チャット仲間の須賀ハジメさんの義母さんの物語です。
ご存知、ハジメさんの奥さん、郁子さんは学生時代から活躍するスーパーウーマンですが、そのママさんつまりハジメさんの義母さんも郁子さんを凌ぐ超スーパーウーマンだったのです。
先日、ハジメさんのもとに義母さんが尋ねてきました。もちろん、東京からビュンとひとっ飛びで福岡まできたそうです。
ビュン!
タワーマンションの最上階のハジメさんの部屋に一塵の風が吹いたかと思うと、そこにはハジメさんの義母さん、沙織さんの姿が。もちろん、ブルーのボディスーツに赤のホットパンツ、そしてブルーのスパッツ。赤いマントをはためかせている、スーパーマンを思わせるコスチューム姿、しかしそのボディラインは女性らしさを備えていた。
「はーくん、来たわよ♪」
「あ、お義母さん!その姿は…」
「ママ、ダメじゃない。見られたら大変よ」
「ごめんなさい。フランスで美味しいケーキが有るってネットで見たから、つい買って来ちゃった」
「ところで、ママ、なんで来たの?」
「あら、明日、郁乃ちゃんの入園式でしょ?銀河幼稚園の。それで、あなた達が留守の間は私がハジメくんを世話しようと思って」
「お義父さんは来ないんですか?」
「ちょうど、今日からフランスに出張になって、ついて行ったの。それで美味しそうなケーキを見つけたから早くハジメくんに食べさせたくて、飛んで来ちゃった」
「そんなことより、早く元の姿に戻ってょ!よその人に見られたら大変な事になるわ」
すると、沙織さんはクルリと身体を回転させ、何時もの沙織さんの姿に戻った。
しかし、普段の姿に戻っても沙織さんのスーパーウーマンのオーラは全開であった。
次の日、ハジメが目を覚ますとすでに奥さんの郁子さんと娘の郁乃ちゃんは身支度を整えて、スーパーウーマンの、郁乃ちゃんはスーパーガールのコスチューム姿に着替えていた。
「はーくん、じゃあ、行ってくるね♪」
郁子さんと娘の郁乃ちゃんはそう言うと、タワーマンションの最上階の窓から飛び出して行った。あっという間に彼女たちの姿は視界から消えた。銀河幼稚園は地球から遥か数万光年離れた惑星に有るのだ。
「ウアアァ~ッ、夕べは夜更かしし過ぎたな…。ヤバい、支度して、行かなきゃ!」
「はーくん、胃の中に何も入れないのは良くないわよ。いま、天然果汁100%のりんごジュース作るからね♪」
沙織さんはそう言うと、コップを取り出し、りんごを握り締める。
沙織さんはスーパーウーマン、素手でりんごジュースを作った。
「ハイ♪そういえば、はーくん、お昼はなにがいいかしら?お弁当、届けてあげるわ」
「うーん、たまには中華なんか、いいかな?」
ハジメはりんごジュースを一気に飲み干した。
「それじゃあ、お義母さん、行って来ます!」
ハジメは沙織さんの作ったりんごジュースで、一気に精気が蘇った。
「さあ、今日も頑張らなくっちゃ」
ハジメは職場は高層ビルの11階だった。お昼近く、ハジメがオフィスの外を見上げると、沙織さんの姿があった。彼女はハジメと目が合うとウィンクをし、手を振った。
「え?」
もう一度外を見ると、沙織さんの姿は見えなくなっていた。
「なんだ。幻か…。かなり疲れてるな…」
その頃、沙織さんはハジメのオフィスの受付に居た。彼女の近くを通りがかった1人の若い男性に声をかける。
「すいません。須賀ハジメさんのオフィスって何階でしょか?」
彼は沙織さんのあまりの美しさに息を呑んだ。
「す、須賀さんなら11階ですよ。僕と同じオフィスですから、ご案内しましょうか?」
「あ、大丈夫です。では私は健康の為に階段で行きますね」
