次の日、部活の時、先生から桃華ちゃんが転校したことを聞いた。
みんな驚いてたから、本当に誰にも言わずに行っちゃったんだな・・・。
「ついに、パート1人だよ。」
ボソッと、啓明先輩が言う。
そっか、何だかんだ言って桃華ちゃんがいなくなると寂しい部分もあるのか・・・。
「平気ですよ、啓明先輩なら一匹狼でやっていけますって。」
「それ、フォロー?」
啓明先輩が、少し笑顔になる。
良かった、啓明先輩が笑ってると、私も嬉しい。
でも確かに、啓明先輩がいなくなった後、トロンボーンがいなくなるのは厳しいな・・・。
「ね、麻紀。」
帰りのミーティングが終わってから、麻紀に声をかける。
「何?」
「あのさ、夏休みが明けたら勧誘しない?」
「はぁ?」
麻紀が、怪訝そうな顔をする。
「ほら、啓明先輩がいなくなった後、トロンボーンがいなくなっちゃうじゃん。だから、それまでにさ。」
「でも、トロンボーン限定でしょ?入るかなぁ。」
「平気だって!ねえ、一人だと心ぼそいの。お願いっ!」
私が必死で頼み込むと、麻紀は仕方ないなぁという顔で「分かった。」と言ってくれた。
「やった!じゃあ早速、家でチラシ作ってくるね!」
私は家まで、一目散に走っていった。
「ふっふふーん♪やっぱり麻紀は、頼りになるなぁ。」
鼻歌を歌いながらチラシを作ってると、弟の神太(かんた)が寄ってきた。
「姉ちゃん、随分ご機嫌だね。・・・っていうか、これ何!?」
神太が、私の作ったチラシを見て絶叫する。
「え?勧誘用のチラシ。トロンボーンだけど・・・。」
「と、トロンボーンってこんなにおぞましい物だったっけ・・・?」
しっ、失礼ね!
確かにちょっと、いやかなり私は絵が下手だけど・・・。
そんな言い方することないじゃない!
「貸して。直すよ。」
神太がてきぱきと作業を進めていく。
神太は小学校4年生なんだけど、とっても器用。
私と神太は、はっきり言って全然似てない。
神太は絶対文化系。
私はスポーツや体力を使う方が得意。
神太は美形。
私は愛嬌で何とか持ってますレベル。
小さい頃から2人の得意分野は違ったから、特に劣等感は抱いてない。
でもこういう時、本当はいいなって思ってるんだよね。
だって、こういうことが出来た方が女の子らしいじゃない。
神太は、スポーツが出来た方が男らしくていいって言うけど・・・。
ピンポーン。
その時、家のインターホンが鳴った。
「あれ?お母さんたち、もう帰って来たのかな?」
「違うと思うけど・・・。姉ちゃん、ちょっと出てきて。」
はいはい、偉そうに言うよ、全く。
でも、今9時なのに、誰だろ?
お父さんとお母さんは共働きだから、いつも帰ってくるのは夜の10時頃。
だから普段は、神太と2人で夜を過ごしてるんだ。
でも、日曜日はちゃんと休みを取ってくれてるから、不満はないよ。
「はーい。」
ガチャリとドアを開けると、そこに立っていたのは・・・。
「麻紀!?」
「う・・・っ。どうしよう、神子・・・。」
しかも、泣いてる。
あんなに気が強い麻紀が泣いてるなんて・・・。
何があったの!?