【冬組】Happy Birthday!!
パタパタと、軽い足音が廊下を駆けてくる。
それだけで、もう誰が来たのか判断できたので、俺は書類に落としていた視線を上げ、扉に目をやった。あと数秒もすれば、扉が開いて、いつもの花が顔を覗かせるはずだ。
「こんにちは! あっ、一樹会長!」
寸分違わない自分の予想に、思わず笑みがこぼれる。
「なんですか?」
「いや、何もねーよ。それより、随分急いで来たみたいだが、どうしたんだ?」
「今日は部活でミーティングがあるので、それまでに少しでも生徒会の仕事を進めたくて」
俺は月子の頭を撫でた。
「ひゃっ」
「お前はほんと、可愛いな」
「なっ…、なん、何なんですかっ」
むくれた月子を見てひとしきり笑い、俺は扉へと向かう。
「会長、どちらへ行くんですか?」
「あぁ、ちょっと職員室に用事だ。部活の時間になったら、そっちに抜けていいからな」
「はい、ありがとうございます」
後ろに向かって手を軽く振り、俺は生徒会室を後にした。
「ま…期待してた訳じゃないけどな…」
しばらくして生徒会室に戻ると、授業を終えた颯斗と入ったばかりの翼が来ていた。
颯斗に指導され、翼は会計の仕事を叩き込まれているようだった。
「おぅ、遅かったな」
「あ…会長」
「おー、ぬいぬいだー」
自分の机に戻り、途中だった書類に再び目を落とす。
「月子さんは部活に向かいました。ミーティングが終わり次第、こちらに戻るそうです」
「そうか、サンキュー」
颯斗からの事務連絡を受け、書類からは顔を上げずに返す。
すると、人がすぐ目の前に立っている気配を感じて、思わず手を止めた。
「…何だ? 颯斗」
「いえ、何というか…」
「ぬいぬい、元気ないぞ」
言いにくそうに濁らせた颯斗の言葉を受け、翼がズバリと言い当てる。
「そっ…んなことねーよ」
「そうかぁ? やっぱぬいぬい、書記が居ないと元気出ないんだな!」
「いえ、翼くん。今回に関しては、それだけが原因じゃないと思いますよ」
「ぬ?」
意味深な颯斗の言葉に顔を上げて、俺の動きは思わず止まった。
颯斗に目をやれば、案の定、全てを見透かしたような目で笑ってやがる。
「颯斗お前…」
「どうしました? 一樹会長?」
「……あーもう!」
俺は勢いをつけて立ち上がった。
「ぬいぬい! どこに行くのだ?」
翼に言われ、静止する。そうだ、俺は何をしようとしてた? 悔しいからって、あいつをここまで引き戻そうとでもしてたか?
「…らしくねぇ」
そんな様子を見て、颯斗が紅茶を手に俺に近づいてくる。
「そうですよ、落ち着いてください、会長。今はとにかく、自分のやるべき仕事を片付けましょう。月子さんが戻ってくる前に終わらせるのが目標です」
「えー! そらそら、俺の書類こんなにあるぞ!?」
「頑張ってください、翼くん」
「だって…なんでもない…」
まだ文句を言いかけた翼が、颯斗を一目見て口をつぐむ。俺も同じ目には遭いたくないので、大人しく椅子に座り直す。
壁に掛けた時計の秒針の音だけが響いている。気づけば随分と集中していたようだ。
「…ふー…」
やけに静かだと思って顔を上げて、俺は持っていたペンを取り落とした。
「颯斗…? 翼…?」
二人の姿がない。
机の上の書類は整理されている。あいつらがやっていた分の仕事は終わったようだ。
「仕事が終わって帰った、か…一言くらい言ってけよな…」
一つ息を吐いて、時計を見る。もう空には星が瞬き始める時間だ。
「帰るか」
机を片付け、鞄を手にしたときだった。
生徒会室の扉が、遠慮がちにノックされる。
「誰だ? こんな時間に…」
不審に思いつつ扉を開くが、視界には一瞬何も映らない。少し目線を落とすと、俺の好きな柔らかく細い髪を湛えた頭が。
「…何ノックなんてしてんだよ、月子」
月子が照れたように微笑んで立っていた。
「ミーティングは終わったのか?」
「はい! 会長も、お仕事は区切りついたんですね」
「あぁ。俺はやればできる男だからな」
月子が笑って、生徒会室に入ってくる。
