「捺騎君!」

私は授業の後、捺騎君を見つけて声をかける。

「あ、卯月。どうしたの?」

捺騎君も、笑顔で返してくれた。

けど・・・さっきのって本当なのかな?

「あのね、あの、私のクラスの子から聞いたんだけど、特別生徒って何?」

「えっ・・・。」

捺騎君は、驚いたような顔をしてから、少しうつむく。

やっぱり・・・何か、あるのかな。

「・・・卯月だけには、知られたくなかったんだけどな。」

やがて、口を開いたのは捺騎君だった。

そして、ぽつりぽつりと話し始めた。

「特別生徒っていうの・・・僕は全然、気にしてなかったんだけどね。最初、それで権力をもっていたのが恵太だった。」

えっ・・・。

今度は、私が驚く。

そんな・・・気にしてなさそうだったのに・・・。

「恵太は、ここら辺を牛耳ってる家柄でね。僕、誰だって仲良く出来ると思ってたけど・・・恵太だけは、無理だったんだ。」

「捺騎君が?」

「うん。僕、ちょっと自信なくした。で、恵太がある日、高校1年生の女子をいじめ始めたんだ。特別生徒は、みんな・・・。」

何それ、ひどい。

私たちの中学校は、みんなが仲良かったから・・・。

「最初は僕も、必死で止めようとした。でも恵太にさ、『次逆らったらお前の家庭にも被害が出る』って脅されて・・・途中で、諦めちゃった。そしたらその子、高校2年になる前に・・・。」

捺騎君が、辛そうな声を発した。

・・・そんな。

続きは、聞かなくても分かる気がした。

こんなに辛そうな捺騎君、見てられないよ。

どうしたらいいの?

私、出来ることないの・・・?

「でも、もう平気。その子のことがあってから、特別生徒っていうのはなくなったから。卯月、優しいから、この話聞いたら悲しむかと思って。だから、卯月には知られたくなかった・・・。」

「私が、優しい?」

そんなこと、ないと思うけど。

「卯月は優しいよ。僕みたいに、偽善者じゃない。たとえ二重人格でも、それを受けいれて頑張ろうとしてるんだ、人のために・・・。」

そんな・・・。

そんなこと、ないよ。

「私、優しくなんかない。」

「え?」

「捺騎君こそ、優しいよ。優しくなかったら、いじめを止めようとなんかしないし、いつまでも心に留めておいたりしない。ね?」

小学校の時から、捺騎君は優しい。

ドジで二重人格の私なんかも、好いてくれてるし。

私が次の言葉を発そうとすると、それを捺騎君の言葉に遮られた。

「・・・僕、本音を言うと、卯月に嫌われるのが怖かっただけかもしれない。偽善者だ、って軽蔑されるのが・・・。卯月のこと、好きだから。嫌われたくなかった・・・。」

そう・・・だったの?

私、何があっても捺騎君を嫌いになんてなったりしないのに。

それに、こんな私を、また好きって言ってくれた・・・。

「あ、ありがとう・・・。」

「?どうして、卯月がお礼を言うの?ここ、どっちかっていうと僕じゃない?」

「あっ、そだよね。ごめんね。」

「・・・謝らないでよ。」

「えへへ、ごめんね。」

私が言うと、捺騎君はため息をつきながらも笑った。

その時、トクン―――――・・・。

また、私の胸が高鳴った。

どうしたんだろ、私。

最近、ずっと思ってる。

私、どうしちゃったんだろうって・・・。