――――本当、オレって素直じゃないな。
っていうか、感情を表に出すのが苦手だ。
ポーカーフェイスってよく言われるけど、オレ、本当は、笑いたいんだよ。
――――さやかにも言われたっけな。
『もっと笑え』って。
でも、さやかの前だと余計に表情が作れない。
・・・さやかが・・・好き、だから。
幼稚舎の頃から、活発で友達が多かったさやか。
そんな、自分とは違うものを持ったさやかに惹かれたんだ。
でもさやかには・・・佐方凛っていう、年下の彼氏がいる。
いいんだ、分かってる。オレじゃあ、さやかを幸せに出来ない。
だから、凛に任せるしか――――・・・。
「誠也?いんのか?」
「あ、ああ。輝か。入れよ。」
ガチャ。部屋のドアが開く。
入って来たのは、親友の後藤輝(ごとうひかる)。こいつは、小等部受験で入ってきたやつなんだ。
「さっき、七瀬の部屋の方行っただろ?バレバレだったよ。」
「げ、マジで?先生にバレたかな。」
女子の部屋の方――――正確には、ラウンジだけど――――に行ったなんてバレたら、ヤバすぎる。
「平気だと思うよ。先生、誰もすれ違わなかったし。」
輝の言葉に、とりあえずほっとする。
良かった、バレたらさやかまで責められかねないもんな。
「お前、本当にお人好しだよな。」
急に言われたから、ビックリした。
え?オレが、お人好し?
「お人好しっていうのは、姫乃みたいなやつのことを言うんだぜ。」
「分かってる。あいつも、すっげーお人好しだよな。でも、それとは違う種類のお人好し。」
はぁ?
お人好しに、種類なんてあるのか?
「姫乃は、何かもうバカって言いたくなるくらいのお人好し。誠也は、陰ながら見守る感じ?さやかのこと、誰よりも考えちゃうお人好し。それを表に出せればいいのに、表に出せなくてもどかしいんだ。」
そう・・・なのかな。
確かに、さやかが幸せになればいいって、そう思ってる。表情に出せないのも事実。
だけどそれって、当たり前のことなんじゃないか?
本当に好きなら、その人の幸せを願う・・・ってやつ?
「だってお前、七瀬に彼氏が出来た時も、普通に『おめでとう』って言って、その後も何も言ってなかったぜ。嫉妬もしなかったし、愚痴りもしなかった。」
それは――――・・・。
「さやかに、格好悪いとこ見せたくなかっただけだ。」
さやかの幸せを願えれば、一人前の男になった気がして・・・。
さやかは何だかんだ言いつつも、いつもオレの味方をして、一番にオレの幸せを願ってくれてる。
だから、オレもさやかの幸せを願うんだ。
好きだからこそ――――・・・。
「あ、おっはよ、誠也!」
「あ、はよ。」
さやか・・・元気だな。
良かった。昨日みたいな悲しい表情は、もう見たくない。
「今日は、行動班でUSJまわるんだよね?楽しみだなぁ。」
オレと一緒が嫌だとか言ってたくせに、さやかはすでにご機嫌だ。
本当、子供っぽい。
でも、そういう素直なさやかだから、好きなんだ。
「わぁっ!」
「おっと。」
コケそうになった姫乃を、とっさにかばう。
全く、こいつはこいつで本当にドジだな・・・。
「あ、ご、ごめんね、誠也君。」
「いや、別に・・・。」
姫乃って、率直に気持ちを言ってくるから、ちょっと照れるんだよなぁ。
頭をぽりぽり掻く。
「何よ~、やっぱり誠也、姫乃にだけ優しいじゃん!」
さやかがいじけたように言う。
・・・別に、姫乃だけ特別にしてるつもりはないんだけどな。
っていうか、オレの好きなやつはさやかだし。
「いいから、行くよ!時間なくなる。」
魅羅・・・さすがだよ、そのサバサバしすぎてる性格。
まあ、そんな魅羅にいつも助けられてるのも事実だけど。
そう、そうだ。
この関係が、保たれてればいい。
さやかの特別になろうなんて、この想いを伝えようなんて、思ってないから――――・・・。