須賀さんの同僚はエレベーターでオフィスに上がると、ハジメさんに声をかけた。
「いま、下ですごい綺麗な女性に君の事を聞かれたけど、誰だい?奥さんよりも綺麗な妙齢の女性だったんだ」
ハジメさんの奥さんも職場の同僚達には美人で評判だった。
「あら、誉めてくれてありがとうございます」
すでに沙織さんはハジメさんのオフィスに居たのであった。
「あれれ?ボクよりも早く、ここに…?どうやって上がって来たんですか?ここのビルのエレベーターは速くて有名なんですよ。まるでスーパーウーマンだな…」
「あら、正体がバレちゃいましたか?実はあなたがエレベーターに乗ったあと、ビュン!!と飛んで来たんですよ…なんてね。実は私、学生時代に陸上と水泳をやっていて、脚力と心肺能力には自信が有るんです。まさか、空は飛べませんよ。それより、はーくん、お昼を持ってきたわよ」
「お義母さん、職場ではーくんはやめて下さいよ」
沙織さんはハジメに弁当を渡すと、すぐにオフィスを出た。
「あー、危ない。危うく、正体がバレるところだったわね。気をつけなくちゃ。テへ」
沙織さんはぺろっと舌を出した。
職場では沙織さんのあまりの美しさと可愛さに話題が持ちきりになった。
「須賀さんの奥さんも美人ですけど、お義母さんもすごい綺麗ですね。奥さんとは違った気品のある美しさですよ。それに茶目っ気も有るし…」
その時、ハジメは弁当を開けて唖然としていた。
弁当は沙織さんの手作りではなく、本場、中国の本格的中華弁当だったのだ。弁当箱には全て漢字、中国語だと、直ぐにわかった。
「お義母さん、本当に中国までひとっ飛びで買ってきたんだな…」
バジメが昼食を食べ終わった頃、彼の職場の斜め前の宝石店に強盗が入った。
クルマで店に突っ込み、あっという間に品物を略奪する手荒なやり口だった。
「館内の皆さんに連絡します。斜向かいの◇△宝石店に強盗が入り、犯人は逃走中との事が、警察から連絡が有りました。そのため、しばらくの間、館内からの外出は控えて下さい」
警備室からの館内放送だった。
「あ、義母さん、大丈夫かなぁ…。あ、スーパーウーマンだから大丈夫だなぁ…。むしろ、犯人を捕まえるかもしれない」
宝石強盗一味の乗ったクルマは街の大通りを突っ走っていた。
「ヘッヘッヘ、こんなのチョロいモンだな。さあ、アジトで乾杯だ!」
その時、強盗一味の乗ったクルマが地面からフワリと浮いた…かと、思っているうちに、グングンと急上昇していた。
やがてクルマは今来た道と反対方向に猛スピードでバックしていた。
「な、な、何だ!?」
「悪事はここまでよ!私が警察まで、送り届けてあげるわ。このクルマごと」
強盗たちは窓を開けて身を乗り出すと、スーパーウーマンに変身をした沙織さんがクルマを担ぎ上げ、強盗たちに投げキスをした。
「ウワァ、ス、スーパーマンだ!」
「ちょっと、私はレディだからスーパーウーマンよ」
スーパーウーマン沙織さんは強盗たちにお構いなしに大通りの上空をクルマを担ぎ猛スピードで飛んでいた。
と、彼女はとあるビルの前で急停止した。そこにはバジメのオフィスの窓があった。
スーパーウーマン沙織さんはバジメと目が合うと、身振りで「警察はあっち?」と指を指した。
バジメはコクリとうなずいた。そのバジメの異様な素振りに気が付いたバジメの同僚が窓の外のスーパーウーマン沙織さんを見ようとしたとき、彼女はスーパーブレスで窓を凍らせた。
例え変身をしていても、あの美しい顔立ちではハジメの同僚たちに沙織さんの正体がバレてしまうと思ったハジメはホッと胸をなで下ろした。
