台風一過
もう11月というのに今年は台風の当たり年のようだ。この2週間続けて台風が直撃をしやがった。
「いやぁ、ゆうべはすごかったなぁ。」
町の消防団に所属するおれは一晩中、公民館に詰めていた。
「おい、裏山が崩れて、住宅の路地のケヤキの木が倒れたぞ。道をふさいでる。はやいとこ、どかさないと…」
「おい、あそこは道が狭いからユンボなんか入らないぞ。仕方が無いな。人海戦術だ」
俺たちは団長と住宅の路地へ行った。
道の途中で、大きな岩が道をふさいでいた。
「おい、危なかったな。もう少しでおまえの家、直撃だったな」
大きな岩は俺の家の玄関をふさいでいた。
「これじゃ、岩をどかすまで窓から出入りするしかないか…」
とりあえず、住宅の路地へ向かったが、ふと、実家に帰っていたカミさんが気になった。
「恭子のやつ、無事かな?」
路地裏のケヤキの木が完全に道をふさいでいた。
「あ~あ、完全に道をふさいでるな。早いとこだかさないと、山田のじいさんの家、つぶれるぞ」
「おい、トラックから丸ノコとチェーンソーもってこい」
おれは団長に言われ、トラックに戻った。家の前をとおったとき、あの大きな岩がなくなっていた。
「あなた!無事だったのね」
カミサンの恭子が家から飛び出してきた。
「あ、恭子。おまえもだいじょうぶだったのか?」
「ええ、私はこのとおり、ぜんぜん平気だったわ。」
「それより、玄関の前の岩はどうしたんだ?」
「あ、あれね。私がどかしたわ。それに邪魔だから、砕いてしまったの。」
彼女はそういうと、玄関の横の赤土の山を指差した。
「それ、おまえが1人で?」
「ええ、そうよ。ほら、こうやってね」
恭子は赤土の大きな塊にパンチを入れた。
ドカッ!
大きな塊は粉々に砕けた。
「あ、早くトラックにもどって、チェーンソーもってこないと…」
「あなた、どうしたの?」
「裏山が崩れてケヤキの木が山田のじいさんの家に直撃しそうなんだ」
「まって、私が行くわ」
純子はそういうと住宅の路地に入っていった。
「あ、綿辺の奥さん」
「このケヤキの木をどかすんですよね?」
「どかすのは、どかすけど…。ユンボが入れないからこの木を切って小さくしないと運べないよ」
団員の藤田の言葉をよそに恭子は木に近づいて行った。
メキメキメキッ!
恭子はケヤキの木の枝を折った。枝といっても男の腕の太さぐらいはあった。
「奥さん、見かけによらず、すごい力持ちですね。まるでスーパーガールみたいだなぁ…」
「え?何か言いました?」
「オイ!源三じいさんの家の前が土砂で埋もれてるぞ!あそこじゃユンボ入らないなぁ」
「源三じいさんの家の前って広場になっていましたよね?それなら、行ける所まで行って下さい。私、後を付いて行きますから」
恭子はゆっくり走るユンボの後を軽いランニング気分で小走りに付いてきた。
「ダメだ。これ以上は道が狭くて進めない…」
「じゃあ、私が…」
恭子さんがユンボの下に潜り込むとやがてユンボが空中に浮かび上がった。
がしっ!
それは恭子がユンボ持ち上げていたのだ。
フワリ。
ユンボを持ち上げた恭子が天高く舞い上がった。その高さは杉の大木をゆうに越えていた。
「源三じいさんの家の前って、広場よね?私が持って行ってあげる」
ズシン!
恭子は源三じいさんの家の前の広場のユンボを下ろした。
「ヒロシさん、あとはお願いね」
「き、恭子。おまえ…」
「あら、ヒロシさん、言ってなかったかしら?あたし、結婚する前までスーパーガールやっていたから、こんな事朝飯前よ」
-おわり-
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