冷たい冬の空気が、容赦なく美絵の頬を刺していく。


美絵は小走りになりながら進み、二人を追い越した。

2人の歩く速度は、イルミネーションを見ているせいか遅い。


美絵は横断歩道を渡り、一度息を整えた。



――2人はまだ、この先にいる。――



何がしたいのか、何をするつもりなのか

美絵自身にもわからない。


大きく息を吸って、ゆっくりと息を吐きだし

前を見て背筋を伸ばした。


怒りなのか、蔑みなのか、悲しみなのか

わからない感情の渦に飲み込まれながらも

キリッと前を向いて歩き出した。


前から向かってくる和也の姿を見つけた。


睨み付けるでもなく、和也を真っ直ぐに見据えた。


通り過ぎる人が、自分を見ているような気がした。



実際、人目を引いた。

もともと、目立つ顔立ちに、なんとも言えない迫力をたたえ

頬を上気させた美絵は綺麗だった。


ゆっくりとしっかりと和也に向かって歩く。



気乗りしない顔の和也が、ふと前を見た。

美絵を確認した和也の顔が強張る。


輝くイルミネーションの中を、真っ直ぐに自分を見つめた美絵が

ゆっくりと近づいている。


美絵の表情は、微笑んでもいない。

悲しんでもいない。

怒りでもない。


まるで、自分を知らない人でも見るように

まるで、自分を無視するように

前を向いた美絵が進んでくる。


和也は、美絵から目が離せなかった。


なにも聞こえない。

2人の空間が、近づく。


美絵のヒールの音が、和也の頭の中で響く。

一歩、二歩・・・・・


すぐ目前に美絵が近づいたとき

和也の袖をつかんでいた女性が美絵を見つめた。


美絵は、視線を和也から移し、一瞥し、

そのままの速さで女性の横を通り過ぎた。


通り過ぎるときに、目の端で和也をみた。


和也は、横を向いて美絵をみた。


ゆっくりと二人の視線が絡んだ。

和也の瞳に狼狽の色が浮かんでいるのを

美絵は確認した。



カツ、カツ、カツ・・・・・・・・


和也は、美絵のヒール音が遠くなるのを聞き

左手で顔を覆い上を向いた。


「今の人、綺麗な人でしたね、加瀬さん?」



和也は、掴まれていた袖を振り払い後ろを振り向いたが

美絵の姿はなかった。