄想というフィルターを通した仮想の現実であると考えることもできます。

現実はそれこそ、テレビ版のラスト2話の方かもしれない…。

 

…なんていう妄想を楽しむことができるのも、エヴァという物語の懐の深さだったりします。

 

 

 

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実は続編が存在するサイコ。アンソニー・パーキンスのノーマン・ベイツ・サーガになってます。

 

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ガス・ヴァン・サント監督によるリメイク版。

 

ノーマン・ベイツの少年時代を描くテレビシリーズ。