子供の頃、近所に大きな雑種を飼っている家があった。
その犬が私に飛びかかってきて以来、犬が怖かった。
動物を見るのは好きだが、触る事は恐くて出来なかった。
そんな私を不憫に思った祖父が『ハチ公物語』という映画を見せてくれた。
生まれて初めて映画館に行き、真っ暗な館内が恐くて、
祖父母の手を握っていた記憶がある。
映画の内容は非常に切ない内容で、涙が止まらなかった。
映画を見て泣くという事が恥ずかしい事なのかもしれない。と、
誰にも知られないように、一生懸命、涙を拭いた記憶がある。
祖父は犬が好きだった。
近所で犬が生まれたからと、可愛い子犬を連れて来た。
最初は祖父宅で育てる予定だったが、私がどうしても連れて帰りたいと言い、
両親を説得して、我が家に迎え入れることになった。
柴犬の雑種で、男の子『ロック』という名前をつけた。
うちの父は厳格なタイプで頑に「犬は屋内に入れない」と言う。
私は四六時中、一緒にいたかったので「犬小屋で眠る」と言って怒られた。
台風や雷の時だけ、玄関までなら入れてもらえた。
毎日、夕方散歩へ行き、時々ブラッシイングをして世話をした。
食事は母が朝晩と準備してくれた。
30年以上前のことなので、フィラリア予防などしていなかった。
ロックは8年間、一生懸命生きてフィラリアで亡くなった。
その悲しみが忘れられず、再度ペットを飼う気持ちにはならなかった。
まだ愛犬がいなくなった悲しみから立ち直ってないのに、
妹が友人宅から子犬を連れて来た。
「私が面倒見るから飼いたい」と妹は言った。
家族はロックが死ぬ時の辛そうな様子や亡くなる事の悲しみから反対した。
が、いざ、子犬を前にすると気持ちが緩んでしまう。
結局、子犬の可愛さに折れてしまい、我が家へ迎え入れる事になった。
私は断固反対していたので、お世話は妹が全面的にする事で合意。
しかし、成犬になると案外大きくなり、妹だけでは散歩に行けず手伝った。
高校生だった私は、家にいる時間が少なくなり、
満足にお世話が出来なくなり、姉や妹も同じように忙しく、
結局、両親が中心に世話をすることになった。
私は社会人になり、他県で一人暮らしをしたり、海外に住んだりして、
実家にいる時間が非常に少なくなった。
愛犬をすごく寂しい思いにさせていると、いつも罪悪感を抱いていた。
晩年は私が実家に住み、献身的に介護したが、老衰で15年の生涯を終えた。
やはり、犬が亡くなる喪失感は大きく永遠に悲しい。
苦しんでいる様子や私の帰りを待っていたり、思い出しても涙があふれる。
この悲しみは癒える事がないので、ペットを飼う事は二度とないと思っていた。
それから5年以上が経過。
大好きだった祖母が亡くなった。
亡くなる前の数年間は自分に出来る事を精一杯して、
祖母のために自分の時間を惜しみなく使った。
やはり、大切な人が亡くなる喪失感はとても大きく非常に心が痛む。
その悲しみを乗り越えて、急にどうしても犬が飼いたくなった。
取り憑かれたように『フレンチブルドッグ』を探していた。
自分でもなぜ、あの時にあんなにも探していたのかは分からない。
何の迷いもなく、一心不乱に探して半月。
『この子だ!』と運命を感じる出会いがあった。
そして今、4歳になるフレブルと一緒に生活している。
犬と暮らす事は、こんなにも心が穏やかになるんだと再確認した。
しかし、犬を連れて帰った日の両親は
「また、突拍子もない事を…」と私に飽きれていた。
最初は戸惑っていたが、今では大事な大事な孫同然に溺愛している。
姉家族・妹家族も大変可愛がってくれている。
非常に愛されている環境で愛犬と生活できていると実感。
愛犬が寂しい思いをしない努力をしている。
母が帰宅してから私が出勤し、私が帰宅する頃に母が出勤する生活。
外出する際も一人で留守番は極力避け、留守番が長くならないようにする。
遊びに行くところも、愛犬が入れる施設やレストランに行く。
旅行は愛犬と泊まれる宿だが、限られたホテルになるし、お金がかかる。
この度、お家時間が長くなり、ペットを飼う人が増えている。
亡くなる時の事を考えて、ペットを迎える人はいないが、
家族が増える事を、もう一度良く考えるべきだと思っている。
子供がいれば子供中心の生活に愛犬を振り回す可能性を考えるべきだ。
自分が成人前後は愛犬と一緒にいられなく寂しい思いをさる可能性がある。
今は在宅時間が多いけど、以前のように自由に外出出来るようになったら、
愛犬のお留守番時間が長くなるし、旅行にも思うように行けなくなる。
ペットホテルに預ければ良いと安易に言うが、預けられる犬の気持ちを考えるべき。
彼らは不安と寂しさで、普段のようには眠れていないかもしれない。
実際に我が家の愛犬も、数日ペットホテルに預ける事があったが、
食事をしなかったり、皮膚の状態や毛並みが若干悪くなった。
自分が家にいる時間が長くて、暇を持て余しているからと言う理由だけで、
安易にペットを迎え入れると、一時的な感情に後悔する事になりかねない。
特に、子供が「ワンちゃんが欲しい」という無邪気な言葉でペットを飼うと、
以前のように外出できなくなることを今一度考え直す必要がある。
最近、ニュースで「ペットが邪魔になった」「急に飼えなくなった」などの
人間の身勝手な理由で捨てられるペットが多く、保護した団体の番組を観た。
保護犬は震えて汚れてガリガリで、見ているのも辛く、涙が止まらなかった。
時間とお金と愛情に余裕があるかを、もう一度考え直して、ペットを迎えて欲しいと切に願う。