第2章 古代の民と人間



「どういうことだよっ!ここから出せ!」

ルーが足で鉄格子を蹴りつけながら、さっき古代石の前で会った女性――――その後、私たちをここまで連れて来た――――に向かって怒鳴った。

女性は溜め息をつきながら、呆れたようにルーを見る。

「あのね、静かにしてくれない?犯人でないと分かったらすぐに出すって言ったでしょう。」

「だから、違うっつってんだろ!さっさと出しやがれ!」

私たちが今いる場所は、地下牢と呼ばれているらしい。さっきからルーがいくら蹴っても傷ひとつつかない鉄格子に、コンクリートの冷たい床。布団らしき布と椅子はあっても、それ以外には何もない、薄暗くじめじめしたところ。

ここは、悪い人とかを捕まえておく場所なんだって。

レトロアにはこんなのなかったから、すごく不思議。都会には、みんなあるものなのかなぁ。

「リオ・・・何でそんなに落ち着けるのさ?サティも、順応能力高すぎだよ!」

メルが、椅子に座ってきょろきょろ周りを見回している私と、布団でゴロゴロしながらメルの持っていた本を読んでいるサティに向かって、半泣きの状態で言う。

全く、メルは心配性だなぁ。ルーに至っては、ずっとイライラしっぱなしだし。

2人とも、全然落ち着かないみたい。

同じ古代の民でも、ルーとサティみたいに個性があるんだね。

「大丈夫だよ。私たちは、本当に盗んでないんだから。すぐに出してもらえるって。」

私はメルを安心させるため、軽く微笑みながら言ってみせた。

――――何故私たちがこんなところにいるのかというと、天空石を盗った犯人だと疑われているから。

町の人の証言で、昨日町に来た古代の民の特徴を持つ女が怪しいということになったらしく、古代の民の女であるサティ及び――――女のような端整な顔立ちのルーが犯人扱いされてるんだ。

女の子扱いされたから、余計にルーの機嫌が悪いんだよね。

さっきから、入れ替わり立ち代り町の人がルーたちを見て、その度に女性と何やら話している。

っていうか、私とメル関係ないよね・・・。何でこんなところにいるんだろ・・・。

「ちっ・・・急いでんのに。」

ルーが、再びガンッ!と音を立てて鉄格子を蹴る。

丁度その時、白衣を着た男の人が入ってきた。女性の耳元で何かを囁いて、そのまままた出ていく。

女性はそれに対して頷くと、私たちのいる牢の方へ歩み寄ってきて告げた。

「町の人たちの証言で、あなたたちが今日この町に来たばかりだということ、それから外見的特徴が合致しないことが分かったわ。もう出ていいわよ。」

その言葉に、その場の空気が幾分か柔らかくなる。

あぁ、よかった。やっぱり、誤解はすぐ解けた。

メルが、安堵の溜め息を漏らした。

ギィッと鈍い音を立て、鉄格子の扉が開く。

と同時に、ルーが何も言わずに突然走り出した。

「え?ルー!」

ちょっ、何なの!?待ってよ!

何をそんなに急いでるんだろう。さっきまで、あんなに騒いでたのに。

私たちもルーを追いかけ、地上への階段を駆け上がる。


外に出てすぐ、青空の下、ルーは膝をつきしゃがんでいた。まるで、耳を澄ましているかのように。

私が声をかけようとすると、それをサティに止められた。

「駄目・・・・・・ルー、“気”を確かめてる・・・・・・。」

「へ?“気”を・・・?」

私が聞き返すと、サティは軽く頷いた。

“気”を確かめる時って、集中するものなのかな。初めて会った時は、そんなの感じなかったけど。

それに、何の“気”を確かめてるの?

私がサティと並んでルーの隣に立つと同時に、ルーはすくりと立ち上がった。

「ちっ・・・逃げられたか。」

ルーは隣にいる私たちを気にもせず、悔しそうに唇を噛む。

少し遅れて走ってきたメルも、ようやく追いついた。

みんな揃ったところで、私はルーに問いかける。

「何を確かめてたの?」

ルーは、そのままの表情で答えた。

「この町に、古代の民がいるかどうか。でも、もういねぇ。逃げられたみたいだ。」

そ、そんな・・・。

じゃあ、もうこの町には犯人はいないってこと?

私たちの騒ぎに乗じて、既に逃げた後・・・。

「くっそ・・・・・・だから急いでたのに。そもそも、古代石盗んだやつが現場に戻るかってんだあの馬鹿野郎。」

ルーは不満をぶつけるように、コンクリートの壁を蹴った。

どうやら、私たちを捕まえた女性に対しての文句らしい。

どうしよう・・・どうしたらいいんだろう。

このまま、世界中の古代石がなくなってしまったら・・・。


そう頭に悪い考えを巡らせていた、その時だった。

「悪かったわね、馬鹿野郎で。」

不意に後ろから、聞き覚えのある女性の声がした――――・・・。