スーパーウーマン沙織さんは宝石強盗たちを乗せたクルマを警察の玄関の前の路上に突き刺した。
「お巡りさん。◇△宝石店の強盗を捕まえました。あとはよろしくお願いします」
スーパーウーマン沙織さんが警察をあとにしようと身を翻した時、既にどこから彼女の事を知ったのか多くの報道陣があっという間に周りを囲んだ。
程なく、宝石強盗の身柄確保の館内放送が流れた。
「あ、そうだ。テレビ…」
時間はちょうど休憩時間。バジメは休憩室のテレビをつけた。テレビでは宝石強盗身柄確保の速報とその状況が速報で中継されていた。
「警備にあたっていた警官の話しだといきなり空から舞い降りて、宝石強盗の乗ったクルマを地面に串刺しにしたと聴きましたが、あなたはいったい…」
「私は通りすがりの宇宙人です」
「では、あのスーパーマンの親類でしょうか?」
「まあ、そんなところかしら?この星では私の事をスーパーウーマンって、呼んでいるみたいですね」
「では、超高層ビルもスーパーマンみたいにひとっ飛びで?」
「えぇ、もちろん」
「じゃあ、分厚い壁の向こうも透視出来るんですか?」
「えぇ、もちろん」
「では鋼鉄もグニャグニャに?」
スーパーウーマン沙織さんはちょっと恥ずかしそうに頷いた。
「でも、強すぎる女性って、恥ずかしいですね?それでは私はこれで…」
スーパーウーマンはインタビューを終えると空に舞い上がり、あっという間に姿を消した。
テレビ画面には報道陣からインタビューを受けるスーパーウーマン沙織さんの後ろ姿が映っていた。テロップには「スーパーウーマンさんの希望により、顔出しNGでインタビューに応じて戴いております。」と表示されていた。
「う~ん、やっぱりお義母さんは素敵だな~」
ハジメはスーパーウーマン沙織さんの勇姿に思わず、つぶやいてしまった。
「須賀先輩、何か云いましたか?お義母さんが云々って…」
「あ、いや、独り言だよ。気にしないで」
そんな、やりとりをしているうちに、スーパーウーマンのインタビューは終わってしまった。
スーパーウーマン沙織さんの姿が画面から消えるとほぼ同時にハジメのケータイにメールが入った。送り主は沙織さんだった。
「今夜の夕飯は焼きカレーにするわね。いま門司港です!沙織」
ハジメが帰宅すると、もう沙織さんは夕飯の支度を終えようとしていた。
「あ、お義母さん、その格好…」
沙織さんはスーパーウーマンのコスチュームにエプロン姿という出で立ちだった。
「この方が動き易いのよ。ハイ、あとは仕上げよ」
沙織さんはエプロンを外した。エプロンの下の「S」のエンブレムがいやらしく膨らんでいる。
そして、沙織さんの目からヒートビジョンがカレー皿に照射される。
ジジジジー
グツグツグツグツ
あっという間に焼きカレーが出来上がった。
「初めてやってみたけど、焼き加減はどうかしら?」
「えっ?お義母さん、初めてなんですか?完璧ですよ。カミサンも時々、焼きカレーを作ってくれるけど、どうも焦がし気味なんだよな…」
「あと、コーヒーも淹れるわね。はーくんはホットでいいかしら?」
沙織さんはそう言いながら、コーヒーポットにヒートビジョンを照射する。
たちどころに、コーヒーのいい香りがだだよう。
「私はアイスで…」
沙織さんのヒートビジョンで沸いたコーヒーをカップに注ぎ、氷を浮かべ、沙織さんはフッとカップに息を吹きかけると、あっという間にアイスコーヒーが出来上がった。
「はーくん。明日はお休みでしょ?どこかドライブに連れて行って」
こうして、須賀家の夜は更けていった。
-1話完-