少年は行くあてもなくただ歩き続けていた。いくつもの山や川を越え、ここまで辿り着いてきた。しかし、その歩みは止まることなく、彼をさらに別の場所へと駆り立てる。彼自身、自分が次に一体どんな場所にいくのか全く想像できない。それが彼にとっては当たり前のことなのである。


 

彼の腰には透明のヒモが付いていて、その先には大きなまたしても透明な“球体”が繋がっていた。彼はこの重さを全く感じていなかった。


 

この球体にはこの世のあらゆる富が詰まっていた。そのため、人々はこの球体の後をひたすら追っかけてきた。少年がいる所に球体があり、そして、また、富を求める人々もいるのである。


 

しかし、不思議なことに人々は球体だけに注目するあまり、その先にいる少年の存在に全く気付かない様子であった。


 

なぜ、この富が移動しているのかということに人々は関心がなく、富がどこにあるのかにしか興味がなかったのだ。


 

あるとき、少年は人々に自分の存在を気付かせるため、そのヒントとなる言葉を球体の中に放り込んだ。


 

それから、長い年月が経ち、人々が球体の富によって栄え始めてきた。


 

未だ、彼らは少年を捉えることはできていない。


 

しかし、彼らはいつしか彼の存在を“信じる”ようになっていた。