恋愛小説のように   1



俺は恋愛小説家

柄にもなく恋愛小説なんか書いているが
実の俺は一度も結婚することなく45歳になった


過去 恋人は何人かはいたが
今現在はいない

今は毎日餌を目当てに庭に顔を出す野良猫のミューのように

可愛くて愛でたい子はいる




今日はその子が訪ねてくる日


「こんにちはー!おじゃましまーす!」

「おう。」

「センセ~、またひどく散らかしてますねぇ(苦笑)」

「よろしく頼む。」


彼女の名は“遊(ゆう)”という 

時々 この古民家一軒家の掃除と俺の飯を作り置きをしに訪ねてくる家政婦の25歳の女の子

誰よりも先に俺の原稿を読ませて欲しいという条件で破格の安さのバイト料で契約した


遊が来てくれるようになって

洗濯だの 掃除だのに時間を取られなくて済むことで時間が有効活用でき正直かなり助かっている



「いつになったら洗濯物を洗濯かごに入れてくれるんですかぁ~?」


脱ぎ散らかした靴下を汚い物を指先で摘まむように俺の顔の前に突き出してきた

「あぁっ、よせっ!早くやっちまってくれ。」

「はぁ~い。」



彼女には週2回  火曜と金曜に来てもらっている

それ以外の日は実家の金物屋で店番をしているようだ

朝9時に来てから洗濯を始めて
掃除や昼飯、作り置きのおかずを作り
洗濯物を畳んで収納し終えるのが大体午後2時頃



彼女は俺の作品のファン

家事を済ませると4時頃まで俺の本棚の本や原稿を読むのが日課になっている




彼女と知り合うきっかけになったのは
古い友人と近所の飲み屋で飲んでいた時だった


たまたま隣にいた彼女は俺達の話をこっそり聞いていたようで


“私はセンセのファンでセンセの作品は全部持ってます!!”と

あの調子で話しかけてきたのだった





ーー 初めてだったんだんだ



俺はサイン会もしないしメディアに顔も出さない

作家名も本名じゃない


ファンレターを“読む”ことはするが
直接 ファンだと言ってくれたのは遊が初めてだった


遊は瞳をキラキラ輝かせながら

“あの作品の、あのシーンが特に!”と細かく俺に力説した


俺のお気に入りのシーンを俺と同じように感じてくれているーー



それに俺は感動した

本当に
嬉しかったんだ…
 




「すぇんすぇーっ!!」

パタパタと俺の元にやってきた


「なんだっ!騒がしいなっ!」

「これっ!なんなんですかっ!?」

手に持っていたのはクラブでママにもらった名刺だった


「見りゃわかるだろう。ただの名刺だ。」

「センセ、クラブに行ったんですかぁ!?」


鼻息荒く小鼻を膨らませながらその名刺を俺の顔にくっつきそうなほど目の前に突き出した

「ちょっ、なっ、近いわっ!行ったらなんだってんだっ!」


「… センセのイメージ崩れますよぅ… クラブに行く人って女遊びが好きなお金持ちのエロオヤジじゃないですかぁっ!」



そのクラブのママが俺のファンだということで

ママと知り合いだった編集者が是非に是非にどうかお願いします、と強引な低姿勢で頼まれ連れて行かれたクラブ

その時に貰った名刺だった


「客のみんながそうって訳じゃない。それはお前の偏見だ。お前の俺のイメージはなんなんだよ。」


「少年の心を持った~   … 変態?」


「変態!? 俺のどこが、」



すると洗濯機から終了の音が流れた

「あ、洗濯終わったみたいですね!」


慌てて洗濯物を取り出しに向かった


直ぐに興味が反れてしまう所は猫のようだった



縁側から暖かい風が吹き抜け
今年は珍しく春らしい過ごしやすい日が続いている

洗濯カゴを持ってベランダに出てきた彼女をぼんやりと眺めた


物干し竿にシーツを干すとシーツはゆらゆらと揺れ

彼女のスカートも同じように揺れていた



ん? スカートなんて珍しいな


「今日は良いお天気なので洗濯物が良く乾くと思いますよ(笑) もう1回洗濯機回しますから!」

「おう。」



「ミャア… 」

今日も野良猫のミューが庭木の隅っこから顔を出した


「ミュー、こっちおいで(笑)」


俺が呼ぶと膝の上に乗って来るほど今は懐いてくれている


子猫の頃から俺んちに顔を出すようになったミューは “ミュウ、ミュウ”と鳴いていた


それで俺はその子猫をミューと名付けた



今日も彼女はてきぱきと家事を済ませようと頑張ってる

最後に原稿を読ませろと言うのが日課だからなぁ(笑)



「あ、センセ?今日は家事終わったら直ぐにおいとましますので!」


ん?


「そうなのか。」

「はい(笑) 彼とデートが入っちゃって!テヘッ♡」


は!? 
デート… だと!!


