森に足を踏み入れると、足元には苔やキノコが生え、落ち葉がびっしりと敷き詰められています。

小動物の糞や死骸も混ざっています。

落ち葉をはぐってみると、小さな土壌動物が息づいています。

ミミズ、ヤスデ、ダンゴムシ、さらに小さなヒメミミズやダニ、線虫もいます。

その役割は、主に落ち葉などの大きな有機物を粉々に分解することです。

代表であるミミズの腸内には、落ち葉を分解して栄養に変える優秀な腸内細菌がいて、糞にして豊かな「土の素」を作ります。

ミミズが糞として作った「土の素」をさらに分解するのは、目に見えないもっと小さな存在。

土壌に暮らす微生物です。

微生物には、細菌、放線菌、菌類、ウイルス、土壌藻類、原生動物類（アメーバや鞭毛虫など）がいます。

微生物は、粉々になった土の素を分解・発酵させることで、植物に吸収可能な栄養とします。

微生物がいなければ、土は作られず、植物は生きられません。

最終的にできた栄養豊富な生成物を、腐植といいます。

森で落ち葉をめくると出てくる黒褐色の部分です。

微生物は、フルボ酸などの有機物を産生します。

この酸はとても重要で、土壌の㏗を最適化し、土壌微生物の活性から植物を元気にします。

この腐植と、ミネラルなどの無機鉱物が混ざり合ってできるのが、土です。

腐植を豊富に含む土を腐植土といいますが、たった１ミリの腐植土ができるまでにおよそ10年もの歳月がかかります。

黒褐色の土は、森が誕生して以来、多様な生命が生きては死に、微生物が発酵を繰り返して積み重ねた生命現象のたまものなのです。

地球上でもっとも微生物が活発なのは、こうした代謝が起きる土の表面（表土）です。

たった１ｇの土には、100億～1000億個、6000～5万種ほどの細菌が暮らしているとされています。

そうして美しい生命の網が紡がれるのです。

このようにして維持された陸地の生態系は、水を通じて河川や海の生態系にも影響を与えます。

すべての生態系は、ネットワークを形成し相互依存関係にあるのです。

人も、その一部です。

～『腸と森の「土」を育てる　　微生物が健康にする人と環境』　桐村里紗著～より

帰結 その１ 土