僕は今まで何か明確な目標があって働いていたわけではなかった。強いて言えば、世間が僕に求めるイメージを正確に捉え、そのイメージ通りの人間を演じることにただ努めているだけの毎日だったと言える。




もちろん、それが悪いわけではない。そういうのが必要となるのが現実だからだ。ただ、僕が今、“ここでの暮らし”を通して思うようになったのはまた“元の世界”に戻れるとしたら“新しい場所”を作ろうと思った。具体的な内容はこれから考えることにしよう。




僕は今、この世界ではこの街をマネジメントするという“ポジション”にいる。やっぱり、“場所”は大事だ。




僕は一日の“やるべきこと”を終え、いつものように眠りについた。



朝が訪れ、僕は目覚めた。洗面所から出て、朝食の準備をしようと冷蔵庫に向かったとき、携帯の着信音が鳴った。




“おかしいなぁ。彼らはいつもならこの時間帯に電話をかけてこないのになぁ。何かあったのかなぁ・・”。心配になり、隣の部屋へ行き携帯を手に取った。僕はなぜかそのとき、誰からの電話か表示されている名前を見ずに電話に出た。




「石神!何の連絡もしないで遅刻か!?寝坊したんなら急いで会社に来い!」

と言い終わると、プッツリ切れた。




やけに懐かしく感じる声であった。僕の会社の上司だった。



僕は慌ててテレビのスイッチを押した。番組がどのチャンネルでも流れていた。




僕はしばらく考えた。何もかもが戻っているみたいだ。この街が活気を取り戻したことを見計らったかのようなタイミングであった。それはまるで、希望のない街を見捨てた人たちがずっとこの街をどこかで観察していて、希望が生まれ始めたことを確認すると再び戻り、まるで何事もなかったかのように振る舞っているようにも思えた。




僕の名前は石神達也。




そして、僕はふと思った。“彼ら”は一体どんな朝を迎えたのだろう、と。