はじめまして、5u(mayu)です。
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THE BIG ISSUE
いつのころからだったか、
通学路の横断歩道付近で、あるホームレスの方を見かけるようになった。
地下街で寝ている方々を目にすることはよくあるが、
その人は、炎天下又は寒空の下を、何かを掲げるように持ち、立っていたのだ。
よく見ると、以前テレビで見たことのある『ビッグ・イシュー』という雑誌を売っているようだった。
しかし、あまり興味が持てなかった。
雑誌の中身もよくわからないし、
300円という手頃な価格ではあったのだが、
それならば、何か飲み物やお菓子が買えるではないかと思っていたためだ。
あれからどれくらい経っただろうか。
彼はいつも同じ場所で、同じスタイルで、ビッグ・イシューを片手に、道路端に立ちつづけていた。
私が見ていた限りでは、立ち止まる人も居らず、オフィス街のためか通行人は素通りするばかりだったので、
もっと声を出して売り方を工夫しても良いのではないかと思っていた。
しかし、
「皆さん ありがとうございます、ビッグ・イシュー最新刊です。」
という細く小さな声が耳に入ってきたとき、私は何も知らなかった自分に対して恥ずかしさを覚えた。
ビッグ・イシューに関心を持ってくれた人に対しての「ありがとう」なのだろう
ただ雑誌を片手に立っているだけ、そんな風に思っていた自分に情けなさすら感じた。
それから暫くして、また彼を見かけるようになった。
ホームレスというだけで、距離を取ってしまいがちだ。
ただ丈夫な家があるかないかの違いしかないのに(ホーム"レス"だからね)、自分の中で、勝手に枠を作ってしまっていたからだ。
人は、理解できない存在に対して恐怖心に似たものを抱き、それらから自分自身を守るために
その対象を、「おかしい」だの「変」だのと攻撃したり、ときに無視したりする。
私は自分の中にあるつまらないその枠を、壊そうと思った。
このチャンスをきっかけに。
始めて手に取ったのは、153号。
最新刊が154号だから、1つ前の号になる。
「若者を襲う貧困 高校中退者の今、未来」
という特集が目を引いたからだ。
負の連鎖は、なかなか止まらない現実を突き付けられた内容だった。
茂木健一郎とビッグ・イシュー販売者の方々、それから市民とのシンポジウムも面白かった。
ビッグイシューの購買層は、若い女性が多いそうだ。
販売者の佐野さん曰く、
日本のホームレスの95%は男性であるため、同性であるサラリーマンたちは、ホームレスになる原因は彼らの怠けた生活にあると考えるからではないだろうか、と。
私も最初はそう思っていた。
しかし、昨日最新刊の154号を買ったとき、販売者の山口さんと話し、色々なことに気づかされた。
当たり前なことだが、ホームレスの方にも名前があるし、人生もある。
1年365日道端で寝起きすることに、何の感情も抱かない訳がない。
それまで歩んできた道があり、目指している目標だってある。
「この仕事は、空き缶拾いとかやりながら、掛け持ちしているんですよ。こんな言い方したら変だけどね…」
はにかみながら、山口さんは続けた。
「普通の生活がしたいんです。だから、頑張れるんです。」
300円出し惜しみしていた自分を恥じた。
たかが300円、されど300円。
私が知っている300円の使い方より、彼らの方がよほど有効で大切な使い道を知っているだろうし、
何より、命を繋ぐための「稼ぎ」なのだ。
朝の6時から夜の9時近くまで、販売期間は毎日働いている。
1時間働き、10分休む。
お昼休憩は30分。
サラリーマンと変わらないか、あるいはそれ以上に山口さんは働いている。
しかし、労働にみあった稼ぎはあるのか…こんなに懸命に生きようとしているのに。
決して良い環境とは言えない中で生活しているのに、しっかりした目標を掲げて、それに向けてひたむきに努力している姿は、
人としても、男性としても、とても格好よかった。
周りに、少し目を向けるだけで、私たちの世界はがらりと変わる。
それを望むか、望まないかは、その人次第だが、
私は、自分がこれから見る世界が少し広がった気がして、なんだか清々しくて、自分の中で何か吹っ切れた気がした。
300円で人を助けることができ(うち160円が販売者の収入になる)、更に素晴らしい記事から見聞を広められる
こんなに有意義なお金の使い道が、他にあるだろうか。
少しでも、多くの人に彼らの活動を、ビッグ・イシューを知って欲しい。
ホームレスを狙った事件がなくなり、
一人でも多くの販売者の方が、「普通」の生活に戻れることを祈って。




