数日後、私と芽美は河浦高校の門の前に立っていた。

私と芽美の志望校が河浦高校って捺騎君に話したら、一度学校見学においでって言ってくれたの。

「卯月、芽美!こっち!」

あ、捺騎君だ。

捺騎君の方に駆け寄ろうとすると、どしゃん!

またコケちゃった・・・。

「あははっ、捺騎の友達って、こいつ?おもしれーな。」

ほえ?

ふっと上を見上げると、顔立ちの整った男の子が立っていた。

えと、誰だろ・・・?

「あ、卯月、ごめんね。この人は、僕の親友の小笠原恵太(おがさわらけいた)。悪いやつじゃないんだけど・・・。」

「だって、おもしれーんだもん!」

あ、そうですか・・・。

「ちょっと卯月、大丈夫?またコケたねぇ。」

「えへへ、だいじょぶだいじょぶ。」

ちょっとすりむいちゃったけど・・・。

「あれ?この子も捺騎の友達?」

恵太君が、芽美を見て言う。

「うん、そう。芽美。こっちが、卯月。」

「へえ、可愛いじゃん。何だよ捺騎、嘘つきやがって。」

恵太君、私なんかまるで眼中にないように芽美を見つめてる。

「嘘?」

芽美がけげんそうな顔をして言うと、捺騎君が慌てて弁解しはじめる。

「ち、違うんだよ。聞かない方が・・・。」

「こいつ、芽美は騒がしくて乱暴だって言ってたんだぜ。でも、イメージと全然違うじゃん。」

「捺騎~。」

わわっ、芽美、怒らないで!

「もうっ、全くあんたは!」

芽美が、捺騎君を追いかけまわす。

あーあ、芽美、怒っちゃった・・・。


「で、こっちが高校の校舎。」

「へぇ~、きれいだね~。」

いいなぁ、この学校に通いたい。

今日、心底思った。

「それにしても、卯月がここの学校志望だったなんて、驚いた。」

ふと、捺騎君が振り返って言う。

「うん、捺騎君と同じ学校に通ったら、楽しそうだなって。」

「そっか。」

私たちの会話を聞いていた恵太君と芽美が、何やらこそこそ話してる。

「卯月ちゃんも、相当の天然?」

「うん、かも。卯月と捺騎見てると、小学校の頃からもどかしいっていうか、だんだんイライラしてくる。」

「あはは、分かる~。オレも捺騎と初めて会った時、何この天然男って思ったもん。」

えっと、捺騎君って天然なのかな?

普通だと思うけど・・・。

「卯月、後ちょっとしたら、絶対来てね。」

捺騎君が、無邪気な笑顔で言う。

「うん、絶対行く!」

だから私も、精一杯の笑顔で返した。


「私、河浦高校に行きたいです。」

先生との三者面談で、志望校を伝える。

「・・・そうか、やっと決めたか。」

ふうっと、先生が大きなため息をつく。

「全く、佐倉とお前には本当にはらはらさせられっぱなしだよ。ギリギリまで志望校は言わないし。でも、決めたか。」

「はい。」

私、本当に河浦高校に行きたい。

恵太君っていうお友達も出来たし。

何より、捺騎君と同じ学校だったら、楽しく過ごせると思うんだ。

「でもなぁ、せっかく自分の意思で決めてくれたのにこんなこと言うのも何だが、今の成績じゃちょっと危ない。」

「え?」

「努力圏だ。今年は倍率が高いから、今度の学年末テスト、頑張ってくれなきゃもしかしたら・・・。」

落ちる?

え・・・どうしよう。

まさか、ここまで自分の成績が悪いなんて思ってなかった。

「お前の成績が悪いんじゃない。河浦高校の偏差値が、ちょっと高めなんだ。」

そんな・・・。

そんなに頭のいい学校に、捺騎君は行ったの?

何だか、捺騎君との距離が広がった気がした。


よし、こうなったら、本気で勉強しなきゃ。

お母さんたちは許してくれたし、もうすぐ願書提出だし。

勉強と言えば、セリアだよね。

「あの、セリア・・・。」

「はい?何ですか?」

「勉強、教えてもらっていい?」

駄目、かな・・・。

セリアも、勉強忙しいもんね。

でも、意外にもあっさりとセリアはOKしてくれた。

「いいですよ。どこの高校志望なんですか?」

「あ、えっと・・・河浦高校。」

私、春はどこの高校でもいいって思ってたのにな。

自分に、志望校が出来るなんて。

「河浦って・・・捺騎の。」

「うん、そう。でも、先生に努力圏って言われちゃって。」

ちょっと、ショックだな。

「・・・卯月は、ケアレスミスが多いんですよ。それって、この前の模擬試験の結果から算出したものじゃないですか?」

「多分そう。でも、模擬試験で努力圏だと、危ないよね・・・。」

「平気です。ケアレスミスを直すだけで、10点は上がりますよ。」

え?10点も?

「それだけ上がれば、安全圏に入れるかもです。そしたら、受かるのだって夢じゃないですよ。」

受験って、そういうものなんだ・・・。

何か、ちょっと緊張しすぎてたかも。

「卯月は、自分がケアレスミスをする理由はなんだと思いますか?」

「緊張しちゃうのかな。自信がないの。」

せめて、二重人格の私だったら自信あるかもなのにな・・・。

「それだったら、簡単です。とにかく、問題を解く。これで、自信はつきます。」

え?そんなものなんだ。

何だか、感動~。

セリアって、すごいんだね。さすが。

「セリアは、どこの学校行くの?」

「県立芹田高校。第二志望は、卯月と同じで河浦高校です。」

芹田高校って・・・学年トップとかだけが推薦される、ここら辺で一番頭のいい学校だよね。

やっぱり、セリアってすごい。

チャレンジ精神もすごいし、もともと頭いいもんね。

「頑張って。セリアなら行けるよ、絶対!」

「芹田高校は、甘くないですからね。分からないけど、やってみます。」

セリアは微笑みながら言った。

私、自分が言った言葉の意味、この時はまだよく分かってなかったんだ。


セリアが受かるってことは、セリアと別れなければいけないってことなのに――――・・・。