「お前… 男 いたのか。」


「それ、セクハラですよぉ! あれ? モラハラ? どっちだ?」



嘘だろ…

ショックを受けた



「…いつからだ」

「えへへ♡ 先月です(笑) 言ってませんでしたっけ?」

「知らん!俺は聞いてねぇぞ!」



遊は驚いた顔をした

「なんでお怒り口調なんです?」

 
「あ、あぁ、すまん… 」



まるでミューがよそんちの猫になっちまったような

強いジェラシーと寂しさを感じた


そんな俺の気持ちも知らず
遊は呑気に大きな声で歌いながら掃除機をかけている


最近綺麗になったなって気付いてたよ…


でも そういうことを言うのは…アレだから言わなかった



そして遊は早々に家事全般を済ませ
いつもより1時間半早めに帰ることになった


「じゃあセンセ? ちゃんと洗濯物は洗濯かごに入れといてくださいよ?ではまた来週の火曜に~(笑)」


「…お、おう。気をつけて帰れ。」



遊がいなくなっただけで急に静かになった


よし、静かになったことだし仕事に集中集中!

パソコンに向き合ったけれど
モヤモヤして続きが浮かばねぇ…


あいつがデート…か

彼氏の前だともっと淑やかなんだろうか


想像がつかねぇ…





ーーー




今日は火曜

遊が来る日


雨が降ってるから外に洗濯物は干せない

別室で室内干しできるスペースと除湿機を使って洗濯物を干すだろうと除湿機を出しておいた


「こんにちは~。おじゃまします。」

「おう。」


遊は大きなバッグから出したエプロンをかけ洗濯物を拾っていく


なんだ?
いつもと様子が違う

いつも騒がしいくらいのヤツなのに今日は静かだ


洗濯物がまた散らかっているのを本気で怒ったのだろうか


「すまん、洗濯物」

「いいんです。」


えっ?
明らかにおかしい…


「おいおい、今日は暗いな(笑) 彼氏と喧嘩でもしたとかかぁ?(笑)」


「うっ、、」

顔をぐしゃぐしゃにして俺の顔を見た


は?

マジかよ…



「早く仲直りしろよ(苦笑)」

「うっ…ぅわぁーん!(泣)」

いきなり号泣し始めて驚いた



「ちょっ、、おい、大丈夫か?」

ティッシュを差し出した


「ずびばぜんっ、うっ、うっ、」
ティッシュで鼻をかんだ


喜ぶのも泣くのも 
いつもパワー全開だな…(苦笑)


「じごどは、ぢゃんと、(グズッ) じまずがら、、」

「お、おう… 」



その言葉通り、きちんと仕事はいつも通りてきぱきとこなしていった


昼飯ができ 向かい合わせに座って一緒に食い始めた

遊の瞼は真っ赤に腫れていた



「… 何があったんだ?」

「私… 嫌われちゃったみたいです… 」

「…なんでよ。」

「もっとお淑やかな女の子がいいって。うるさいんだって。」


はぁ?


「んなこと、お前のことわかってて付き合いだしたんじゃねぇのか?」

「私、そんなにうるさいですかね?」


まぁ…そうだな
落ちつきはあんま無いわな


「でもまぁ、お前のそういうとこが好きな男もいるって。まだ若いんだからそういうのも良い経験になるさ。」


遊には悪いが
俺は内心ホッとしていた

どうしてだろう



俺は遊が可愛い


ほんと騒がしいし落ちつきがないやつだけど
裏表の無い天真爛漫で素直なところが良い所だ

家事もできるし作る飯もなかなかのもの



遊はまだ涙目で昼飯を食ってる


「なぁ。遊はどんな男が好きなんだ。」

「センセみたいな… 」


へ!? 

「少年みたいなところがある」

「ほ、ほう…?(照)」

「年下の、」

「チッ!結局 女は年下クンかよ。」


一瞬ドキッとして損した!



お前なら…

年下よりも心に余裕のある大人の男がイイんじゃねぇのか?


たとえば
俺みたいな

いや… 俺は

付き合うなら色気のある大人の女がいい
40代なんて最高だな

「くふふふっ…(笑)」

「だからぁ、センセのその気持ち悪い笑いが変態みたいなんですからやめてください~」

「なんだとぉ~!?」



周りの人間は俺に“先生、先生”と媚びへつらう


そんな中でこうして俺にズバズバとモノ言うのはこの遊だけ…



俺にとって遊は特別な存在

唯一俺が俺らしく
こんなくだらないことで笑えるのはこの子のおかげだ


それでも遊はあくまでもミューみたいな
手元で愛でるだけで

ただ それだけで
幸せな気分になるような存在だった



ーーー



「センセ、原稿。」

「あぁ、そうだったな。」


パソコンの画面を遊に向けた



いつもこの瞬間は緊張する

どんな感想が聞けるだろう…



遊の真剣な表情は
原稿を読んでいるこの瞬間だけだ


すると
遊の瞳から綺麗な涙がポロポロとこぼれだした


… あ


「センセ… 良かったです… またこの二人の気持ちが通じ合えて…(笑)」


「そっ… か、ははっ(笑)」




こうして
読み手の生の声が聞けるのはこの瞬間だけ


「私もこんな恋愛したいなぁ…(グズッ)」


だったら

俺と…



「そういう恋愛、してみるか?」




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