最大に濃度を上げた酸素マスクで
ギリギリ、自力で呼吸している親父。
これ以上肺の機能が低下したときに
『人工呼吸器を取り付ける』
ことができるけど
自分で呼吸器をはずないように
『薬でわざと意識レベルを下げます』
『ほぼ眠っている状態になる』ので
『意思の疎通は難しくなります』
『どうしますか』と言われて
『人工呼吸器は付けないで下さい』
とは言えなかった。

苦手な新幹線で急いで行くから
もう少し息子と話をしてくれよ。
親子喧嘩もできないようじゃ
ちょっと寂しくなるよ。
何が正しくて

何が間違っているのか

僕にはもうまったく

わからなくなってしまったのだよ

47年も生きているというのにさ。

義理の伯父から『処分してください』
と言われて引き取ってきた車。
おそらく12年間は動かされることもなく
軒下に停められたままだった車。
けれど、ボディは磨かれ
室内は小綺麗に掃除され
いつでも走り出せそうな車。
その、片付いた車内、
念のため灰皿を開けてみると
ぎっしり詰まった吸殻が残っていました。
捨てようと思い、灰皿を手に取ると
ふと、
旧い記憶が甦る。

この車の元々の主は嫁の甥っ子。
僕ら夫婦よりだいぶ若い彼は
高校を出て間もないのに
帰省の際には
僕達の幼い娘に土産を欠かさない
そんな優しい男の子でした。

その彼が突然他界して
それから12年、この車は軒下で
じっと、動くことが無かった。

13回忌が過ぎ
彼の父親がこの車の処分を決めて、
けれども吸殻を捨てられなかった。

この吸殻は、
N君がこの世で暮らしていた痕跡。

そう思うと僕も
取り外した灰皿を
そっとそのまま
元に戻した