彼はこの教室の優等生が誰も答えることができなかった難問に正解した“ヒーロー”にすっかりなってしまっていた。



彼らのテンションが上がっているのを彼は手に取るようにわかった。それと同時にそれを


裏切ることが自分にとって何を意味しているのかも・・。



3時間目の授業は、彼は最初から緊張しっぱなしだった。



ちょっとした動作にも気を遣うような感じだった。



そのとき彼はたまたま消しゴムを机から落としてしまった。



それを拾おうと彼は手を伸ばした。



そのとき、特殊な緊張感の中、反射的に彼はこう思った。



“頭のいいヤツの落ちた消しゴムの拾い方”



彼は念仏のようにそのフレーズを頭の中で口にした。



彼は机の下にある消しゴムを拾おうと思ったが、一旦、止めた。



そして、皆が見守る中、静かに教室を出た。



“どうやったら納得のいく拾い方ができるんだ?”



彼はしばらく考えた。



“頭のいいヤツは何かしらのギャップを持っている人かな”



“てことは、消しゴムを拾うまではゆっくりで、拾ったあとは素早く・・スローアンドクイックだ”