「颯斗たちは帰っちまったみたいだ。わざわざ戻ってきてくれたのに、悪いな」
「そうなんですか。…あ、じゃあ会長!」
「どうした?」
月子が俺の制服の袖を少し握る。
「それなら、今から星を観に行きましょう?」
月子の瞳が子供みたいに輝いている。行きたくて仕方がないって、体全部で訴えかけてくる。
俺は反対の手で月子の頭を撫でた。
「おっ、いいな! じゃあ、屋上庭園にでも行くか?」
「はい!」
待ちきれない月子に手を引かれ、急ぎ足で屋上へ向かう。
「さ、会長!」
屋上へ出る扉の前で、月子がはたと立ち止まる。
「あぁ」
何も考えずに、その扉に手をかけ、開いた。
「あっ来た、ぬいぬい!」
「一樹会長!」
「えっ…?」
一瞬判断が遅れて、理解したときには、クラッカーの音が耳に届いていた。
「お誕生日おめでとうございます、一樹会長!」
俺のすぐ後ろで、クラッカーを鳴らしながら、月子が声をあげた。
颯斗と翼も口々に、祝いの言葉を述べる。
「お前ら…」
「こそこそ用意してごめんなさい、会長を驚かせたくて」
「食堂に頼んで、ごちそう作ってもらったんだぞ!」
月子と翼に手を引かれ、屋上庭園に用意されたピクニックシートに座る。
「ぬいぬいをお祝いするのだー!」
熱くなる目頭を隠したくて、俺は顔を俯かせて耐えた。
「会長? どうしたんですか?」
「あっ、ぬいぬい泣いてるのだ!」
「ばっ…泣いてねぇよ!」
二人に顔を覗き込まれて慌てふためく。その様子を微笑みながら、颯斗が眺めている。
「…ありがとな、みんな…!」
あぁ、こんな幸せな誕生日、間違いなく生まれて初めてだ。
満天の星空の下、俺は今あるこの幸せに、心からの感謝を誓った。
それだけで、もう誰が来たのか判断できたので、俺は書類に落としていた視線を上げ、扉に目をやった。あと数秒もすれば、扉が開いて、いつもの花が顔を覗かせるはずだ。
「こんにちは! あっ、一樹会長!」
寸分違わない自分の予想に、思わず笑みがこぼれる。
「なんですか?」
「いや、何もねーよ。それより、随分急いで来たみたいだが、どうしたんだ?」
「今日は部活でミーティングがあるので、それまでに少しでも生徒会の仕事を進めたくて」
俺は月子の頭を撫でた。
「ひゃっ」
「お前はほんと、可愛いな」
「なっ…、なん、何なんですかっ」
むくれた月子を見てひとしきり笑い、俺は扉へと向かう。
「会長、どちらへ行くんですか?」
「あぁ、ちょっと職員室に用事だ。部活の時間になったら、そっちに抜けていいからな」
「はい、ありがとうございます」
後ろに向かって手を軽く振り、俺は生徒会室を後にした。
「ま…期待してた訳じゃないけどな…」
しばらくして生徒会室に戻ると、授業を終えた颯斗と入ったばかりの翼が来ていた。
颯斗に指導され、翼は会計の仕事を叩き込まれているようだった。
「おぅ、遅かったな」
「あ…会長」
「おー、ぬいぬいだー」
自分の机に戻り、途中だった書類に再び目を落とす。
「月子さんは部活に向かいました。ミーティングが終わり次第、こちらに戻るそうです」
「そうか、サンキュー」
颯斗からの事務連絡を受け、書類からは顔を上げずに返す。
すると、人がすぐ目の前に立っている気配を感じて、思わず手を止めた。
「…何だ? 颯斗」
「いえ、何というか…」
「ぬいぬい、元気ないぞ」
言いにくそうに濁らせた颯斗の言葉を受け、翼がズバリと言い当てる。
「そっ…んなことねーよ」
「そうかぁ? やっぱぬいぬい、書記が居ないと元気出ないんだな!」
「いえ、翼くん。今回に関しては、それだけが原因じゃないと思いますよ」
「ぬ?」
意味深な颯斗の言葉に顔を上げて、俺の動きは思わず止まった。
颯斗に目をやれば、案の定、全てを見透かしたような目で笑ってやがる。
「颯斗お前…」
「どうしました? 一樹会長?」
「……あーもう!」
俺は勢いをつけて立ち上がった。
「ぬいぬい! どこに行くのだ?」
翼に言われ、静止する。そうだ、俺は何をしようとしてた? 悔しいからって、あいつをここまで引き戻そうとでもしてたか?
