「今まで、本当にありがとうございました。みんなのこと、絶対に忘れませんから――――・・・。」

夏休み、最終日。

セリアが、イギリスに発っていった――――・・・。


「結局、家族でイギリスに戻ることになりました。夏休みの最後には、飛行機でイギリスに行きます。」

そうセリアに言われたのは、1週間程前のことだった。

遊んでいて、急に。

覚悟はしてたけど、思ったよりも辛かった。

「行くん、だね・・・。」

「はい。卯月のおかげです。卯月は、私たち家族に大切なことを教えてくれた・・・。」

セリアが、私の手をぎゅっと握って言う。

ちょっと冷たい手・・・でも、誰よりも温かく私たちを見守ってくれたセリア。

きっと――――ううん、絶対に忘れない。

セリアとの思い出は、ずっと心の中で輝き続ける――――・・・。


1週間後、空港。

夏休みの最終日、約束どおりセリアは、イギリスに発っていったんだ。

私は、セリアが乗った飛行機を、見えなくなるまで見つめていた。

「卯月・・・平気なの?」

泣きはらした芽美が、こっちに向かって歩いてくる。

「卯月、一度も泣かなかったね。」

「うん・・・何だか、気が引けて。一番辛かったのは、セリアなんじゃないかって思ったの。そしたら、涙なんて出なかった。」

セリアは、支えてくれた友達か、やっと仲良くなった家族か、どっちかを選ばなくちゃいけなかったんだ。

それって、何て悲しい選択肢だろう。

どっちもなんて、手に入れられない。

私たちは、まだ子供だから。

運命から逃れられない。

「でも、これで良かったんだよ。セリアの家族、やっと仲良くなれたんだよ。セリアも、ロボットじゃなくなって良かったって言ってたし。」

「卯月・・・。」

本当は私だって、芽美みたいに思いっきり泣きたい。

でも、冷たいって思われるかもしれないけど、私は泣けないよ。

セリアは、幸せを掴むためにいなくなったんだもん・・・。

私と芽美の会話を、横でずっと聞いてた捺騎君が言う。

「卯月、がまんしてるんじゃない?」

「セリアがいなくなったのは、セリアが幸せになるためだからって、自分で言い聞かせてるんじゃない?」

本当に、そのとおりだ・・・。

何で、捺騎君にはお見通しなんだろ・・・。

でも、私はつい意地を張っちゃう。

「ううん、そんなことないよ。」

「嘘つかないでよ。卯月らしくないよ。」

「・・・ねえ、私らしさって何?」

私、いつのまにか悲しさを捺騎君にぶつけてた。

「え?」

「昔も同じ質問したよね。そしたら捺騎君、『卯月は卯月だよ』って言ってくれたの。なのに、ひどいよ。私、やっぱり自分が分からない・・・。」

言葉が止まらない。

今、怖い私じゃないのに、捺騎君にこんなこと言っちゃってる。

やっぱり私、おかしくなっちゃったのかな。

捺騎君と出会ってから――――・・・。

「卯月・・・。あのさ。」

捺騎君が、言いにくそうに口を開く。

「・・・ごめん。僕、卯月に後悔してほしくないだけなんだ。卯月は、優しいから――――・・・。セリアの幸せだけを考えて、後で後悔してほしくないなって思って。」

え?

捺騎君の言葉が、ガツンと頭にくる。

セリアの幸せだけを考えて――――・・・。

言われてみれば・・・そうかも。

「セリアの幸せは、卯月が笑顔でいることだと思う。だから、今泣いて――――吹っ切ればいいよ。泣いた後には、笑顔しか残らないよ。」

本当に、捺騎君は何でもお見通しだ。

私、実は心のどこかで思ってた。

このまま泣くのをがまんして、何かいいことがあるの?

残るのは、後悔だけじゃない?って。

そう思ったら、プツン。

心の糸が切れて、私の瞳からは涙がこぼれ落ちた。

一度泣くと、次から次へと。

そんな私の頭を、捺騎君はずっと泣き止むまで撫でていてくれた――――・・・。


空港からの帰り道。

芽美たちとは、もう十字路でお別れして、捺騎君と2人っきり。

芽美は泣いてたけど、笑ってた。

何だか、おかしいね。

「・・・卯月。」

「何?」

捺騎君は、改まって言う。

歩いてる私の前に立った。

「この前さ、言ったよね。ずっと一緒にいれるかな?って。でもその時、卯月答えてくれなかったから、不安で・・・。でもやっと、分かった気がする。」

捺騎君は、ちょっと顔を上げる。

「卯月は、たくさんの別れを経験してるんだもんね。そりゃあ、軽々しく”ずっと一緒”なんて言えないと思う。でも・・・いつまでもってわけにはいかないけど、僕は出来るだけ卯月と時間を過ごしたい。・・・駄目、かな?」

ちょっといじらしく聞いてくる捺騎君が、可愛く見えた。

そんなの、私、即答出来るよ。

「私も、捺騎君と一緒にいたい。不安にさせて、ごめんね。私、過去もプラスに変えられるように頑張るから。」

私がそう言うと、捺騎君はちょっと照れたように何かを言おうとした。

でも、よく聞き取れない・・・。

「どうしたの、捺騎君?」

「あ、いや・・・。・・・一緒にいれる約束、してもいい?」

どういうこと・・・?

「僕と・・・結婚してください。」

え・・・!?

う、嘘でしょ?

私と・・・?

「で、でも私、ドジだし、不器用だから家事も出来ないし。」

「そんな卯月だから、一緒にいたいんだよ。駄目・・・?」

私、死ぬほど驚いたけど、ゆっくり、確実に返事はした。

「ううん。いい、よ・・・。」


――――時に神様は、驚くプレゼントをくれるんだね。

小さい頃からドジで、小さくて、何もかもがうまくいかなかった私。

二重人格っていう欠点もあって、私に大きな幸せなんて訪れないんだって思ってた。

だったら、小さな幸せでがまんしようって。

でも、こんなに嬉しいプレゼントがあるなんて・・・。






『――――セリアへ


これで、セリアに手紙を送るのは2回目だね。

それって、セリアとの別れが2回あったってことだよね。

セリアと出会って、もう4年かぁ。早いね。

あ、そうだ、高校卒業おめでとう!

私たちも無事、卒業しました。

芽美は北海道の短大に行っちゃったから、私のまわりの女の子はもう残ってない・・・。

雅君と恵太君は、まあ、相変わらずかな。

私と捺騎は・・・高校卒業後の約束を果たしました。

それは、”結婚”。

捺騎君は私のために、もう就職して、建築業で働いてくれてるの。

私はまだ大学生だけど、夢の小学校の先生になるためにもっともっと頑張らなきゃ。

セリアの夢は何?

セリアは頭いいから、私みたいな苦労はしてないんだろうな。

私なんか、小学校の勉強からやり直してるんだよ!

あの時、もっと勉強しておけばよかったなぁ。

最後に。

セリア、私たちにたくさんの思い出をありがとう!

5人を代表して言うね。

では、また。

Dear my best friends.


藤田卯月』