平成27年の採点実感の中で,今後の答案作成に役立ちそうな部分をピックアップしていきましょう。
原文はこちら:http://www.moj.go.jp/content/001166215.pdf
【民法】
・複数の論点に表面的に言及する答案よりも,特に深い考察が求められている問題点について緻密な検討をし,それらの問題点の相互関係に意を払う答案が,優れた法的思考能力を示していると考えられることが多い。
→問題によると思いますが,基本的には自らの立てた法律構成に即して,具体的に検討する必要があります。思いついた法律構成を羅列すれば良いというわけではないのですね。例えば,債務不履行,瑕疵担保責任,不法行為,不当利得の4つの法律構成を思いついたからといって,これをただ横並びに書いても仕方ないといえます。
・材木①の所有権の帰属を検討する際に,加工について言及する答案は必ずしも多くなかった。それらの答案の多くは,AB間における売買契約の目的物を丸太ではなく,材木①であると記しているのに対して,AB間における売買契約の目的物を丸太であると正確に理解している答案の多くは,加工にも言及していることからすると,問題文を注意深く読み,問題となる事実を正確に理解することができていないところに不十分な点があったものと推察される。
→事案を正確に把握すること,問題文をよく読むことの重要性が分かる指摘です。この点を落としてしまうと,試験委員の要求の半分しか満たしていないということになってしまいます。こういうところに気づくかどうか,という意識で,普段の過去問演習を行ってもらえればと思います。
・本問では,AがDに対して請求することができる額について,AB間の関係を考慮に入れた検討をすることも期待されていた。材木②の価額は200万円であるから,材木②の所有者であるAは,Dに対して,200万円を請求することができるはずである。他方,材木②の材料に当たる丸太の価額は150万円であるため,Aが受けた損失を勘案するならば,AがDに対して請求できる額は150万円にとどまると考える余地もある。そこまで考察の及んでいる答案は少数であったが,正確な分析がされている答案も散見された。
→法律構成を考えつつ,具体的な請求金額を検討する問題です。このような問題意識は,平成26年の設問2でも問われています。考察が十分でなくても,合格答案になりますが,普段の演習から,このようなところに気をつけてもらえればと思います。
・寄託契約に基づく保管料債権を被担保債権とする民事留置権の成否について正確に検討することができるかどうかが問われている。
→留置権の成否を検討する際には,「被担保債権が何であるか」と,被担保債権の発生原因を具体的に指摘する必要があるわけですね。相殺や債務不履行,その他の問題でも同様に,対象となる債務を具体的に考察する必要があります。
点数が伸びない答案は,そういうところを具体的に確定せず,ぼやっとした答案を書いてしまうものです。
・まず,留置権の制度趣旨等を援用して,本問において留置権の成立を否定すべきであるという結論は示しているものの,留置権の成立要件のうち,いずれが否定されることによりそのような結論が導かれるかが明らかでないものが一定数見られた。制度趣旨等に遡った検討をすることは重要であるが,それを法律論として主張するためには,問題となる規範を示し,その要件の解釈及び適用を通して結論を基礎付ける必要があることを忘れてはならない。
→「趣旨から書く」とはどういうことか,という問題です。これについては,ブログでも言及しています。趣旨を書けば結論が出る,というわけではありません。
・留置権の成立を肯定する場合に,例えば,牽連性の要件のみを検討し,他の要件について検討しないまま,結論を導くものもみられた。ある者が主張する法律効果の発生を認めるためには,その要件の全てが充たされることが必要であり,一部の要件が充たされるだけでは法律効果の発生を認めることができない。これは,法の解釈・適用に関する基本であり,おろそかにしてはならない点である。
→肯定の結論を出すためには,主要な争点となるもの以外の要件も検討する必要があります。
なお,出題趣旨に,以下の記述があります。「なお,民事留置権の主張を認めるためには,その全ての要件が充足されていることを確認する必要があるのに対し,例えば,(i)や(ii)の要件について必要十分な検討を経てその充足が否定される場合には,民事留置権の成立を否定する結論を出すために,他の要件について検討する必要はない。そのような場合,他の要件について検討していないことを理由に不利に扱われることはない。」
この出題趣旨をどこまで一般化するかは,悩ましいところです。例えば,平成27年司法試験刑法で,窃盗罪の不法領得の意思が否定されることを理由に,窃盗罪の成立を否定するとします。その場合,客観的構成要件を検討せず,不法領得の意思だけ検討して,窃盗罪の成立を否定しても良いのでしょうか。
もし,客観的構成要件を検討しないとすると,占有に関する大量の事実を落とすことになります。一方,論理的に考えれば,主観的構成要件で否定されるのだから,客観的構成要件を検討するまでもない,ということにもなりそうです。
1つの説明としては,上記のような場合には,主観的構成要件は,客観的構成要件の後に検討するのだから,まずは客観的構成要件を検討すべきだということが考えられると思います。後は,配点割合や事実の分量から,ここを書いてほしいと出題者が考えているのかを,個別具体的に考えることになりそうです。
【商法】
・競業取引について取締役会の承認がないため競業取引規制違反が成立する場合には,その取引によって取締役又は第三者が得た利益の額が,甲社の損害の額と推定される(会社法第423条第2項)。本件では,このように推定される損害の額(以下「推定損害額」という。)は幾らなのか,すなわち,第三者である乙社が得た利益の額とすべきか,又は取締役Bが得た利益の額とすべきかについて,「自己又は第三者のために」という要件の当てはめとの論理的な整合性を意識しつつ,論ずることが求められる。
