「おい、凛!」
「何だよ。」
オレ、佐方凛は、ちょっと冷たい目で声のする方を見る。
全く、人間関係っていうのは疲れる。・・・さぁや以外は。
「さっき見たぞー!あれ、横にいたのが彼女だろ。確か、名前は・・・。」
「七瀬さやか。」
「そうそう、その子。お前、オレらと全然態度違うんだもんな。」
そりゃそうだ。
男子や、クラスの女子なんてどうでもいい。
オレは、さぁやがいてくれれば・・・それで満足だから。
「凛って、本当にいい性格してるよ。」
「何でだよ。別に、さぁやにどういう態度とろうが関係ないだろ。」
「まあ、な・・・。」
苦笑いをしながら、親友・村里大悟(むらさとだいご)は言う。
・・・こいつだけだ。男子で、まともにオレと話せるの。
オレは、何だか知らないけど、いつも人が寄って来る得な性質。
それもあって、あまり自分からは人に関わりに行こうとしない。
というか、面倒なんだ、そういうの。
だから、そんなオレと対に話せるのは大悟だけ。
大悟は、こんなオレでもいつも本音でぶつかってくれるし、怒ってもくれる。
親友だとも・・・言ってくれた。
オレも、そう思ってる。
だけど、急に素直になんてなれないんだ。
「あの子、ある意味すげーよなぁ。凛の心を動かしちまうんだから。」
「あの子、って・・・。一応、先輩だけど。」
今度は、オレが苦笑する。
大悟は、基本おもしろい。一緒にいて、飽きない。
さぁやも・・・そう、なのかな。
何か、いつのまにか話してた感じ。
いつも卑屈な考えしか持ってなかったオレが、唯一素直になれた人。
さぁやと出会ってからのオレは、何だか変だった。
委員会でさぁやに会う度、心の中で何かが動いて・・・。
自分の変化についていけないくらいに。
とうとう、さぁやが小等部を出る年の春、告白した。
そしたら、絶対駄目だと思ってた告白が、OKで・・・。
『私も、いつでも笑顔で、誰にでも分け隔てない凛君が、好きだから。』
さぁやはそう言ってた。
自覚はなかった。
――――誰にでも分け隔てなく接してたわけじゃないし、いつでも笑顔なわけじゃなかった。
ただ、さぁやといる時だけは、そうなってたみたいで・・・。
さぁやは、本当にすごい。
オレと違って友達を大切にするし、それだからか友達も多い。
自分の感情に素直で、さぁやこそ誰にでも平等な人だと思う。
悪いと思ったら謝るし、怒る時は怒る。嬉しい時は笑う。
そんな、全然タイプが違うさぁやだから――――オレはきっと、好きになったんだ。
「あ、あの・・・。」
「何?」
クラスに行くと、早速女子に話しかけられる。
面倒くさい・・・けど、何も話を聞かないで追い返すのも理不尽だと思うから。
「凛君、七瀬さやか先輩とつきあってる・・・んだよね?」
「だから?それが何?」
「あ、別に。めずらしいなぁと思って。」
年上とつきあってることが、か?
こういう人って・・・一番嫌いだ。
さぁやは、たとえ年上でも、一度もオレをバカにしたことなんてない。
さぁやは、年下でも受けいれてくれた。
そんなさぁやの良さが分からないヤツは・・・大っ嫌いだ。
「あ、そ。それだけ?じゃ。」
「あ、い、1年間よろしくね。」
・・・崎野麗華(さきのれいか)、だっけ、こいつ。
あんまり、よろしくするつもりはないんだけどな。
・・・いや、ないつもりだったんだけど。
「凛君!」
「さぁや!」
やっぱり、さぁやと一緒にいる時間が一番好き。
さぁやの前だったら、素直になれる。
「クラス替え、どうだった?」
「もう、最悪~!また誠也と同じなんだよ。」
誠也先輩。その名前なら、何度も聞いたことがある。
誠也先輩は、オレの憧れでもあるんだ。
いつも1人でも堂々として、一匹狼だから。
そんな中にも、さぁやたちへの優しさが溢れてる。
・・・本当、尊敬するよ。
「でね、魅羅と姫乃とも一緒なんだ。凛君は?」
魅羅先輩と姫乃先輩も知ってる。
2人とも、オレは別に嫌いじゃないタイプ。
何だか、さぁやの親友って、さすがだよ。さぁやの親友なだけあって、尊敬出来る人とか、憎めない人ばっかり。
「オレは、また大悟と一緒。腐れ縁って、なかなかはずれないよね。」
「あ、分かる!私もそうだもん。」
さぁやが、くったくない笑顔で笑う。
・・・さぁやの笑顔を見てると、こっちまで幸せな気分になって、ふいにいとおしくなる。
・・・さぁやを、守りたい。
守れるような強い男に、誠也先輩みたいになりたい。