君一人と二つの月

本心を隠して 平気なふり

雨の中 僕は隠れて

いつも笑ってる

 ―WONWOO X MINGYU feat. Lee Hi 'Bittersweet'

 

 

この記事は、 

 

 

の続きです。

 

本記事では、前回に引き続き

POWER OF LOVEプロジェクトにおける配役

について書いていきたいと思います。

 

これまでの考察でわかっていることは

 

(1)  POWER OF LOVEプロジェクトは、サン=テグジュペリの作品と生涯のイメージを引用しながら、SEVENTEEN自身の絆や決意、愛の物語を表現したものである。

 

(2)  オンラインコンサートINCOMPLETEもプロジェクトに含めて考えるべきである。

 

(3)  GOING SEVENTEENやメンバーのSNS投稿などにもヒントが隠されている。

 

(4) Performance Teamは天上の人、Hiphop teamは地上の人である。

 

(5)  ディエイトが「王子さま」ミンギュが「ぼく(サン=テグジュペリ)」ドギョムが「キツネ1」である。

 

 (6)「王子さま」と「ぼく」には同一人物的なところもある。 

 

(7)  ドギョムは今年、ウォヌと二人で一人を演じていることを仄めかすかのように、ウォヌとのツーショットをよくSNSに投稿していた。

です。

 

それでは、

もう一人のキツネ・ウォヌについて

いていきたいと思います。

 

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(4)WONWOO 

《キツネ2 (シルヴィア・ラインハルト)/ヘビ》 

 

  私がウォヌを「もう一人のキツネ」だと思う理由はいくつかあります。

 

①キツネのエディ

 まず、SEVENTEENのキツネ」と言えば、ウォヌを思い浮かべる方が多いのではないでしょうか。2016年、'VERY NICE'の時期に急性胃炎からの回復中で活動に参加できなかったウォヌの代わりに、SEVENTEENはキツネのぬいぐるみを連れて活動していたからです。

 このキツネは『ポンポンポロロ』という韓国の番組に登場するエディというキャラクターだそうで、すっとした切れ長の目や知的なキャラクターがウォヌに似ていると思ったのか、メンバーはエディのぬいぐるみに眼鏡を着用させ、普段眼鏡をかけているウォヌの姿に似せていました。

 'VERY NICE'のChoreography Videoでも、ステージ中央の目印として、このぬいぐるみが置かれています。

SEVENTEEN 'VERY NICE' Choreography video

 

② 'Bittersweet'

 しかし、それならばなぜ素直にウォヌだけをキツネにしなかったのでしょう?

 それは、そもそも『星の王子さま』のキツネのモデルとなったものが、少なくとも二つあるからだと考えられます。キツネには、光と影とも呼べるような、二つの側面があるのです。

 

 一つは、サン=テグジュペリが砂漠に不時着した際にその足跡を見て励まされたり実際に飼ってみたりしたことのある動物のフェネックです。挿絵ではふつうのキツネのようですが、王子さまを送り出す表向きのキツネはこの動物から生まれたと考えられています。こちらが、ドギョム扮する表のキツネでしょう。

 

 一方、ウォヌが表現しているのは、キツネのもう一つのモデル、亡命先のアメリカで『星の王子さま』を執筆していたサン=テグジュペリと恋に落ちたシルヴィア・ラインハルトのイメージだと思われます。

 前回の記事に書いた通り、キツネは、表向きは、泣いてはしまいましたが旅立つ王子さまを励まし快く見送りました。しかし、心の奥底には、ここにいてほしい、あるいは自分も一緒に旅立ちたいという複雑な思いを隠していたかもしれないのです。

 

 シルヴィアとサン=テグジュペリがアメリカで出会った時、フランスには、バラのモデルとなったサン=テグジュペリの妻がいました。

 不倫関係を美化することはできませんし、『星の王子さま』のキツネはあくまで友だちとして描かれています。

 しかし、友だちとして考えるにしても、キツネと王子さまの台詞を注意深く読むと、王子さまが地球で親しくなった友だち・キツネを選ぶか、それとも故郷に残してきた恋人・バラを選ぶかといった問題は確かに存在し、そこには三角関係のようなものが成り立っています。

 

 ここで思い出したいのは、'POWER OF LOVE'プロジェクトの第一弾は、ミンギュとウォヌがイ・ハイを迎えて三角関係を描いた'Bittersweet'であったということです。下にMVと歌詞を引用します。

 

恋はなぜ恋になったのだろう

近づくと遠ざかる

近づけなくてごめん

こんな自分が嫌だ Umm Umm

君一人と二つの月

本心を隠して 平気なふり

雨の中僕は隠れて いつも笑ってる

Woo 見つけられなさそうな

答えを求めている

その次も願いながら

 

どんなことも どんなことも

思い通りにはいかなくて

同じ視線 違う想い

とても甘くて とても苦い

 

僕の手を差し出して 心を期待したら

エゴが膨らんで蝕んでいく

僕たちの間の隙間を埋めて

満たしていくほど 心の空欄は大きくなる

 

