先日の出来事。
わたしは友達と遊ぶ約束をし、友達がわたしの家に来る事になった。
約束の時間に家のインターホンが鳴ったので、わたしは何の疑いもなく友達が来たのだと思い、覗き窓から確認する事なく玄関のドアを開けた。
だがしかし、そこにいたのは友達ではなく2人組の女性だった。
1人は母くらいの年齢の女性、もう1人はわたしよりも少し年上っぽい感じの女性で、一見すると2人の女性は親子のように見えた。
「少しお時間頂いてもよろしいですか?」
母くらいの年齢の女性がそう言ってきた。
わたしはもうすぐ来客がある旨を伝え、それを理由にお引き取り願おうと思った。
「ではお客さんが来るまでの間、お話をさせてください」
と、母くらいの年齢の女性は自分の都合を押し通そうとしてきた。
押しに強くないわたしは、不本意ながらも何となく了承してしまう。
それから女性達は1枚の絵をわたしに見せてきた。
それは人間とライオンとシマウマが草原で仲良く暮らしてるような絵だった。
「この絵を見てどう思いますか? 素晴らしいと思いませんか?」
そんな問いかけに、わたしは思ったことをそのまま言った。
「不自然だと思います。ありえないと思います。シマウマは草原で草を食べていればいいですが、ライオンはどうするんですか? まさかライオンにも草だけを食べて生活をしろなんて言わないですよね? 人間もそうです。この絵では人間は栄養的に動物性たんぱく質が摂れないことになります」
「いや、だから・・・今はそうかも知れませんが、こういう風になったら、世界がこの絵のようになったら素晴らしいと思いませんか?」
女性達は必死になってわたしに何かを訴えかけようとしている。
「ふむ・・・仮に世界がその絵のようになったとしましょう。捕食者の居なくなった世界では動物達の個体数が増えすぎて食糧不足に陥ると思います。そうなると食糧の奪い合いが起こり、食糧を巡って殺し合いが起こると思います。その絵のようにのんびりした世界にはならないと思います」
わたしの言葉を聞いた女性達は呆れたような顔をしている。
「その点は大丈夫です。神様がちゃんとこの絵のような世界にしてくれます」
女性達のその言葉を聞いてわたしは「あぁ、これは宗教の勧誘なんだ」と理解した。
「では尋ねます。神様というのは何故最初からそんな世界を作らなかったのですか? 何故こんな奪い合い殺し合いが当たり前のように起こる世界を作ったのですか? 最初から平和な世界を作っていたら人間も動物も苦しまなくて済んだのに・・・神様はそういう世界を作らなかったのではなく作れなかったのではないですか? あなた方の信じている神様というのは無能ですよね」
「これはいけませんね・・・ そんな考えでは、神様の事を悪く言うのでは、この先またノアの大洪水みたいなのが起こった時には、あなたは生き残ることは出来ませんよ」
女性達は脅しともとれるようなことを言ってきた。
「ふむ。ノアの箱舟ですか・・・ 神様を信じてなければ助からないですか・・・ つまりは神様が必要としているのは自分を盲目的に信じる人だけですよね? 自分を盲目的に信じて従う人を生かし、それ以外の人間は見殺しにする。それってスターリンやポルポトなどの独裁者と変わらないですよね。つまりはあなた方は独裁者を信じているんですね」
と、そこまで話した時に、遊ぶ約束をしていた友達が来た。
わたしは予定していた客が来たことを女性2人組に告げ、引き取ってもらった。
引き取る際、女性2人組は「あなたには絶対的な信心が足りないようですね。これからは毎日来て、神の教えを説きます」と言った。
友達が帰った後、わたしはその日あった事を母に伝えた。
本当に毎日来られたら面倒だなと思っていたら、次に来た時には母が応対する事になった。
そして次の日、本当にあの2人組がやって来た。
そして母が応対したのだが・・・
「要りません、必要ありません、お引き取りを」
その言葉だけで2人組を撃退していた。
母よ、あなたは強かった。