無視をされたから殺した…。
16歳の男の子が殺される。
殺したのは高校の同級生。
きちんと,自分の意見に耳をかたむけてほしかったにちがいなかった。
むかつくっていってるだろ,つらいっていってるだろ
自分のサインに誰も反応しないとき,
もしかして自分ってもとからいなかったんじゃないかと感じる。
そういうのが,風みたいにふうっと首元をふきぬける。
その瞬間,その風にのって自分の体が砂になって消えていくのがわかる。
風は,そこにいる友人とは反対方向にふく。
だからこの砂で誰かがくしゃみをすることもない。
彼らが笑いあってキラキラしている間,自分の体はふかれて消えていった。
むかつくっていってるだろ,つらいっていってるだろ,きづいてくれって言ってるだろ!
一番近い誰かに向けられた殺意は,自分が消えてしまう前にふりしぼった最後のヒトフリなのだ。
本当はその人の肩にそっとふれたかった。
―ぼくもまぜて!
そう言いたかったけど,また誰も反応してくれなかったら?
それなら,必ず誰かが見てくれる方法を選ぼう。
そうすればみんな,ぼくのほうを向かざるをえないだろう。
―やっと見つけてくれた!
消えかけた体を返り血で染めて,世間(みんな)に笑顔を投げかけるのだ。
―あなたが生きているだけで,幸せよ。
もし,腕の中に抱かれているときから,そんなふうに言われていたら,その人生はどう変わっただろう。
―お母さん,こんなことがあったの。
もし,きちんと座って,その言葉に耳を傾けてくれていたら,その体は砂に変わったのだろうか。
きらきらと輝く人を見るのが大嫌いだ。
その人たちは「注がれて」きたにちがいなかった。
そうして「豊かな」者が,「乾いた」者を軽蔑する。
母,友人,同僚という心の潤いの源を,泉を,豊かな者がすべて独占し,乾いた者は砂になるまで軽蔑され,やがては忘れられる。
次に豊かな者が彼らを思い出すのは,彼らが自殺や殺人という手段を選んだときなのだ。
―やっと世間(みんな)が見てくれた…!
愛を勝ち取る彼の戦争はここで終わり,返り血をふくんだ砂はどろだんごとなった。
もう消えずに済むのだ。
―学生時代から変わった子でした。
―死んだ人がかわいそう。
豊かな者は,乾いた者の心の核心にふれることはなく
どろだんごは乾き,また砂にかえっていった。
生きていることが,砂漠を旅するのと同じに思える。
今ふみしめている砂漠の砂も,きっとだれかの体の一部だったのだろうと思う。