「えーっ!神子、先輩と遊園地行ったの!?」
夏休みが明けて、麻紀にあの日のことを話す。
「いいなぁ。」
「でも、何もなかったから。先輩、何か言いかけてたけど・・・。」
本当にあの時、何を言おうとしてたんだろ?
ずっと、気になってるんだ。
「あ、そういえば、トロンボーン志望の子、来たよ!」
「え!本当?早いね。」
麻紀って、本当に手が早い。
行動力が、すごいあるんだよね。
「神子も会いに行く?ほら、一応会ってみた方がいいじゃん?」
麻紀に提案されて、私は即座に頷いた。
「うん、行く!何組?」
「1年5組らしいんだけどね、ちょっと名前が気になってて・・・。」
名前?
「三谷唆希哉(みたにさきや)っていうらしいの。」
三谷・・・?
もしかして、先輩の弟?
「まあ、とりあえず話は行ってからだよ。行こ。」
「うん・・・。」
先輩、弟なんていたの?
全然知らなかった・・・。
1年5組の教室。
ここ、桃華ちゃんのクラスだったんだよね・・・。
思い出して、ちょっと悲しくなる。
桃華ちゃん、元気にしてるかな・・・?
「あ、もしかして、神子さん?」
え?
今、誰かに名前を呼ばれたような・・・。
「ここだっつの!」
下の方から、苛立った声が聞こえる。
声のする方を向くと、小さい男の子が立っていた。
うわ、背丈は全然違うけど、顔は先輩そっくり・・・。
「もしかして・・・三谷唆希哉君?」
「そうだけど。あんた、如月神子でしょ?」
うっわ、生意気。
この子、後輩になるの?
「どうして、私のこと・・・。」
「兄ちゃん・・・啓明から、よく聞いてたんだ。おもしろくて、変な後輩がいるって。」
うう・・・。啓明先輩、私のことそんな風に思ってるんだ・・・。
おもしろいって、どういう意味!?
「そうだ、唆希哉君、トロンボーンに入ってくれるって本当?」
「うん、兄ちゃんに教えてもらってたから、ちょっとは吹けるよ。今日から早速行くよ。」
・・・この子、敬語というものを一から叩きなおした方がいいんじゃ・・・。
「じゃあ、よろしくね。さ、神子、行くよ。」
「ええっ!?麻紀、待ってよ~。」
麻紀がその場から身を翻したから、私は急いで追いかけた。
「今日からトロンボーンパートに入ることになった・・・。」
「三谷唆希哉ですっ!よろしく!」
ざわざわ。
2,3年生のなかで、不穏な空気が流れる。
あーあ、やっぱり敬語、注意しておくべきだった・・・。
「あ、神子、トロンボーンのパート教室教えて!」
なつっこい笑顔で、私に駆け寄って来る。
「あのさ、唆希哉君・・・。敬語って、知ってる?」
「へ?知ってるけど。だから、何?」
はぁ、駄目だこりゃ・・・。
「オレは敬語を使う気はないし、態度を改める気もない。たった1学年違うだけでいばられるのも嫌いだしな。」
うん、こういう人の目を気にしないところは、啓明先輩に似てるね。
何だか、啓明先輩が帰って来た感じ。
そう思って、ちょっと嬉しくなる。
「早く歩けよ、トロ神子!」
生意気、だけどね・・・。
でも、楽器を持たせてみて、驚いた。
嘘でしょ?
最初からフォーム決まってるし、音もすごく出てて音色がいい・・・。
正直言うと、桃華ちゃんは抜かされてるかもしれない。
先輩には劣るけど、1年生とは思えない。
先生も、心底驚いていた。
「ねえ、どうしてそんなに吹けるのに、今まで吹奏楽部に入らなかったの?」
私が聞くと、唆希哉君は不機嫌そうに答えた。
「オレ、団体行動とか苦手なんだよ。人に媚び売れないから、上下関係も苦手。だから、兄ちゃんのを趣味で吹かせてもらってたんだけど・・・。桜木がいなくなって、トロンボーンパートがピンチって聞いたからさ、まあ入ってみようかなと。」
唆希哉君のそういうところ、本当に啓明先輩にそっくり。
人に媚び売らないところも、上下関係苦手なところも・・・。
「先輩もそうだったけど・・・唆希哉君って、生まれ持った才能があるよね。いいなぁ、そういうの。」
私が素直に言うと、唆希哉君は照れたようにふいとそっぽを向いてしまった。
もう、こういうところもそっくり・・・。
「唆希哉ー!頑張ってる?・・・あれ、神子?」
「あ、啓明先輩!来たんですね。」
?かたまっちゃって、どうしたんだろ?
「・・・神子、随分唆希哉と仲良いんだな。話しやすいだろ?」
「はい、とっても!ちょっと生意気だけど、ねー、唆希哉君。」
私が振り返ると、唆希哉君はまだうつむいていた。
「・・・大丈夫?」
私が唆希哉君に聞くと、なぜか教室には不穏な空気が流れた。
な、何?どうなってんの・・・?
「・・・神子って、鈍感・・・。」
唆希哉君が何か言ってたけど、よく聞き取れなかった。
でも、この空気の理由は、
後に分かるようになるんだよね――――・・・。