・さらに,本件では,Bの競業行為の結果,推定損害額とは別に,現に甲社に損害が生じているとして,会社法第423条第1項に基づく損害賠償請求が可能かどうかについても,検討する必要がある。
→損害額の推定規定がある場合でも,具体的に何を損害と見るか,損害額はいくらなのかは,詰めて考える必要があるようです。
・この点について,問題意識を持ち,具体的な事実から結論を導いた答案は高く評価した。例えば,形式的な売買契約の個数や,それぞれにつき甲社の取締役会の決議があったことを指摘した上で,これらの時間的近接性,甲社の洋菓子事業部門の従業員の全員が引き続き丙社に雇用されたこと,甲社の取引先の全部が実質的に丙社に引き継がれたこと等を述べた答案がこれに当たる。加えて,洋菓子事業部門の売却に向けた甲社と丙社の交渉の経緯や,両当事者の合理的意思,株主であるS社が同部門の売却に反対する可能性が高いため,甲社の代表取締役Aが株主総会の特別決議を潜脱する意図で本件の取引を行ったと推測されること等の事情に触れた答案も見られたが,僅かであった。上記のうち,形式的な売買契約の個数や取締役会決議の個数に関する意識が希薄なまま,具体的な事実を丁寧に指摘せずに,漫然と実質的に一つの取引と見て,事業譲渡の該当性を論ずる答案も多かった。
→この点は,現場思考問題だったと思います。このような一体性の有無については,刑法でも2つの実行行為を一体と見られるか,というような場面で論じる機会がある問題点です。そういった議論を応用すれば良いでしょう。「この部分は現場思考だ」と見切りをつけたら,後は一体性を肯定するための事情として何を使えそうかに留意しながら,一定の規範を定立できれば良さそうです。
また,形式的には2つの売買契約だ,という形式論をしっかりと挙げておくことが,実質論を述べる際には重要だということも,意識できると良いでしょう。
【民訴法】
・民事訴訟法科目では,例年と同様,受験者が,……抽象論に終始せず,設問の事例に即して具体的に,かつ,掘り下げた考察をしているか,といった点を評価することを狙いとしており,このことは本年も同様である。
・単にYの合理的意思に合致するとのみ抽象的に論じる答案が多かった。やはり,なぜYの合理的意思に合致するといえるのか,どのような当事者の意思を尊重すべきなのかといったことを検討してこそ,上記課題につき具体的な検討がされたものというべきであって,このような答案が高い評価を受けることは困難であろう。
→いつ一般論を書くかについては,このブログで指摘していますが,一般論だけでは答案としては当然不十分です。そして,具体的な言葉で説明することが必要です。「既判力が生じるのは,本件ではどの部分についてか?」,「既判力の矛盾,抵触が生じるのは,本件で何と何なのか?」,「当事者の合理的意思は,本件では何なのか?」,「本件では,何について自白が成立しているのか?」,そういう点に気を配って論述していきます。
「矛盾」,「合理的意思」,「相当」,「正当」,「必要」などなどの言葉は,法的評価を伴ったものです。そういう言葉を使う際には,必ずその判断に至った理由を説明しましょう。これができるかどうかが試されています。
・問題文において,第一審判決取消し・請求棄却という結論の控訴審判決が確定した場合と相殺の抗弁を認めて請求を棄却した第一審判決が控訴棄却によりそのまま確定した場合とを比較して検討することが求められているにもかかわらず,比較検討をしない答案……がある程度存在した。
→比較が求められている問題では,両者の話をした上で,どのように違うのか(どちらが妥当なのか)を明らかにしていく作業が必要だといえます。
・ほとんどの答案が,既判力制度の趣旨及び正当化根拠,既判力の積極的作用・消極的作用,当該作用がある場面の説明(前訴と後訴の訴訟物が同一である場合,前訴の訴訟物が後訴の訴訟物の先決関係である場合,前訴と後訴の訴訟物が矛盾関係である場合)といったことをまず,一般論として記載していた。しかし,そのような前提となる事項はおおむね正しく理解していると見られる一方で,結論として,「利得,損失及び因果関係についてのYの主張は認められない」とか,「Yが利得,損失及び因果関係としてその言い分にあるような主張をすることは許されない」といった抽象的な記載にとどまるものが極めて多数存在し,ほぼ全ての答案において既判力に関する一般論として展開されている積極的作用・消極的作用との関係を意識して具体的な論述を行っているものは,少なかった。
→一般論は書くが,具体的検討ができていない,という話ですね。一般論は,具体的検討「なぜ,そのような主張が認められないのか」が問われているのですから,そこを掘り下げないと始まらないのですね。いくら既判力の一般論が正しくても,点数が伸びないのです。
・前訴の確定判決が甲に対する100万円の支払いを乙に命じたもので,これに基づき,乙が甲に支払った100万円について,これを不当利得として,後訴において乙が甲に対してその返還を請求したという事案を例にとると,民事訴訟法の授業では,往々にして,これを矛盾関係だから既判力が及ぶのだと説明して済ましてしまいがちではないかと思われる。しかし,受講者は,要件事実の授業において,不当利得返還請求の要件事実は,利得,損失,両者の因果関係及び利得に法律上の原因がないこと,であることを思考の出発点に置くよう訓練されているのであるから,民事訴訟法の授業としても,前訴確定判決の既判力はそれらの要件事実のうちどの事実の主張を遮断するのかについて説明をしなければ,実務家の卵に対する教育として不十分であると考えられる。
→ロースクールの民訴法の授業の痛烈批判です。せっかく,ロースクールは実務家と連携して教育に当たっているのですから,その強みを生かしてもらえればと思います。