「…らしくねぇ」
そんな様子を見て、颯斗が紅茶を手に俺に近づいてくる。
「そうですよ、落ち着いてください、会長。今はとにかく、自分のやるべき仕事を片付けましょう。月子さんが戻ってくる前に終わらせるのが目標です」
「えー! そらそら、俺の書類こんなにあるぞ!?」
「頑張ってください、翼くん」
「だって…なんでもない…」
まだ文句を言いかけた翼が、颯斗を一目見て口をつぐむ。俺も同じ目には遭いたくないので、大人しく椅子に座り直す。
壁に掛けた時計の秒針の音だけが響いている。気づけば随分と集中していたようだ。
「…ふー…」
やけに静かだと思って顔を上げて、俺は持っていたペンを取り落とした。
「颯斗…? 翼…?」
二人の姿がない。
机の上の書類は整理されている。あいつらがやっていた分の仕事は終わったようだ。
「仕事が終わって帰った、か…一言くらい言ってけよな…」
一つ息を吐いて、時計を見る。もう空には星が瞬き始める時間だ。
「帰るか」
机を片付け、鞄を手にしたときだった。
生徒会室の扉が、遠慮がちにノックされる。
「誰だ? こんな時間に…」
不審に思いつつ扉を開くが、視界には一瞬何も映らない。少し目線を落とすと、俺の好きな柔らかく細い髪を湛えた頭が。
「…何ノックなんてしてんだよ、月子」
月子が照れたように微笑んで立っていた。
「ミーティングは終わったのか?」
「はい! 会長も、お仕事は区切りついたんですね」
「あぁ。俺はやればできる男だからな」
月子が笑って、生徒会室に入ってくる。
「颯斗たちは帰っちまったみたいだ。わざわざ戻ってきてくれたのに、悪いな」
「そうなんですか。…あ、じゃあ会長!」
「どうした?」
月子が俺の制服の袖を少し握る。
「それなら、今から星を観に行きましょう?」
月子の瞳が子供みたいに輝いている。行きたくて仕方がないって、体全部で訴えかけてくる。
俺は反対の手で月子の頭を撫でた。
「おっ、いいな! じゃあ、屋上庭園にでも行くか?」
「はい!」
待ちきれない月子に手を引かれ、急ぎ足で屋上へ向かう。
「さ、会長!」
屋上へ出る扉の前で、月子がはたと立ち止まる。
「あぁ」
何も考えずに、その扉に手をかけ、開いた。
「あっ来た、ぬいぬい!」
「一樹会長!」
「えっ…?」
一瞬判断が遅れて、理解したときには、クラッカーの音が耳に届いていた。
「お誕生日おめでとうございます、一樹会長!」
俺のすぐ後ろで、クラッカーを鳴らしながら、月子が声をあげた。
颯斗と翼も口々に、祝いの言葉を述べる。
「お前ら…」
「こそこそ用意してごめんなさい、会長を驚かせたくて」
「食堂に頼んで、ごちそう作ってもらったんだぞ!」
月子と翼に手を引かれ、屋上庭園に用意されたピクニックシートに座る。
「ぬいぬいをお祝いするのだー!」
熱くなる目頭を隠したくて、俺は顔を俯かせて耐えた。
「会長? どうしたんですか?」
「あっ、ぬいぬい泣いてるのだ!」
「ばっ…泣いてねぇよ!」
二人に顔を覗き込まれて慌てふためく。その様子を微笑みながら、颯斗が眺めている。
「…ありがとな、みんな…!」
あぁ、こんな幸せな誕生日、間違いなく生まれて初めてだ。
満天の星空の下、俺は今あるこの幸せに、心からの感謝を誓った。