「あ、捺騎君からメール来てる。」

えっと・・・1時間前ってことは、丁度私たちが帰りの会やってる時だね。

「まーた捺騎とメール?飽きないねぇ、卯月。」

学校からの帰り道。

私と芽美は部活やってないから、毎日授業が終わったら一緒に帰ってるんだ。

「全然飽きないよ。だって、捺騎君からのメールっておもしろくて楽しいんだもん。」

「それが恋に発展すれば・・・。」

「何か言った?芽美。」

「いや、別に。」

同窓会から1ヵ月、新緑が風に揺れている。

ふう、もう5月だな。

思わず、ため息がもれる。

学校では、進路希望調査なんていうのがもうすぐあるらしいけど・・・。

お父さんとお母さんは、やっぱり親子なのかな、私と同じで結構のんびりしてる。

「卯月の将来は卯月が決めること」、「何があってもとりあえず大丈夫」。

何だか、みんなが一生懸命勉強してるのが、他人事みたいに見えちゃうの。

特に行きたい高校はないし、将来の夢もない。

強いて言えば、「人の役に立つ仕事」がしたい、かな。

「あ、そうだ、芽美。」

「何?」

「今度ね、捺騎君がまた集まらないかって。少人数で。だから、一緒に行こう。」

さっきのメールは、そのこと。

男子と女子2、3人ずつでボーリング場行こうってメールが来てたんだ。

「私はいいけど・・・。卯月、捺騎と2人じゃなくていいの?」

「へ?何で?みんなの方が楽しいよ。」

私の言葉に、今度は芽美がため息をついた。


「卯月ー!こっちこっち。」

道路の向こう側で、捺騎君が手を振ってる。

今日は予定通り、芽美と捺騎君とボーリングに行く。

藤城雅(ふじしろみやび)君もいるんだ。

「しっかし、卯月って本当に何も変わってないな。そのぽけーっとした雰囲気とかさ。」

雅君がそう言うから、私はちょっと言い返した。

「身長が、1㎝のびたよ。」

「わはは、3年間で1㎝!笑える!」

どうしてか、爆笑されちゃった・・・。


「卯月、疲れた?」

捺騎君が、私の隣に腰かける。

前の方では、雅君と芽美がボーリングで盛り上がっていた。

「え?全然平気だよ。とっても楽しい。」

「だって、さっきからうつむいてるからさ。大丈夫?」

何か、不思議だな。

捺騎君にはどうしてか、小学校の時からばれてしまう。

「・・・実は、考え事してたの。」

「考え事?」

「うん、よく私、二重人格って言われるじゃない?どっちが本当の私なのかなって・・・。」

そう、本当は、同窓会の時言われてから、ずっと気になっていた。

どっちかの私は、偽者なの?って・・・。

「どっちも本当の卯月だと思うよ。」

「へ?」

「僕はそう思う。どっちも、本当の卯月だよ。僕は、どっちの卯月も好きだけど。」

微笑みながら、捺騎君が言う。

ありがとう、捺騎君。

捺騎君の優しさが胸にしみる。

だって、どっちの私も好きって言ってくれたの、捺騎君が初めてなんだもの。

嬉しくて、涙がこぼれてきそうだったから、私は慌てて席を立った。

「私、ジュース買ってくるね。」

「うん、行ってらっしゃい。」

捺騎君の優しい声が胸に響いて、また私の心はトクンと波打った。

ねえ、こういう気持ち、何ていうのかな・・・?


ガコン!

ボーリング場の外にある自動販売機で、私はジュースを買う。

ふう、ちょっと気持ちが落ち着いてきた。

これも、捺騎君のおかげかな。

「ねえ、彼女。」

「ほえ?」

振り向くと、背の高い男の人2人が立っていた。

「ほえ?だって。かーわいい♪」

「ねえ、オレたちと遊ばない?おごるからさー。」

んんっと、こういうのなんていうんだっけ・・・?

でも、今は捺騎君たちと遊んでるんだし、断らなきゃだよね。

「ごめんなさい、友達が待ってるんで・・・。」

「そんなこと言わずにさー、ね?」

どうしよう・・・。

・・・あ!思い出した!

こういうのって・・・。

「なんばんって言うんだよね!」

「は?」

「南蛮?」

あれ?違ったかな?

じゃあ、ひんぱん?しんぱん?

「もしかして・・・ナンパって言いたいの?」

「あ!そっか、なんぱかぁ。」

また間違ってた、えへへ。

「何この子、超天然で可愛すぎね?」

「オレらと遊ぼうよ、友達なんか放っといてさ。」

でも、芽美たちを放っておくわけにはいかないよ。

みんな、大切な友達だもん。

「だから、ごめんなさい。」

「えー、いいじゃん。行こ行こ。」

腕がぐいっと引っ張られる。

わわっ、連れていかれるっ!

「・・・離しなさいよ。」

「は?」

「離せって言ってるでしょうが、このクズどもがっ!」

バシッ。

男どもを、壁にたたきつける。

「あんたら、さっきからしつこいんだよ。可愛い可愛い言ってる暇あったら、ゴミ収集場にでも行ってゴミに埋もれてくるんだな!」

「なっ・・・。こいつ、性格がさっきとまるで別人だぜ。」

「二重人格かよ!?」

ちっ、いちいちうるせーな。

「何か文句あるか、え!?」

「ひぃっ、ごめんなさい!」

「まっ、待てよ、置いてくなよ!」

男の背中がどんどん遠ざかっていく。

・・・あれ?

私今、何してたんだっけ?

ジュース買いにきて、男の人たちと会って・・・。

「大丈夫、卯月!?」

「あれ?捺騎君。どうしてここに?」

捺騎君が、息を切らせて走ってくる。

「あまりに帰りが遅いから、心配で。・・・ごめんね、僕、守れなくて。卯月、今また二重人格で・・・。」

「ああ、二重人格で追い払ったんだ!」

そっかそっか、すっきりした。

「・・・もう大丈夫なの?」

「え?何が?」

「だから・・・二重人格。」

捺騎君が言いにくそうにする。

「あ、もう平気。心配かけてごめんね。捺騎君のおかげだよ!」

うん、ちょっと気になるけど、もう平気。

こんな部分まで含めて、好いてくれる人がいるんだもん。

大丈夫だよ。

「さ、芽美たちのとこ戻ろ!捺騎君までいなくなってたら、びっくりしちゃうよ。」

「うん。」

どうしてだろう?

私、捺騎君の前だと、自然な自分でいられる気がする。