そうして過ぎ去った季節の感触と

刹那の香りを両手に握らせて

僕の前にいる君 その前に立ち止まって

I’m okay, Not okay

 

―MINGYU WONWOO (feat. Lee Hi) ‘Bittersweet’

 

 下に引用したインタビューでウォヌ自身が解釈の余地を残したと語っているように、この作品からは様々なストーリーが考えられます。誰の気持ちが誰に対していつから恋になったのか、登場人物たちがどんな関係にあるのか、はっきりしないところが魅力とも言えます。

 

 

 

 ただ、「君一人と二つの月」という言葉からは三人の登場人物のうち二人が一人に恋をしている展開が想像でき、そのほかの部分からは、踏み出したら関係性が壊れてしまうような、そんな状況にあることが伺えます。

 

 この作品をどう解釈するかは聴いた人の想像に任されていますが、想像できる様々な解釈のうちの一つとして、キツネ(シルヴィア)の気持ちを歌ったものであると言うことは可能だと思います。

 

③'Ready to love'の二つの電話ボックス

 「友だちか、恋人か」というこの問題は、’Bittersweet’の次にリリースされた全員での曲'Ready to love’にも引き継がれたように思います。

 ‘Ready to love’の序盤、"Bittersweet"を歌ったウォヌとミンギュの前に、“Friend”と”Lover”と書かれた色違いの電話ボックスが立ちはだかるからです。

(SEVENTEEN 'Ready to love' MVよりスクリーンショット)

 

 'Ready to love'は、二人の関係が友だちから恋人へ変わる直前の、「僕はもう愛する準備ができているけれど、君はどうしたいと思っているの?」という、大きく膨らんで溢れ出す感情を歌った曲だと思います。

 ですから、この作品単体で見ると、この並んだ電話ボックスは、一人の人物に対する「友だちのままでいるか、恋人になるか」という問いの象徴に見えます。

 

 しかし、ここに登場するメンバーがウォヌとミンギュであることを考えると、どこか、この曲の前にリリースされたPOWER OF LOVE第一弾“Bittersweet”の続きであるという感じもします。

 そう考えると、上記のようなReady to love的問いのほかに、「王子さま(≒サン=テグジュペリ)がキツネ(友だち)を選ぶか、バラ(妻)を選ぶか」、あるいは、「キツネ(シルヴィア)が思いを告白して今の関係を壊すかどうか」、という別の問いとしても解釈できる気がします。

 

 ミンギュが選ぶ“Lover”の電話ボックスにバラの花が添えられていることからも、この解釈はあながち間違っていないように思えます。

(SEVENTEEN 'Ready to love' MVよりスクリーンショット)

  このバラは、自分の星でバラと暮らしていた時は幼すぎて愛するということがわからなかった王子さまが愛を理解してバラの元へ飛んでいく決意をしたという、「友だちから恋人へ」というテーマを含むReady to love的解釈と、王子さまが結局キツネ(友だち)を置き去りにしてバラ(恋人)を選んだというBittersweetの続編的解釈、どちらにも合います。

 きっと、どちらかが正しいというのではなく、あえて何重もの解釈ができるように作られているのだと思います。

 

SEVENTEEN 'Ready to love' MV

 

 そして、地上に残された者」のイメージは、次のアルバム'Attacca'にも続いていきます。 

 

④‘I can’t run away(恋しがることまで)’と”舞い落ちる花びら” 

 ‘I can’t run away’は’Attacca’に収録されている、ウォヌの属するHiphop teamの曲です。バーノンとエスクプスについては説明がまだですが、こちらも地上の人です。

 もちろん、この曲も、単独で見て切ない失恋の歌として聞くことができますが、POWER OF LOVE全体のストーリーの一環として見ると、王子さまが帰ってしまった後、砂漠に残されたキツネや「ぼく」の気持ちとして読むことができます。

 

SEVENTEEN  

'I can't run away(恋しがることまで)'

 

I won’t run away 

I won’t run away 

 

狂ったように逃げる

息を切らして 振り返れば

白く積もった記憶の上に伸びる足跡

目的地のない歩み

君でいっぱいだったこの場所は

ない かすかな暗闇

昼も夜もなく 君に

ついて歩きながら一人残ったこの場所

僕たちの痕跡が溶け出したら

気持ちは楽になるでしょうか?

毎日止むことなく積もっていく

何の前触れもなく

残ってしまったこの場所で

全て溶ける時までは

僕の好きなようにさせて

立ち去るにはあまりに美しくて

I won’t run away, run away

君の記憶が全て消える時まで

I won’t run away

The more things change, the more they stay same

君は遥か遠くにいて僕はそのままの場所に

雨風雪霜

冷たい心の奥深く 消えない火種

一緒に走ってきた花道

香りだけいっぱいに残りますように

僕はきらびやかな光の中の影

もっと輝きますように

過ぎ去った愛は

美しい痛みとして残されて

君の白い世界に大きな点

僕たちの痕跡が溶け出したら

気持ちは楽になるでしょうか?

