「あれ?卯月、こんなとこで何してんの?」

部屋に帰ろうとしていた雅君が、私を見つけて声をかけてくる。

「あ・・・雅君。」

「!?何泣いてんだよ、お前。」

雅君が、驚きの声を上げる。

「あ、だいじょぶだよ。ちょっと、あくびしてただけ。」

「そ・・・か?なら、いいけど・・・。」

雅君が、疑わしそうに私を見る。

・・・雅君、私の癖、気づいてないな。

別に気づいて欲しいわけじゃないけど、何となく捺騎君がすごいなって思っただけ。

心配して言ってくれたのに、私、最悪な態度だったよね・・・。

「卯月、部屋戻んないのか?」

「あ、もうちょっとしたら行くよ。先に行ってて。」

「そ?じゃ、また後でな。」

雅君が、早足で去っていく。

・・・私も、戻らなきゃ。

ちゃんと謝れば、捺騎君なら許してくれるよね。

部屋に戻ろうとして、振り返ると。

「わっ!?・・・捺騎君。」

「卯月・・・、ごめんっ!」

・・・へ?

「オレ、卯月が言いたくないこと無理矢理言わせようとして。最低だよね、ごめん。」

捺騎君が頭を下げる。

そんな・・・。

「私が悪いんだよ。私こそ、ごめん。捺騎君は心配してくれてたのに・・・。」

「ううん。・・・正直言うとさ。」

捺騎君がうつむく。

「何?」

「・・・いや、何でもない。戻ろ?」

私は少し気になったけど、素直に頷いた。

「うん。」

さっき、セリアたちが話してたことなんて、すっかり忘れてたんだけど・・・。


「あれ?芽美は?」

次の日学校に行くと、セリアが自分の机に向かって本を読んでいた。

普段だったら、芽美と話してるのに・・・。

「風邪で休みです。昨日の疲れがたまったんでしょうね。」

「昨日の疲れ?ああ、雅君と相当騒いでたもんね。そっかぁ、休みかぁ・・・。」

ちょっとがっかりだな。

「・・・まあ、それだけじゃないと思いますけど・・・。」

「へ?何か言った?」

「いえ、別に。」

何だか最近、セリア冷たいんだよ。

私、何かしたかなぁ・・・?


ピンポーン。

芽美の家のインターホンを鳴らす。

「出ないね。」

「留守かな?」

今日は、昨日のメンバーでお見舞いに来たんだ。

でも芽美が、なかなか出なくて・・・。

「は~い・・・。」

「あ、芽美!私だよ、卯月。だいじょぶ?」

やっと出てきたのは、力なさそうな芽美だった。

えっと・・・お家の人、いないのかな?

「芽美、一人?」

「うん。うち、両親共働きだから。迷惑かけちゃいけないしね。」

それで、こんな日に一人で家で留守番してるの?

こんな状態で?

だって芽美、ふらふらで今にも倒れそう・・・。

「・・・ねえ、芽美。」

私、思わず声をかける。

「もっと、頼っていいんだよ。」

「え?」

「お家の人は忙しいかもしれないけど、こんな日ぐらい甘えちゃいなよ。ね?それに、私たちもいろいろ協力するし。私たちのことも、頼って欲しいな。」

これは、本音。

芽美ってたまに、一人で頑張りすぎるところがある。

本当は頼りたくて、甘えたくて、なのにしまいこんじゃうの。

そんなの、駄目だよ。

芽美には、こんなにも仲間がいるんだから。

私とセリアが連絡しただけで、捺騎君も雅君も集まってくれるんだから。

「私も、そう思いますよ。」

「セリア・・・。」

「私、こんなに仲間がいるのって幸せなんだと思います。普段はそれが当たり前でも、ふとした時に仲間の大切さに気づくんです。私は一度、後戻り出来ないことをしてしまったから・・・。」

え?

私を含め、みんながセリアに注目する。

「・・・転校する直前に、向こうの親友とケンカしてしまったんです。些細なことでした。確か、時間割を間違えて教えてしまったとか何とか。私、まだ明日も明後日も会えるって信じてたんで、その時は深く考えずにケンカ別れになりました。でも、次の日――――・・・。」

セリアは少しうつむいて、声のトーンを落とす。

「その親友、虐待を受けて死んじゃったんです。」

「えっ・・・。」

みんなが、言葉を失う。

「何も知らなかった。私、何も聞いてなかった。相談もされてなかったから・・・。気づいてあげられなかったの、彼女の痛み、苦しみに。」

もう誰も、セリアの話に口だしする人はいなかった。

セリアが、涙を流したから――――・・・。

「もう、あの頃には戻れない。やり直せない。そのことが、私の心をどんなに締め付けたことか・・・。だから芽美、仲間は大切にして。頼っていいんです。じゃないと、その後で大切な仲間が苦しむことになるんです。」

芽美は黙った。

私たちも、黙っていた。

セリアに、そんな過去があるなんて知らなかった・・・。

私だって、まだセリアのことよく知らない。

セリアって、基本何も話してくれないから。

でも、芽美とはずっと一緒だったじゃない。

私が分かってあげれなくて、誰が分かってくれるの?

失敗はしたくない。

でも、後悔はもっとしたくない。

「芽美、今日は帰るね。もしも誰かに何かを吐き出したくなったら、すぐ電話して。みんな、芽美の味方だから・・・。」

芽美は涙目になってから、こくんと頷く。

・・・良かった。

また少し、芽美との距離が縮まった気がするんだ。