「にゅうちゃん~?」

あれ?いないのかな?

「う~・・・どうしたの、卯月?」

次の日の朝。

起きたての芽美と美咲ちゃんが問いかけてくる。

「実は・・・。」

私は、今朝のことを話した。


今朝、みんなより少し早く起きた私は、ベッドの中でごろごろしてた。

そしたら、にゅうちゃんが起きて来たんだ。

私、びっくりさせようとして・・・でも、「わっ!」って言いながらベッドから出てきた時には、にゅうちゃんの姿はなかった。

だから、にゅうちゃんがびっくりさし返そうとしてどこかに隠れてるのかと思って、部屋中を探してるんだけど・・・。


「じゃあ、軽く言えば行方不明ってこと!?」

「うーん、かなぁ。」

でも、1人でどこかに行っただけかもしれないし。

ほら、にゅうちゃん好奇心旺盛だから・・・。

「とにかく、探そうよ。私、部屋の外見てくる。」

芽美がそう言いながら、パジャマの上にパーカーを羽織って部屋を出ていく。

残された私と美咲ちゃんは、部屋で作戦会議(?)をしていた。

「にゅうちゃん、どうしたのかなぁ?無断外泊なんて・・・。」

「あっ、彼氏のとこに行ったとか!卯月、知らない?」

「にゅうちゃん、そういうの興味ないって言ってたけど・・・。」

私の言葉に、美咲ちゃんは「卯月の友達だもんね。」とため息をついた。

その時だった。

「卯月!美咲!――――にゅうちゃんが!」

芽美が、泣きそうな顔で部屋に戻ってきたのは。


私たちの修学旅行は、中止になった。

でもね、私、そんなことどうでもいい。

にゅうちゃんが・・・いなくなったことに比べれば。

――――にゅうちゃんはもともと、重い病気を持っていたんだって。

20歳まで生きられないだろうって言われてたらしいの。

だから、学校に行きたい、修学旅行に行きたいっていう本人の強い思いを尊重して、みんなと同じ生活を送っていたんだけど・・・。

外の空気を吸いに外に出て、そのまま――――・・・。

「今日は、娘の沙羅のためにありがとうございます。沙羅は、学校・・・クラスが本当に楽しいと、笑顔で言っていました。修学旅行も、本当に楽しみにしていたんです。だから、どうか沙羅のことを――――忘れないでやってください。胸の片隅でもいい、沙羅がこの世界で生きていた証として・・・お願いします。」

にゅうちゃんのお母さんが言う。

にゅうちゃん・・・絶対、忘れない。忘れられるはずがない。

にゅうちゃんは、2年になって、知り合いがあまりいない中で出来た2年生最初の友達。

心の中で、にゅうちゃんは――――いつまででも、生きてるよ。

にゅうちゃん、たくさんの思い出を、ありがとね。


それからしばらくして、やっとクラスがもとの明るさを取り戻した頃。

「おい、転入生が入ってくるんだってよ。」

恵太君が、一言目にそう言った。

「えぇ?こんな、夏休み前に?」

芽美が、怪訝そうな顔で聞き返す。

「しかも、途中から河浦に来るなんて、めずらしいね。河浦ってさ、転入試験は厳しくしてるっていうから。」

捺騎君が不思議そうな顔をする。

・・・本当、めずらしいね。

でも、情報通の美咲ちゃんでも、転入生の情報は全く入ってないみたい。

だから、転入してくる子が、どんな子なのか、検討もつかない。

「頭いい人が、ランク落としたのかなぁ?どんな子だろ?」

にゅうちゃんがいなくなってしまったことで、席が1つ、ぽつんと空いていた。

きっと、そこに座るんだろうな。

空いている席を見ると、どうしてもきりっと胸が痛む。

誰か、いてくれた方がいい・・・どのみち、にゅうちゃんのこと、絶対に忘れられないんだから。

チャイムが鳴って、担任の先生が入ってくる。

恵太君も結構な情報屋だから、クラスは今か今かと浮き足立っていた。

「どうしたんですか?騒がしいようですが・・・。」

先生が、しらばっくれるように言う。

「おい、誰かいるんだろ?早くしてくれよ、待たせちゃ可哀想じゃね?」

・・・恵太君の言うことって、言い方はちょっとまずいけど、言ってることはいつも正しい。

そうだよね、廊下に立ちっぱなしじゃ、疲れちゃうもんね。

先生は観念したようにため息をついて、「入りなさい。」とドアの方に向かって言った。

がらっ。

堂々とした足取りで入ってきたのは、金髪の髪の女の子だった。

2つ結びにしたセミロングの髪が、風になびいている。

あ・・・れ・・・?

この子・・・もしかして・・・。

「自己紹介を。」



「・・・セリア・コネットです。よろしくお願いします。」



―――――!