夏休みに入って、4日。

ついに今日、セリアのお父さんが来るんだ。

セリア1人じゃ不安だって言うから、空港まで一緒に迎えに行く。

「セリア・・・だいじょぶ?」

「はい、平気です。行きましょう。」

空港行きのタクシーから降りて、私、セリア、芽美、捺騎君、雅君で歩き出す。

何だか・・・どきどきするな。

いつもとは違うどきどき。

緊張するなぁ・・・。

「あっ・・・お父さん・・・。」

セリアが、微かに声を上げる。

え?どの人?

セリアの目線の先を見ると、背が高くて金髪の、目つきの怖い男の人・・・。

「セリアか。・・・その人たちは?」

「あ、私、本田卯月っていいます。セリアの同級生です。」

私たちは、順番に自己紹介していく。

捺騎君にさしかかったところで、セリアのお父さんが口を開いた。

「もしかして君は、藤田のところの・・・。」

「はい。藤田捺騎です。一度だけ、会ったことはあると思います。」

「そうか・・・。」

セリアのお父さんはそうつぶやいて、ああ、と声を上げた。

「私はアシトス・コネット。セリアの父親だ。」

・・・何か、普通の人じゃない?

思ったよりも、優しい感じ。

というか、私たちがセリアと仲良くすることを妨害してるようには見えないけど・・・。

「では、行くか。我が家に。」

「・・・はい。」

それでもセリアは、ずっと暗い表情のままだった。


次の日。

あの後、もう暗くなってきたからという理由で追い返された(?)私たちは、翌日もう一度セリアの家に来た。

恵太君も紹介したいから、恵太君も連れてね。

ピンポーン。

インターホンが鳴る。

「はい。」

ドアが開いて、セリアが顔を出す。

「あ、セリア。遊びに来たよ!手紙に書いてた芽美の彼氏も連れて・・・。」

「ああ、そうですか。どうぞ。」

セリアが、玄関に私たちを通す。

次の瞬間だった。

「おい!セリア!誰が勝手に家に上げていいと言ったんだ!このバカ娘がぁっ!」

バシッ!

硬い何かがセリアに向かって飛んでくる。

下に落ちたものを見ると、プラスチックの灰皿だった。

セリアの足元に、たばこの灰が飛び散る。

「あ~あ、こりゃひでーなぁ。」

恵太君はきっと、セリアのショックを和らげようとしてわざと軽い言い方をしたんだろうけど・・・。

私、許せない!ひどい!

「セリア、だいじょぶ?」

「・・・平気です。慣れてますから。」

これが、慣れてる?

駄目だよ、そんなの。

っていうか・・・ふざけんじゃねぇっ!

「ちょっと、そこのグズ!おっさん!あんただよ!」

「何?この前の娘か。・・・失礼なやつもいるもんだな。」

ふっと鼻でバカにしたように言う。

くっそ・・・こいつ!

「てめぇ、失礼なのはどっちだよ!セリアに謝れ!それが、親のすることかよ!」

「所詮、子供は子供。子供だからこそ、親に従う義務がある。」

「ああ、世間じゃそれを『孝行娘』っていうんだよな。でも、セリアの気持ちは違うっ!きっと、お前みたいな勝手なやつに従いたくないって思ってるよ。何たってお前は、人間のクズだもんな!アハハハっ!」

高らかに笑ってやる。

こういう分からないやつには、こうしてあげるのが一番だ。

「くそ・・・黙っていればつけあがって。この小娘が!」

殴りかかってくる。けど、何も怖くない。

だって、大人1人くらいなら返せるから。

「はっ、やるのか?まあ、そうなったらまずいのはあんただけどな。今までの児童虐待がバレるぞ。ざまあみろってんだ!」

「セリアは、感情表現が薄い。それがいけないんだ!いつでもロボットみたいな顔して、気味悪い!嫌なことは嫌と言えばいいだろう!」

何・・・その言い方。

まるで、セリアが悪いみたいじゃねえか!

「ねえ・・・あなたは、セリアの気持ちを考えたことがある?」

「は?」

「セリアは、感情表現薄くなんかない。きっと、あなたに心を許せなくて・・・感情を表そうとしても、表せないんだよ。お願いだから、もっとセリアに人間として接して。セリアだって、人間なんだよ。感情が、ちゃんとあるんだよ。毎日こんなだったら、人を信じたくなくなっちゃうよ・・・。」

あ・・・れ?

私・・・いつのまに戻ったんだろう。

意識なんてなかった。

記憶もはっきりしてる。

二重人格が・・・だんだん、”自分”になってきてる。

「・・・卯月。」

「何、セリア?」

「ありがとうございます・・・。」

セリアはそう言って、2階まで駆けて行ってしまった。

「セリア・・・。」

しょうがないから、私たちはセリアの家を後にした――――・・・。