(中略)

僕たちだったからこそ美しくて

小さな憎しみひとつない愛だから

時々漏れ出す悲しみも

愛だと呼べる

君を恋しがることまで

愛として美しく残るように

積もった記憶が溶けて海になっても

僕をここに置いていく

I won’t run away, run away

君の記憶が全て消えるその時まで

I can’t run away 

 

 いかがでしょうか…? "Run away"という言葉は'Ready to love'にも何度も出てきましたので、関連付けて考えることができそうです。

 'Ready to love'で王子さまが愛するバラのために世界の果てまでも走っていったとすると、こちらには、そんなふうに走っていけない、ここに残った人の気持ちが歌われているように見えます。

 

 そして、多くのファンの方が感じたことと思いますが、ハイライトメドレーの”I can’t run away”の舞台装置は、2020年の”舞い落ちる花びら”のものと明らかに似ています

 

SEVENTEEN 

9th Mini Album 'Attacca' Hilight Medley

 

SEVENTEEN '舞い落ちる花びら'

 

以下の写真は、1~2枚目が 'I can't run away'からのスクリーンショット、3~4枚目が'舞い落ちる花びら'からのスクリーンショットです。

 

 

 

 ‘I can't run away‘と‘舞い落ちる花びら’の舞台装置は、ちょうど天地を反転したような、対になっているものに見えます。そして、どちらにもたくさんの花びらが降り注ぎます。

 

 ‘I can't run away’では様々な種類の花びらが落ちてきますが、中でも濃いピンクのバラの花びらのようなものがひときわ目立ち、ウォヌの胸に着地するのが印象的です。

 

 日本シングルであることや「舞い落ちる」という表現からは桜などもイメージされますが、IN-COMPLETEの‘舞い落ちる花びら’では、とても大きな濃いピンクのバラのような花がスクリーンに映し出されました(※考察Part1で述べたとおり、TMA授賞式でのパフォーマンス前にジョシュアの声で“Love is completed by incomplete things「愛は不完全なものによって完成される」”というナレーションが入り、私はこの言葉を「POWER OF LOVEはIN-COMPLETEによって完成される」と解釈したので、IN-COMPLETEもプロジェクトの一部だと考えています。そして、IN-COMPLETEの曲や衣装や演出は『星の王子さま』にぴったりなものばかりです)

 こういうところを見ても、やはり繋がりは無視できないように思います。

 

 ‘舞い落ちる花びら’のMVでは何人かのメンバーが鎖に繋がれていますが、砂漠のような地面に繋がれたウォヌのもとに、真っ白な衣装を着たジュンが天の使いのように降りてきてともに微笑む場面は、MVのクライマックスとも言える印象的な場面だと思います。

 

 時系列は不明ですので、これが出会いの場面なのか再会の場面なのかわかりませんが、いずれにせよ、‘舞い落ちる花びら’でも、ウォヌは「天上の人物と出会った、地上側の飛べない人物」と言えるでしょう。

 

 ‘舞い落ちる花びら’は2020年の曲で、これが『星の王子さま』を意識して書かれたものかはわかりませんが、もともと関係のない曲だったとしても、後から、今回のようにも解釈できるように新曲(‘I can't run away’)を制作することは可能だと思います。

 

 このような理由から、私は、ドギョムが表現しているのがキツネの光の部分だとすれば、ウォヌが表しているのはキツネの影の部分、すなわち、天から舞い降りた王子さまと出会い、心通わせ、そして地上に残された者の複雑な思いではないかと思っています。

 

 キツネのエディのぬいぐるみでメンバーがウォヌとの絆を示した’VERY NICE’の思い出と、多くを語らずともその表情と声でドラマを滲ませることのできるウォヌの魅力から、この難しい役を任されたのではないかなと思います。

 ‘I can't run away’にMVはありませんが、ハイライトメドレーで花が降ってくるあの場面の、たった数秒間のウォヌの声と表情がすごく印象に残っているという方は多いのではないでしょうか。

 

 

 さて、ドギョムに「キツネの二分の一」だけでなく「ギヨメ」という役があったように、ウォヌにももうひとつ役があり、『星の王子さま』で最もミステリアスな存在である「ヘビ」ではないかと思っているのですが、字数が限界に達しそうなので、こちらはまたいつか書くことにします。

※追記・ヘビについても書きました。

 


 次回は「バラ」について書こうかなと思っています。

 読んでいただき、ありがとうございました!

 


※追記2・‘Bittersweet’リリースの一週間前に配信されたジュンのソロ曲‘Fall in love’のLyric Videoは、ガラスケースに入ったバラの花宇宙街灯星の上にいるキツネらしき動物など、『星の王子さま』に登場するモチーフに満ちています。

リリース当時は気が付かなかったのですが、この間聴いてみて気が付きました。ジュンの声が活かされていてお洒落で可愛い曲ですよね。