Sが小学4年の7月、コロナが少しずつ落ち着いて来た頃、少年野球チームに意を決して入団する事にした。


 入団したチームは地元では歴史あるチームで、過去にはプロ野球選手も輩出している。


 監督やコーチはチームメイトのパパさんだった。身長180センチオーバーの大きい方がほとんどで、並んだ時には大きい壁のような威圧感があったが、皆さん温厚で息子を熱心に指導して下さった。  

 野球指導というと、理不尽で度が過ぎた指導が話題になる事があるが、Sのチームはその様な事はなく、伸び伸びとプレー出来る様に育てて下さった。


 入団当日、妻が父母会長から説明を受けていると、ヘッドコーチが突然来て、


「ユニフォームの予備なかった?

 今すぐSを試合で使いたいんだけど。」


「えーっ!!」


周りにいたママたちが皆驚いた。


チームの物置から引っ張り出したユニフォームを着せ、その日の午後の練習試合にさっそく出場した。

 後で聞くと、午前中のバッティング練習でポンポン外野まで飛ばし、足も速かったのでコイツは使えると判断して下さったそうだ。


 私も妻も午後は仕事で、試合を見る事は出来なかった為、いきなりの試合で大丈夫か心配で仕方がなかった。

 夕方、恐る恐る迎えに行くと、監督の奥さんがニコニコして出迎えて下さった。


「試合に代打で出たんだよ!

そしたら4ボール選んで出塁して、それから盗塁したんだけどさぁ…」


ケタケタ笑いながら話しを続けた。


「スタートのタイミングは遅めだったんだけど、悠々セーフだと思ったの!そしたらさぁ、2塁通り越してレフトの方まで走り抜けて行っちゃったのよ!」


私も思わず吹き出して笑ってしまった。

周りのママたちも皆笑っている。

この鮮烈なデビューを、笑いながら祝福して下さっているようで、温かなムードにこちらも緊張がほぐれた。


後で本人に聞くと、

「だってさぁ、1塁は走り抜けていいから、2塁もいいんかなぁと思ったんだよ。」


。。。


入団初日に、ルールも知らない子が怖気付く事なく試合に出ただけでも、大したもんだ。


我が子を褒めてやった。