「あ、さぁや!おはよっ、久しぶり。」

あ・・・凛君。

登校中、凛君に会っちゃった。

・・・出来れば、会いたくなかった。

今の私、本当に最低な表情してる・・・と思う。

だって、凛君ってば、同じクラスの崎野麗華ちゃんって子と、旅行に行ったらしいんだもん。

私、嫉妬してる・・・。

誰にでも平等に接する凛君だから好きになったのに、こんなにも苦しいなんて。

「どうしたの?さぁや、元気ないね。」

本当に心配そうにしてる凛君を見て、私の胸はまた締め付けられた。

凛君・・・こんなにもいい子なのに、どうしてすれ違っちゃうのかな。

こんなの、初めてだよ。

凛君はどっちかっていうと、ストレートに気持ちを表に出してくれる方だ。

だから、今まで心配も、嫉妬も、そんなのなかった。

だって、凛君が本当に私だけを好きでいてくれてるのが分かったから。

だからこそ、安心出来たのに・・・。

「・・・ねえ、凛君。」

「何?」

恐る恐る、聞いてみる。

「凛君、崎野麗華ちゃんって子と旅行に行ったって・・・本当?」

凛君ははっとしたように瞳を見開き、うつむいてしまった。

額には、汗がにじんでいる。

やっぱり・・・麗華ちゃんと、何かあったんだね。

もう、私なんかに幻滅しちゃったのかも。

「あの、それ、誰から・・・。」

「魅羅だよ。私、ずっと携帯つながらないから心配で・・・。」

凛君はふうっとため息をついて、その後ちっと舌打ちをした。

え・・・り、凛君?

「あーあ。もう、魅羅さんっておしゃべりなんだから。おかげで、いろんなことがさぁやにバレちゃうじゃないか。」

こんな凛君・・・初めて見た・・・。

すごく明るくて、いつもにこにこしてて、誰にでも平等で優しい・・・それは、嘘だったの?

嘘の凛君だったの?

だって、今言ったよね・・・?

”いろんなことがさぁやにバレる”って・・・。

私、凛君のこと、何も知らなかったの?

何も分かってなかったの?

そう思ったら、ふいに瞳から熱いものがこみあげてきた。

ぽろぽろ、頬に涙がこぼれる。

「さぁや・・・。」

凛君は辛そうな表情をして、その場を去っていった。

もう私たち、駄目なのかな・・・。

いつから、こんなことになっていたんだろう。

私、全く気づいてなかった。

凛君・・・麗華ちゃんのこと、好きなんだよね。

私、何も知らなくて、ずっと笑ってて・・・何がおもしろいんだろう。

自分で自分が、バカみたい。

凛君、私の心の大半に埋め尽くされてた存在。

でも、その存在はなくなって、


心にぽっかり、穴が開いた気がした――――・・・。



どれくらい、たったかな。

「さやか?どうしたんだよ、そんなとこで突っ立って。」

「誠也・・・。」

私の泣きはらした顔を見たら、さすがの誠也も驚いたみたい。

「な、何があったんだよ。どうしたんだよ、さやか・・・。」

誠也の優しい言葉が、胸にしみる。

私、今、どうしようもなく誰かに甘えたい。

凛君がいなくなったら、もう誠也にすがるしかなくなって・・・。

「・・・私ね。」

思いきって、口を開いた。

「凛君に、フラれたかもしれない・・・。」

「え?」

しばらく、沈黙が続いた。

誠也は、何か思いつめたような表情をしてるけど・・・。

やっぱり、困るよね。そんな話、急にされたら。

「ご、ごめんね。気にしなくていいから。今の話、忘れて・・・。」

私がうつむきながら言うと、誠也は自分の体に私を引き寄せた。

え・・・?

突然の出来事に、言葉を失う。

「せ、誠也・・・?」

「放っとけるかよ。お前だったら、絶対に放っとかないだろ?オレだって、同じだ。」

トクン、トクン・・・。

誠也の心臓の音が、私の胸に響いてくる。

心臓の音って、こんなにも聞こえるものなんだ・・・。

よく考えたら、私と凛君って、こうしてぎゅってしたこともないな。

・・・凛君が拒んでたのかな。

そう思ったら、またたくさん涙が溢れてきた。

「わっ!」

私は、誠也の優しさにすがるように・・・誠也に、身を預けた。

誠也は黙って、私の背中を叩いてくれてる。

しばらくして、誠也が「もう大丈夫か?」と問いかけてきたので、私はこくんと頷いた。

これ以上、心配も迷惑もかけれない・・・誠也にすがってばかりじゃ、駄目だよね。

「じゃ・・・私、行くね。」

そう言って、身を翻した瞬間。

ガタン!

大きな音をたてて、姫乃が去っていく影が見えた――――・・・。