「わ。」
ぱしゃん。鯉が跳ねて、水が飛ぶ。
「うわっ、大丈夫か?」
誠也君が、私の方に駆け寄る。
あ~あ、またドジなとこ見られちゃった。
本当、恥ずかしい。
「う、うん。平気。」
甘えられればいいのに、素直になれない私。
誠也君だったら心を許していいって知ってるのに、どうしてだろうね。
――――私は、誠也君が好き。
無口だけど笑うと可愛くて、無愛想だけど誰よりも優しい、そんな誠也君が。
でも、私は素直になれない。
というより、自分に自信が持てないんだ。
小さい頃から、病弱でいつも1人でいた私。
そんな私に声をかけてくれたのが、誠也君とさやかちゃんと魅羅ちゃんだった。
でも、誠也君の周りにいたのは、明るくて友達が多いさやかちゃんと、しっかり自分を持っていて、格好良い魅羅ちゃん。
ちょっと、自信がなくなった。
私には、何があるの?
もちろん、さやかちゃんたちがいい子なのは知ってる。
私、誰よりも知ってるよ。
でも・・・ふと、思う時があるんだ。
友達を持っているさやかちゃんと、自分を持っている魅羅ちゃんに比べて、私は何を持っているの?
何も持っていないんじゃない?
そう・・・思って・・・。
たまに、泣きたくなるの。
でも、みんなに心配をかけたくないから、がまんする。
これ以上、迷惑かけられないもの・・・。
修学旅行が終わって2日がたった。
今日は休み。家に、誠也君とさやかちゃん、魅羅ちゃんが来てる。
で、ついさっき、庭にある池の鯉が跳ねて、服がびしょびしょになっちゃった。
「姫乃、大丈夫?」
「あ、うん。もう平気。」
さやかちゃん・・・やっぱり、優しいな。
こんなさやかちゃんだから、きっと友達もいっぱいいるんだよね。
私みたいな子には、誰も寄りたくないもんね・・・。
「あ、そういえば、さやかちゃん。凛君には会った?」
「それが、まだ。もう、5日も会ってないんだよ。どうしたのかな・・・。」
修学旅行の後、さやかちゃんはまだ一度も凛君に会ってないらしいんだ。
さやかちゃん、すっごく不安そう。
でも、連絡も取れないっていうし、無理もないよね・・・。
「凛、そういえば、今週の土日は同級生と旅行行くって言ってたな。」
魅羅の言葉に、さやかちゃんがえ?とつぶやく。
「何それ、私聞いてない・・・。」
さやかちゃんは、半分泣きそうになりながら言った。
めずらしいな。
凛君が、さやかちゃんに何も言わずにどこか行くなんて・・・。
だって、凛君ってさやかちゃんにべた惚れなんだもん。
見てて、分かりやすい。
「凛君、どうしたのかな・・・。」
さやかちゃんが、小声でつぶやいたのが聞こえた。