設問2 | 65歳の芸大生

65歳の芸大生

定年退職後、新しいことにチャレンジしたいと考えて、今まで縁がなかった芸術について学ぼうと思い、京都芸術大学通信教育部芸術教養学科に入学しました。このブログは学習記録としてレポート等の成果を載せています。複製、転載はご遠慮ください。

設問1で取り上げた「特集」の事例とは別に、それと類似した伝統的な行事、産業、活動がないか、自分の周辺を観察したり、資料にあたって探してください。そのうえで、自分で探した事例を簡潔に紹介するとともに、それを設問1で取り上げた事例と比較対照し、相互の共通点と相違点とを指摘してください。

 

 ”市”の例として、群馬県沼田市の老神温泉で行われている朝市を取り上げる。高知の日曜市は日本で屈指の歴史と規模を誇り、ロンドンのマーケットと比較される有名な市であるのに対して、この朝市は、歴史も規模も遠く及ばないが、”市”としての特徴を比較することで、共通点や相違点を述べる。

  老神温泉観光協会によると、朝市が始まったのは1974年で、当時温泉街の目玉を作ろうと協会が呼びかけ、近くの農家など地元の人たちが野菜や果物、加工品を持ち寄ったのが始まりである。今年で50年を迎えるが、80年代に多いときで年間30万人いた宿泊客は、昨年は約13万人に減少し、それに伴い朝市の規模も縮小傾向にある。昨年は8店舗で行われていたが、今年2店がやめ、いまは6店が身を寄せ合って続けている。  この地域は積雪地帯であるので、朝市は4月20日~11月20日の毎朝6時~7時30分の間で毎日開かれている。9月に老神温泉を訪れ、朝市を見学した。地元の人が持ち寄ったとれたての新鮮野菜や果物、漬物やジャムなど手作りの特産品がずらりと並び、ひっそりとした山あいの温泉街に活気あふれる声が聞こえてきた。訪れたのは朝6時過ぎであったが、すでに浴衣姿の泊まり客たちが集まってきていた。よく見る野菜から、見慣れないものまで売っている。朝市の中でも有名な自家製ドレッシングを売る店も覗いてみた。山わさび、えごま、にんじんなど10種類以上の味が並んでおり、山わさびのドレッシングを購入した。わさび独特の風味があり、市販のものでは味わえない豊さを感じた。

  観光協会の方に話を聞いたところ、最盛期の朝市は70店ほどがひしめき合うほどにぎわっており、大型バスが1日何十台もきて、繁盛していたそうである。出店している農家は、ここから車で10~30分程度にある近隣の方ばかりだそうである。しかし、昨今の農業従事者の高齢化や後継者問題もあり、閉店を考えている農家の方もいるとのことであった。

  ”市”には、地産地消、観光資源、地域との結束の3つの要素があると考える。この3要素について、老神温泉の朝市と高知の日曜市の共通点と相違点について考察することにする。  地産地消がという点については、両者に共通する点である。地産地消の役割としては、地元の農家や生産者が直接消費者に商品を販売することで、中間業者のコストを削減し、収益を最大化でき、地域経済の活性化:につながる点である。また、朝市や日曜市では、地元で採れた新鮮な野菜や果物、魚介類が販売され、消費者は、旬の食材を手に入れることができ、安全で高品質な食品を享受できる。

  さらに観光資源についても共通点として挙げられる。日曜市や朝市は、観光の一環として地域の魅力を発信し、観光客にとっても貴重な体験の場となっており、地域経済の活性化や文化交流が促進される。 

 しかし、地域との結束、すなわち地域の経済、社会、文化に重要な役割を果たしているが、という点は、老神温泉の朝市には欠けている。この朝市は完全に温泉という観光資源に依存しており、その発展も衰退も温泉次第という点が、高知の日曜市とは異なっている。”市”は、コミュニティの結束の場という存在意義がある。地元の人々が集まり、交流する場として機能する。これにより、地域コミュニティの結束が強まる。また、地元の特産品や伝統工芸品が販売されるため、地域文化の保存や、地域の文化や伝統を次世代に伝える場となることもある。アネモメトリの記事からも、日本の多くの朝市では、観光客の占める割合が高いが、高知の日曜市では半数以上が地元民であることから考えても、地域との結束を強く感じ、この点が日曜市が長く続き、発展している1つの要素と考えられる。このような”市”に必要な地域との関連がない分、朝市としての発展が望めず、生産者の高齢化によってその存続が難しい側面を、老神温泉の朝市は持っている。